
平出和也と中島健郎、K2西壁への軌跡をたどる
カメラマンとしての活動
また、二人とも、山岳カメラマンとしても活躍した。平出の動画撮影は、学生時代にさかのぼる。前述のシブリンからは本格的に自分の登山を記録し始めた。中島は父が版画の摺り師、母が染色家という両親の元に育ったことが影響しているのか、彼が撮る写真には絵心があった。そんな二人は、竹内洋岳の8000m峰14座も撮影している。平出はガッシャブルムⅡ峰(8068m)とブロードピーク(8047m、共にパキスタン)、中島はチョ・オユー(8201m)とダウラギリ(8167m、共にネパール)を撮影した。田中陽希の「グレートトラバース」(TV番組)では、平出は100名山、200名山、300名山全シリーズの撮影に参加。中島は前者2つに参加した。田中にとっても信頼できる撮影クルーだった。
この夏も開催されたトランスアルプスジャパンレース(TJAR)の撮影にも参加していた。TJARを4連覇した望月将悟と平出から、同時に同じような話を聞いたことがある。2022年、平出と中島はカールンコー(6977m、パキスタン)の未踏ルートである北西壁を予定していたが、TJARの撮影に参加するために出発を1週間ほど遅らせた。撮影を終えた平出の第一声は、「出発を遅らせてよかったですよ。今回も望月さんを撮影できました」だった。一方の望月は、「平出さんは赤石岳で待ち受けていましたね。会えると思っていたから、あれも聞きたい、こんな話もしたいとレース前から頭がいっぱいだったんですよ」という。小赤石岳から赤石岳への激登りがある。それを平出はカメラを構え後ろ向きで歩きながら、望月の正面をとらえ、登っていくのだ。
2017年、ビッグマウンテンスキーヤーである佐々木大輔がデナリ(6190m、アメリカ)カシンリッジを登攀し、南西壁を大滑降するプロジェクトに二人が参加したときも、佐々木と心の交流があった(ボリュームの都合上、詳細は次号『ROCK & SNOW』へ)。かねてより「カメラマンは、アスリートを追う一等席」と平出は言っていたが、並外れた身体能力と好奇心が成せることだったのだろうか。
プロフィール
柏 澄子(かしわ・すみこ)
登山全般、世界各地の山岳地域のことをテーマにしたフリーランスライター。クライマーなど人物インタビューや野外医療、登山医学に関する記事を多数執筆。著書に『彼女たちの山』(山と溪谷社)。
(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。
(写真=渡辺洋一)
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