南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑧高知県の遍路道 区間ごとのアドバイス
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=塚地峠から見た、宇佐の集落と青龍寺のある横浪半島の宇都賀山
目次
【区間1】高知県県境から第二十八番大日寺 4泊5日公共交通の区切り:牟岐(むぎ)駅/阿波海南駅~後免(ごめん)駅
高知県に入り甲浦を過ぎると、遍路道はいよいよ長い海岸沿いの道になり、伏越ノ鼻(ふしごえのはな)を過ぎると初めて、はるかかなた30km先の室戸岬が見えてくる。ここからは、波の音を聴きながらひたすら歩く修行の道だ。ゴロゴロ休憩所に立つと、引く波で海岸の石がゴロゴロと鳴るのが聞こえておもしろい。
むろと廃校水族館、室戸世界ジオパークセンターを過ぎて長いロードが終わり、御蔵洞(みくろど)先から亜熱帯のジャングルを段丘に登ると、静かな森に包まれた第二十四番最御崎寺(ほつみさきじ)境内に入る。長い修行の道をひたすら歩き、弘法大師修行の地の寺に足を踏み入る感激は大きい。山門の南にある室戸岬灯台からは、太平洋の大パノラマが広がっている。
室戸岬から野中兼山(前回コラム「高知県の遍路道 概要と特徴」参照)築港による立派な津呂(つろ)港脇を通り、小高い丘の上にあるかわいらしい第二十五番津照寺(しんしょうじ)へ。参拝後しばらく歩き、再び段丘に登ると第二十六番金剛頂寺(こんごうちょうじ)。金剛頂寺からの下りは2ルートあるが、ここはぜひ弘法大師修行の地である不動岩に下りてほしい。海岸をさらに進むと、かつて備長炭の集散地であり、重要伝統的建造物群保存地区に指定されている吉良川(きらがわ)の町に入る。その先の奈半利にも古い建物がある。
第二十七番神峯寺(こうのみねじ)は標高約430mにあり、かつて遍路ころがしに数えられていた山寺だ。現在も上部は山道だが、途中までは舗装道になっているので、それほど苦労を感じずに登れる。参拝後再び海岸線に戻り、防波堤歩道と自転車専用道路を延々と歩き、内陸に入る。香我美(かがみ)駅手前でごめん・なはり線を越え、高知平野に入って第二十八番大日寺(だいにちじ)にお参りする。大日寺からはそのまま遍路道を第二十九番国分寺 に向かって歩き、JR線の踏切手前から左に向かえば本区間の後免(ごめん)駅だ。
●アドバイス 区間のスタートは、第5回コラム「徳島県の遍路道 区間ごとのアドバイス」【区間4】で記したように、徳島県のJR牟岐線が通る牟岐駅か阿波海南駅がよいだろう(下記データは阿波海南駅発としている)。高知県境までの区間説明も、同コラムを参照してほしい。
本区間は基本的に一本道だが、分岐点が2カ所ある。1カ所目は本区間終盤の土佐湾側に入った後の、奈半利手前の中山峠だ。距離的には短いものの標高差約100mの峠越えで、山道を楽しめるが時間はかかる。海岸線沿いの国道は平坦で楽だ。2カ所目は、神峯寺の先から海岸線に戻った後の、高知までの防波堤歩道と自転車専用道路を利用する長い区間で、この2つの道は単調さは否めないが、国道の自動車騒音からは解放される。
大日寺参拝前後で打ち止めとして航空機を利用し帰宅を考える場合、のいち駅から高知龍馬空港まで、高知駅に出ずに安価で所要時間も短い予約制のタクシーがあるので便利だ。JR利用の場合、後免駅は特急が停まるので打ち止めには好都合だ。後免駅への線路脇の道は、歩道がなく交通量が多いので注意しよう。
宿泊に関してだが、東洋町から先室戸岬まで遍路宿が非常に少ないので、計画を早めに立てて宿を予約する必要がある。また宍喰以降、コンビニエンスストアはまったくない。室戸岬に泊まった場合は、ぜひ夜に海岸に出て「弘法大師の口に飛び込んだ」金星(明星)を眺めよう。その先金剛頂寺の宿坊や、また歴史ある吉良川で泊まるのもよいだろう。室戸岬以降は宿は散在していて、特に大きな町には数軒ある。
また第6回コラム「南海トラフ地震と遍路」に書いたように、阿波海南~夜須(やす)間は、大津波が発生した場合に区域外に脱出が困難な区間であることを念頭に歩く必要がある。
MAP&DATA
阿波海南駅・・・海部川橋・・・那佐湾・・・道の駅宍喰温泉前・・・古目大師・・・甲浦番所跡石碑・・・甲浦駅/海の駅東洋町分岐・・・生見簡易郵便局(周辺で宿泊想定)
【2日目】
生見簡易郵便局・・・明徳寺(東洋大師)・・・ゴロゴロ休憩所・・・法海上人堂・・・入木川・・・尾崎川・・・鹿岡鼻(夫婦岩)・・・むろと廃校水族館・・・室戸世界ジオパークセンター・・・御蔵洞・・・第二十四番最御崎寺(周辺で宿泊想定)
【3日目】
第二十四番最御崎寺・・・室戸スカイライン入口・・・第二十五番津照寺・・・元川・・・第二十六番金剛頂寺・・・不動岩・・・吉良川・・・中山峠遍路道分岐点(周辺で宿泊想定)
【4日目】
中山峠遍路道分岐点・・・奈半利南遍路道分岐点・・・奈半利・・・安田町交差点・・・唐浜JR高架橋・・・第二十七番神峯寺・・・神峯寺遍路道国道復帰点・・・大山トンネル南分岐・・・防波堤歩道入口・・・伊尾木駅・・・安芸駅(周辺で宿泊想定)
【5日目】
安芸駅・・・自転車専用道路分岐・・・八流山極楽寺・・・和食駅・・・夜須道の駅・・・あかおか駅右折点・・・のいち駅前右折点・・・第二十八番大日寺・・・後免駅
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プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
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