
100年前の登山を追体験できる!国立映画アーカイブの映像資料で秋の夜長を楽しもう
日本で唯一の国立映画専門機関である国立映画アーカイブが所蔵する膨大な映像資料の中には、1900年代初頭の登山の記録など、貴重なものが多数ある。当時の登山の様子を克明に記録した映像は登山者必見だ。
文=西村 健(山と溪谷オンライン)、画像提供=国立映画アーカイブ
100年前の登山が映像で見られる!
背広にネクタイを締め、革製の鋲靴を履いた登山者が列をなして山を登っていく——。100年前の登山の様子を記録した映像が、現在ウェブで公開されている。戦前の登山の様子は山岳書籍などを通して知ることができるが、映像はよりリアルに当時の登山シーンを再現してくれる。
ウェブで映像を公開しているのは、国立映画アーカイブと国立情報学研究所が共同制作したウェブサイト「フィルムは記録する—国立映画アーカイブ歴史映像ポータル—」だ。映画の保存・研究・公開を行なう国立映画アーカイブでは現在87,000本の映画フィルムを所蔵・保管しており、同サイトでは劇場での上映や放送などでは公開しきれない歴史映像をスキャンし、デジタル化して公開している。
これらの映像資料の中には、1900年代初頭の登山の記録も含まれている。現在公開されている作品の中から、登山者必見のものを2つ紹介しよう。
残雪の立山でスキーも!『秩父宮殿下立山御登山』
「秩父宮」と聞けば、ピンと来る人は多いだろう。大正天皇の第二皇子で昭和天皇の弟にあたる秩父宮雍仁親王(ちちぶのみややすひとしんのう)は、スポーツや登山を愛したことで知られる。「秩父宮ラグビー場」はもちろん、北アルプスの抜戸岳(ぬけどだけ)〜大ノマ岳間にある「秩父平」や、「秩父宮記念山岳賞」、「秩父宮記念富士登山駅伝競走大会」など、没後70年経った今も、あちこちにその名を見ることができる。
その秩父宮殿下が1924年5月に立山に登った際の記録映画が1924(大正13)年の『秩父宮殿下立山御登山』(22分、サイレント、白黒)だ。芦峅寺(あしくらじ)を出発した秩父宮一行が室堂をへて、立山・雄山(おやま)に登り、浄土山(じょうどさん)でスキーに興じる様子を克明に記録している。人数は定かではないが、常願寺川(じょうがんじがわ)沿いを歩く行列は50人以上だろうか。皇族の登山とはいえドレスコードはさほど厳格ではなかったようで、背広にネクタイ姿が多いものの、ノーネクタイの人もいるし、歩き始めてしばらくすると、上着を脱ぎネクタイを外したシャツ姿が増えてくる。足元は巻ゲートルに鋲靴。人足は尻革をつけた猟師スタイルだ。スキーを背負った人がいたり、大きなザックに笠が下がっていたりと、和洋折衷の登山スタイルが興味深い。
100年前の登山とあって、芦峅寺からすべて徒歩。現在は立山黒部アルペンルートのケーブルカーやバスで通過してしまう美女坂(びじょざか)を登り、称名滝(しょうみょうだき)を見ながら徒歩やスキーで雪の弥陀ヶ原(みだがはら)を前進していく。室堂観測所(室堂気象観測所)の炉端で談笑する一行の様子は、現在の登山者と変わらず、リラックスして山小屋でのひとときを楽しんでいる雰囲気がうかがえる。アイゼンを着け、長いピッケルを手に雪の雄山に登ったり、浄土山の中腹でスキーを練習したりする一行の登山に加えて、映画にはみくりが池や地獄谷など、立山連峰の山々の景観も記録されている。
映像を見る
100年前の裏銀座コースをとらえた『日本アルプス縱走 烏帽子嶽より燒嶽へ』
文部省が1925年に初めて制作した山岳映画が『日本アルプス縱走 烏帽子嶽より燒嶽へ』(30分、サイレント、白黒)だ。烏帽子岳(えぼしだけ)から槍ヶ岳(やりがたけ)へと「裏銀座」(うらぎんざ)として今もなじみ深いコースをたどり、焼岳(やけだけ)にも登る縦走登山を克明に記録している。撮影補導は長野県松本女子師範学校教諭の小泉秀雄さん、「文部省活動寫眞斑」として委託されて撮影を行なったのは映画会社の東京シネマ商会だ。
ルートは青木湖と木崎湖の湖水めぐりに始まり、大町から高瀬川に沿って進み北アルプスへ。烏帽子岳、鷲羽岳(わしばだけ)、三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)、双六岳(すごろくだけ)、槍ヶ岳と縦走し、いったん上高地牧場に下って焼岳、大正池に至る。大町から雨中高瀬川沿いをアプローチするのは、ポンチョを着た登山家と大きな荷物を背負った人足。高瀬ダムに沈んだ幻の滝・不動滝も記録されている。ブナ立尾根とおぼしき烏帽子岳への急登から花崗岩と残雪の稜線へ。この映画では、稜線のライチョウ、岩を覆う地衣類、高山植物、地形など自然について解説も入り、北アルプス登山を多角的に知ることができる構成となっている。
鷲羽岳をへて槍ヶ岳・小槍を登攀し、馬が飼育される「上高地牧場」へ。登り返す焼岳は活発に火山活動を続けていたころで、山のあちこちから噴気が上がる様子が捉えられている。ピッケルを振るって火山灰にステップを切りながら「新火口の噴煙に肉薄す」る様子は、火山ガスの恐ろしさを知る現代の我々には考えられない行動ではある。焚き火にかけた飯盒や鍋での調理風景や池の畔のキャンプ、ワラジばきでの槍ヶ岳登攀など、100年前の登山の様子が克明に写し取られているのがおもしろい。
映画は、この登山からわずか10年前の1915(大正4)年にできたばかりの大正池の水面を眺めながら、登ってきた烏帽子岳や槍ヶ岳に思いをはせる登山者のバックショットで締めくくられている。
映像を見る
山岳記録映画だけでなく、「フィルムは記録する」には、さまざまな分野の記録映画があって飽きることがない。山や海で過ごす子どもたちの夏をテーマにした「山の便り 海乃便里」、戦前の巡礼の姿をとらえた「西國三十三所 靈場順禮」、など山や徒歩旅行が好きな人には興味深い映画がほかにもある。秋の夜長に、映像で100年前の日本を旅してみてはいかがだろうか。
関連記事
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他




