丹沢・大山を登ったら、豆腐料理の名店で「自分にご褒美」
丹沢・大山といったら「豆腐」
関東でも登山者に人気の高い山であり、古くから山岳信仰の山としても知られる丹沢・大山。
大山の名物として知られているのが「豆腐」だ。
江戸時代、霊峰大山に参詣に訪れた人たちを受け入れた山麓の宿で、精進料理である豆腐料理がふるまわれていたのが始まりと言われている。大山の良質な水で作り出される豆腐は、現在では関東近郊のスーパーでも販売される人気商品でもある。
大山ケーブルバス停からケーブルカーの山麓駅に向かう、通称こま参道には、多くの土産物店や宿泊施設、茶店、そして豆腐料理の店が立ち並んでいる。「豆腐」と書かれた看板をあちこちに眺めながら石段を登っていくうちに「山から降りたら豆腐を食べて帰る」と刷り込まれていくような気がする。
大山周辺では「豆腐のコース料理」が味わえる店が多い。多くは、3品、5品、7品のいずれかを選ぶシステム。ごま豆腐や白和え、ゆば、湯豆腐など、料理は店により、季節により多少異なる。下山メシと考えるとお値段は若干お高く、高級感が漂ってしまうのであるが、いい感じに歩けて少し早めに下山できると「自分にご褒美」をあげたくなるのだ。
私のお気に入りは、こま参道の入り口に建つ和仲荘。かつて宿坊だったという風情あふれるたたずまいの店だ。正直なところ、下山後であまりきれいとは言えない身なりでは多少気が引けるが、いつも「どうぞ」とやさしく声をかけてもらえてほっとする。
この店も3品、5品、7品のラインナップ。いずれも豆腐料理で、ご飯やそばは別注文となる。
多くの人がオーダーするのが5品コース。5つの豆腐料理が順を追って供される。冷たいものは冷たいままで、熱いものは熱いうちに。
おおよそ定番のメニューだが、季節により冷たい氷室とうふや、
季節の具材を使った白和えが出ることもある。
たまには贅沢に下山メシをかみしめるのもいい
冷や奴の上に山芋や山菜がたっぷりと乗った滋味あふれる山かけ豆腐、こっくりと風味豊かなごま豆腐、細かく刻んだ野菜と豆腐をオーブンで焼いた「ぎせ豆腐」。上品な盛りつけではあるけれど、口にすると洗練され過ぎていないやさしい味わいにほっとする。料亭のよそいきの味ではなく、家庭の味に近いような。山を歩いて適度に疲れた体に、やさしく染み渡っていくような気がする。料理が盛りつけられた器も素敵な和の趣で、ついつい魅入ってしまう。
ふたつきの器で供される豆腐グラタンがちょっと驚き。豆腐なのにグラタン?和食? しかしこれもまた優しい味。こってりしすぎないホワイトソースの下に、アツアツの豆腐。おもしろいなぁ、どうしてこんな組み合わせを思いつくんだろう。そして最後に供される蒸し豆腐は、そばや卵、海老などの下に豆腐が隠れている、これまた具だくさんで楽しげな一品。
「豆腐だけじゃあ、お腹いっぱいにならないよね」
初めはそう思って食べ始めるけれど、食べ終えるとお腹も心も、心地よく満たされている。たまには贅沢に、心穏やかに下山メシをかみしめるのもいいものだ。
ちなみに、参道沿いの茶店にふらっと立ち寄って、豆腐料理をつまみに酒を味わうのもいい。こちらの話はまた別の機会に。
今日のお店
和仲荘
住所:神奈川県伊勢原市大山580
電話番号:0463-95-2028
プロフィール
西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)
初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きから沢登り、雪山登山まで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。
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登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。
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