北岳、間ノ岳縦走。日本で最も高い稜線から、神々しい御来光を満喫

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読者レポーターより登山レポをお届けします。真鍋晋さんは北岳(きただけ)と間ノ岳(あいのだけ)で日本最高の稜線歩き。

文・写真=真鍋 晋


国内2位の標高の北岳と、3位の間ノ岳をつなぐ約4kmの道のりは、日本で最も高い稜線と称される。このルートの最大の魅力は、その景観にある。仙丈岳(せんじょうだけ)、甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)、鳳凰三山(ほうおうさんざん)といった個性的な山容をもつ南アルプスの名峰がすぐ間近に立ち並び、少し先には富士山(ふじさん)がそびえ立つ。大迫力の景観を、見下ろすように闊歩できる、まさに“最高”の稜線歩きである。秋も深まった10月の連休に、テント泊登山でこの稜線を訪れる計画を立てた。

1日目:広河原~北岳~北岳山荘

登山口となる広河原(ひろがわら)まではマイカー規制があり、バスの利用が必要である。朝5時の始発に乗るため、まだ夜が明けぬ4時に芦安(あしやす)の駐車場に到着した。三連休の中日でもあり、この時間から駐車場は混雑しており、“第5駐車場”という少し離れた駐車場を案内された。満員のバスに乗り込み、6時30分広河原に到着した。広河原の標高は1512m、薄手の長袖パーカーでは肌寒く、ウィンドブレーカーを羽織った。

広河原から北岳を望む
広河原から北岳を望む

登山口から北岳山頂を眺望すると、木々が黄金色に色づき始めており、秋の訪れを感じさせた。野呂川(のろがわ)の激流を見下ろす長い吊橋を渡ると、いよいよ山行開始である。序盤から樹林帯の登坂が続く。2時間ほど登り続けて、ようやく白根御池(しらねおいけ)小屋に到着する。外に並んだテーブルで、軽食をとって小休止をとる。ここからは草スベリと呼ばれ、一段と勾配がきつくなる。

黄金色に色づく木々
黄金色に色づく木々

重い荷物を背負っての急登で、背中はびっしょりと汗ばんでくる。ただ時折吹き抜けるそよ風は冷たく、夏の山行よりずっと心地よい。2時間ほどで小太郎尾根分岐まで到達すると、視界が一気に広がる。ここから肩の小屋までは、傾斜は少し穏やかとなり、見晴らしのよい稜線歩きを楽しめる。11時20分、北岳肩の小屋に到着。少し早めのランチをいただく。ボリューム満点の大盛りカレーは、疲れた体に充分なエネルギーを与えてくれた。

北岳 肩の小屋までの稜線
北岳肩の小屋までの稜線

今日は北岳山頂を越えて、北岳山荘で宿泊の予定である。山頂まで岩場が続くが、危険な崖は少ない。30分ほどで山頂に到着したが、ガスで展望が悪く、長居はせずに先を急いだ。13時30分北岳山荘に到着。テント場は少し混雑しており、小屋近くのやや高台にテントを設営した。テント内で少し横になるつもりが、疲れのせいか16時まで眠ってしまった。

北岳山荘のテント場
北岳山荘のテント場

小屋で缶ビールを購入し、持参したサーモンのつまみとレトルトのパスタで夕刻の一時を楽しんだ。この頃にうっすらと霧が晴れ、富士山が少し顔を出した。小屋の掲示板には最低気温-1℃と書かれていたが、日が暮れるとかなり冷え込んだ。持参した薄手のダウンジャケットでは肌寒く、頭まで寝袋に包まり就寝した。

2日目:北岳山荘~間ノ岳~北岳~広河原

翌朝は4時30分に起床、テントから顔を出すと、漆黒の闇の中に、無数の星がきらめいていた。持参したパンを手短に頬張り、アタックザックの軽装備で出発した。凍てつくような朝の寒さの中、ヘッドライトの明かりを頼りに、稜線を歩く。東の空がうっすらと白み始め、眼下に広がる雲海から富士山がぽっかり浮かんで見えた。5時30分に中白根山頂に到着。見晴らしのよい、小高い丘で、日の出を眺めるにはうってつけの場所に思われた。ほどなく御来光を迎え、南アルプスの名峰たちが神々しく、薄紅色に染まる。

中白根山頂から見る北岳
北岳
中白根山頂から見る甲斐駒ヶ岳
甲斐駒ヶ岳

中白根山頂から見えるこれらの山々は、いずれも山容が個性的で美しい。北岳は山頂が鋭角に尖って、折り目のような稜線が走る。甲斐駒ヶ岳は摩利支天(まりしてん)の出っ張りが隠れて、みごとな二等辺三角形を形づくる。仙丈ヶ岳は2つのカールをこちら側に向けている。この場所はこれらの名峰を眺めるために作られた、特別なステージではないかと思う。

御来光のひとときを堪能した後、間ノ岳へと向かう。稜線歩きとは言え、岩場の巻き道が多く、慎重に歩を進める。6時30分に間ノ岳山頂に到着した。山頂はかなり広く、見晴らしがとてもよい。

北岳山荘まで引き返し、手早くテントを撤収する。正直なところ、同じ道を往復するピストンルートは、復路が新鮮味に欠け、あまり好きではない。ただ今回の往路はガスでなにも見えなかったため、復路では視界が良好となり、新鮮な気持ちで帰ることができた。周囲に目をやると、ところどころ紅葉した木々が目につき、秋の訪れを楽しみながら、のんびり広河原へと向かった。今年の10月の連休は、紅葉にはまだ一足早かったようだが、それでも心地よい空気の中、爽快な稜線歩きを楽しむことができた。

間ノ岳山頂
間ノ岳山頂

(山行日程=2024年10月13~14日)

MAP&DATA

高低図
日数:1泊2日
コースタイム:【1日目】8時間25分
【2日目】8時間45分
行程:【1日目】
広河原・・・白根御池小屋・・・小太郎尾根分岐・・・北岳肩ノ小屋・・・北岳・・・北岳山荘
【2日目】
北岳山荘・・・中白峰・・・間ノ岳・・・中白峰・・・北岳山荘・・・北岳・・・北岳肩ノ小屋・・・小太郎尾根分岐・・・白根御池小屋・・・広河原
総歩行距離:約18,328m
累積標高差:上り 約2,585m 下り 約2,585m
コース定数:64
アドバイス:北岳周辺の山小屋は、2024年夏期営業はすでに終了。
真鍋 晋(読者レポーター)

真鍋 晋(読者レポーター)

普段は現役外科医、週末は登山・トレラン・ジョギング。じっと座っていることが、苦手な性分です。

この記事に登場する山

山梨県 / 赤石山脈北部

北岳 標高 3,193m

 日本で富士山に次いで高い山は白峰の北岳である。白峰は通称白峰三山と称し、3000mを抜く山5座が、南アルプスの北部に連なっている。すなわち北岳(3192m)、中白峰(3055m)、間ノ岳(3189m)、西農鳥岳(3050m)、農鳥岳(3026m)である。  この連山の最北にある故、北岳。当を得た山名である。古くは『平家物語』に「手越を過ぎて行きければ、北に遠ざかりて、雪白き山あり。問へば甲斐の白根と云ふ」と出ているが、果たして東海道筋から見えたであろうか。時代は下がり、『甲斐国志』(文化11年―1814年編)によれば「白峰、此山本州第一ノ高山ニシテ西方ノ鎮タリ。国風ニ詠スル所ノ、甲斐ヶ根コレニシテ(中略)南北ニ連ナリテ三峰アリ。其北方最モ高キモノヲ指シテ、今専ラ白峰ト稱ス」と記している。  同書によれば、「山上ニ日ノ神ヲ祀ル。其像黄金ヲ以テ鋳ル。長七寸許、容ルニ銅室ヲ以テス。高貳尺貳寸廣方八寸、其四隅ニ鈴ヲ掛ク、風吹ケハ声アリ」と大日如来を祭ってあることを載せている。明治41年7月、この頂に立った小島烏水は「奉納大日如来寛政七年乙卯六月(1794年)」と彫られた小鉄板のあったことを記録している。となれば『甲斐国志』の記事も本当かも知れない。  明治4年、地元、芦安村の行者、名取直江が里宮、中宮、奥宮を造営して開山したという。  登山者として最初にこの頂を踏んだのはウエストンで、明治35年8月23日のことであった。積雪期の初登頂は大正14年3月22日、京都三高山岳部のメンバーで、西堀栄三郎、桑原武夫、多田政忠、四手井綱彦の4人。野呂川両俣から右俣に入り、間ノ岳を経て頂上に立った。次いで3月28日、山梨の平賀文男が広河原から第2登を飾った。  最近は交通の便がよくなり、おそらく南アルプスの山の中で、一番人気のある山ではないだろうか。登山基地の広河原まで車で入れば、1泊2日でゆっくりと往復でき、雪渓あり、お花畑あり、しかも展望絶佳ときている。  展望は南、眼前にどっかと腰をすえた間ノ岳、これに重なり合うは、塩見岳や悪沢岳。南東の櫛形山の上に富士山、東側には鳳凰三山の上に奥秩父。その左には八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳。遠く白馬三山から槍・穂高、その左にずんぐりと仙丈ヶ岳、御岳山、中央アルプスが堪能できる。  登山コースは広河原から大樺沢二俣、小太郎尾根経由で6時間、同じく二俣から八本歯のコル経由で5時間強の登りで登頂可能。

山梨県 静岡県 / 赤石山脈北部

間ノ岳 標高 3,190m

 白峰三山の真ん中に位置するので間ノ岳とは、当を得た山名である。日本第3位の高峰であるにもかかわらず、極めて地味な山だが、赤石岳、仙丈ヶ岳とともに、大きな山容を見せている。山頂は広くて、通称、間ノ岳のドームといわれるほどで、悪天のとき、方向を間違えることさえある。  一般的に、この山だけを単独に登るということはあまりない。白峰三山縦走時、あるいは仙塩尾根を経て塩見岳へと抜ける際など登頂する。  この山頂からの展望は、北岳のそれと大差がない。しかし、南側から眺めた鋭角の北岳は、さすが南アルプスの王者の風格をもって昂然として迫ってくる。  間ノ岳は『甲斐国志』にその名が載っている。登山者としては、明治14年(1881)8月18日に、アーネスト・サトウが農鳥岳経由で登頂している(出典「日本旅行日記Ⅰ」東洋文庫)。積雪期では京都三高山岳部の西堀栄三郎ら4名が、大正14年3月22日、野呂川右俣をつめて頂上に出た。北岳に登頂の途次の通過であった。  この山を踏むためのベースとなるのは、北岳のコルにある北岳山荘で、ここから中白峰を経て2時間ほどで登頂できる。 ※2014年3月までは、日本第4位の標高の山とされていたが、測量方法の変更や地殻変動などにより1m高くなることが国土地理院より発表され、2014年4月1日より奥穂高岳と並んで日本第3位の標高の山となった(2014.04.01追記)。

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