
平出和也と中島健郎、K2西壁への軌跡をたどる
もし登れなくても、次世代に
平出・中島と旧知の仲である山岳気象予報士の猪熊隆之は、二人に協力したく気象予報をすることを申し出ていた。日々の予報をインリーチで現場に送り、二人からは現地の天気がフィードバックされていた。それによると、彼らが出発した24日こそBCで一時雨であったが、以降天気は回復。まさに猪熊がサミットプッシュローテーションとして最適と予報した通りになった。二人からは25日のC1は「風、穏やか」と連絡があり、26日のBCも穏やかな天候だった。二人の計画は、ルート工作や予備日を含むが、29日に登頂し、8月1日にはBCに帰還する予定だった。
「滑落」の理由や状況はわからない。出発前平出は、「ルンゼ状ではあるが、中央を避けて登るなど必ずベターな抜け道があるはず」と話していたが、岩などの落下物に当たったのかもしれないし、そのほかの理由によるかもしれない。
石井スポーツは、事故直後から2機のヘリコプターを飛ばし上空からの救助の可能性を探っていたが、現場の状況が厳しくヘリからも地上からも救助が困難な状況であると判断。事故発生から3日経っても二人にまったく動きがないことも考慮し、救助を断念することを発表した。
K2西壁はマカルー西壁と並んで、8000m峰に残された最難関の課題だ。平出・中島がK2西壁を訪れたのは、2018年と2022年。対岸などから観察、偵察をした。一回のトライで登れるかわからない難関であることは理解していたし、平出は出発前、もし登れなくても、次世代に引き継ぎたい課題であるとも話していた。
プロフィール
柏 澄子(かしわ・すみこ)
登山全般、世界各地の山岳地域のことをテーマにしたフリーランスライター。クライマーなど人物インタビューや野外医療、登山医学に関する記事を多数執筆。著書に『彼女たちの山』(山と溪谷社)。
(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。
(写真=渡辺洋一)
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