信州の田舎暮らしのグルメ事情。昆虫食からポルチーニまで

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辺りはどの田んぼも稲刈りが終わり、地元産のおいしい新米が食べられる季節になりました。恥ずかしながら長野県に移住するまでは、「はぜ掛け」という言葉を知りませんでした。はぜ掛けとは、刈り取った稲の束をはぜ棒にかけて天日干しにすることで、その光景はいかにも日本の原風景といった感じです。こちらに来ていろいろな楽しみができましたが、その一つが食べること。おいしいものに目がない私にとっては楽園のようで、この土地でしか食べられない信州の「食」はとても魅力です。今回は、「田舎暮らしのグルメ事情」について紹介します。

文・写真=鈴木俊輔

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はぜ掛けと、後方にそびえる爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳
はぜ掛けと、後方にそびえる爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳

おやつは漬物。信州ならではの「おこひるカルチャー」

こちらに移り住んで驚いたのは、「お小昼(おこひる)」という信州ならではのカルチャー。農作業の合間に食べるおやつのことで、お昼過ぎくらいに家に呼ばれると、お茶と一緒に漬物や果物などをご馳走になることが多いです。

最初は「おやつに漬物?」と思いましたが、自家製の野沢菜漬けや甘い味付けの梅漬けはお茶請けにぴったり。同じ漬物でも作り方や味付けはさまざまで、各家庭によって個性があるのが楽しいです。

知人に教わりながら作った野沢菜漬け
知人に教わりながら作った野沢菜漬け

信州に移住して出合った郷土食「灰焼きおやき」

こちらに来て出合ったおいしい食べ物といえば、「灰焼きおやき」。おやきは信州の郷土食として有名ですが、私がそれまで知っていたおやきは、まんじゅうのように蒸したもの。それが、私が住んでいる地域では、おやきといえば灰焼きおやきが一般的です。

これは、小麦粉の生地に、ナスや野沢菜漬け、おからや切り干し大根などの具材を包んで焼いたもので、仕上げに熱々の灰の中に入れて蒸し焼きにします。昔は家に囲炉裏があり、特に山間の地域では各家庭で灰焼きおやきを作って食べたそうです。

できたての灰焼きおやきは外の皮がカチカチと固く、具材がたっぷりでずしりと重い。これをガブリとかじるとカリッと小気味よい音を立てて、中から具材が顔を出します。ボリューム満点で、2個も食べれば満腹です。

灰焼きおやき。具材は、信州みそで甘辛く味付けした鉄火ナス
灰焼きおやき。具材は、信州みそで甘辛く味付けした鉄火ナス

森はキノコの宝庫。スーパーでは見かけない珍しいものも

ちょうど今の時期はキノコシーズン。毎年秋になると、自治会や子どもの自然体験クラブなどでキノコ狩りがあり親子で参加しています。直売所に行くと、コウタケやクリタケ、ウラベニホテイシメジなど、スーパーでは見かけないような珍しいキノコが並んでいます。

あるとき、知り合いのキノコ取り名人から「アカヤマドリ」という珍しいキノコをいただきました。ずんぐりとした姿でサイズも大きく存在感あり。バターソテーにするとおいしいと聞き、その通りに調理していただきました。

キノコとは思えない濃厚な味わいに、うっとりするようなおいしさ。このキノコをネットで調べてみると、「ポルチーニ」の一種とのこと。まさか長野県で、とれたてのポルチーニを食べられるとは思ってもみませんでした。

わが家の近くの森に自生するキノコ
わが家の近くの森に自生するキノコ

酒蔵とワイナリーの数は全国で2番目に多い

長野県内には酒蔵が78カ所、ワイナリーは75カ所あり、共に全国で二番目に多く、私のようなお酒好きにはたまりません。やや値は張るので日常的には飲めませんが、県外から友人が遊びに来た際には、地酒でもてなしたりしています。

私が住む池田町にも酒蔵が2つとワイナリーが2つあります。北アルプスを望む高台では、シャルドネやメルロー、ピノノワールなどのワイン用ブドウが栽培されていて、まるでヨーロッパのような光景が広がっています。

池田町青木原。収穫前のワイン用ブドウと北アルプスの山々
池田町青木原。収穫前のワイン用ブドウと北アルプスの山々

信州ならではの珍味がいっぱい。ジビエと昆虫食

ジビエ料理を提供する洋食レストランもあり、食べやすく味付けした鹿肉は絶品。地元産の赤ワインがあれば言うことなしです。食に目がない私ですが、珍味系はあまり得意ではありません。地域おこし協力隊をしていたときに、ある集落での宴会に夫婦で呼んでいただいたことがありました。

参加者は農家や猟友会の方々で、食材は参加者が持ち寄った野菜やキノコ、鹿や熊の肉など地元食材満載です。そのなかには、ハチノコの佃煮も。これはスズメバチの幼虫を甘辛く煮たもので、イナゴ、ザザムシと並ぶ信州の3大珍味とされています。佃煮になっているものの、見た目は「蜂の子」そのもので、箸を付けられずに戸惑っていると、「おいしいから食べてごらん」と声を掛けられます。せっかくのご厚意を無下にはできないと妻にひじで突かれて、夫婦を代表してありがたくいただくことに。気が動転していたので味や食感は覚えていませんが、忘れられない思い出です。

大町市の農園カフェでいただいた鹿肉のキーマカレー
大町市の農園カフェでいただいた鹿肉のキーマカレー

食に関するエピソードは事欠かず、長野県に移住してから私の食生活はかなり愉快なことになっています。まだ出合っていない食材を求めて、美食探しは続きます。

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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