冬のくじゅう連山、久住山、扇ヶ鼻へ

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九州でも雪や霧氷が楽しめるくじゅう連山。久住山(くじゅうさん)と扇ヶ鼻(おうぎがはな)の周回コースを紹介します。

文・写真=池田浩伸


くじゅう連山は、熊本県と大分県にまたがる「阿蘇くじゅう国立公園」に属した、九州最大級の火山群の総称です。九州本土最高峰の中岳、主峰久住山、大船山(たいせんざん)など1700m級8座と1500m以上の山およそ20座がひしめき合うように連なる九州の屋根です。

くじゅうと言えば、初夏のミヤマキリシマの大群落で有名ですが、冬ともなれば、九州では珍しい氷結した火口湖や凍った滝が見られるため四季を通じて登山者が絶えません。今回は、人気の牧ノ戸(まきのと)コースではなく比較的静かな南側のルートから久住山と扇ヶ鼻の周回コースを歩いてみます。

登山口は、久住高原の秘湯とも言われる赤川(あかがわ)温泉です。車を止めて外に出ると、あたりには温泉の硫黄のにおいが漂っています。登山届を出して登山道を進むと、左から下山路となる扇ヶ鼻からの道と合流します。

赤川登山口では火山噴火警戒レベルを確認しましょう
赤川登山口では火山噴火警戒レベルを確認しましょう

木橋を渡り、源泉がボコボコと湧き出す場所を過ぎると、あたりは葉を落としたミズナラの森です。幾度か林道をショートカットして久住山から南に派生した尾根に取付きます。

標高1500m付近まで登ると小広場の休憩ポイントがあります。見上げれば、ごつごつと岩がむき出した厳つい表情の久住山がそびえ立ち、西には溶岩台地でできた肥前ヶ城(ひぜんがじょう)の柱状節理の岩壁が大きく迫り13万年前の火山活動の大きさが想像できます。

崩壊地を迂回するための長い階段が続き、傾斜はどんどん増して岩や灌木を掴みながら登っていきます。高度感のある景色に感動しながら、もうひとがんばりで久住山の山頂標識近くに登り着きます。

遠くは阿蘇(あそ)や祖母(そぼ)・傾(かたむき)からくじゅう連山の名峰たちがずらりと並んだ大パノラマが広がっていました。

展望を楽しんで東へ少し進み、左に折れて久住山避難小屋まで下って昼食です。

休憩や昼食は、快適な久住山避難小屋で。ただし冬季のトイレは使用不可
休憩や昼食は、快適な久住山避難小屋で。冬季のトイレは携帯トイレのみ使用可

ここから、久住山の前衛峰のように巨岩が積み重なった星生崎(ほっしょうざき)の基部を通って西千里ヶ浜(にしせんりがはま)へ。振り返ると雪を冠したシャープな山容の久住山が青空に映えていました。

星生崎の基部からは、南面が切れ落ちたシャープな久住山が望めます
星生崎の基部からは、南面が切れ落ちたシャープな久住山が望めます

扇ヶ鼻分岐から急坂を登りきると、真っすぐに扇ヶ鼻へ向かう道と左にミヤマキリシマの群生の中を進む道に分かれます。後で合流するので左側の道を取ると、登ってきた険しい尾根や、扇ヶ鼻と同じ溶岩台地の肥前ヶ城の岩壁を見ることができます。

扇ヶ鼻の台地からひと登りで扇ヶ鼻山頂に
扇ヶ鼻の台地からひと登りで扇ヶ鼻山頂に

二つ並んだ巨石の間を抜けると扇ヶ鼻山頂です。星生山や久住山、中岳など連山の中心部の山々の美しい雪景色が広がっていました。この広々とした溶岩台地は初夏ミヤマキリシマから秋にかけては山野草のお花畑となります。

来た道を少し戻って赤川への分岐から南へ下ります。はじめは急傾斜ですが次第に傾斜が緩んで「添ヶ(そえが)つる」という平坦な場所に着きます。ここまでの木々はみごとな霧氷で飾られていました。

添ヶつる付近は霧氷が美しい。奥には祖母山地が
添ヶつる付近は霧氷が美しい。奥には祖母山地が

背後には、岩井川岳(いわいごだけ)・扇ヶ鼻・肥前ヶ城のたおやかな溶岩台地とピラミダルな久住山、目の前には広大な久住高原と阿蘇五岳と祖母山の稜線の山岳景観に見惚れてしまいます。

ミズナラやアセビのトンネルを抜ければ、往路の久住山への分岐に合流して、出発点に戻ります。

MAP&DATA

高低図
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最適日数:日帰り
コースタイム: 5時間10分
行程:赤川登山口・・・久住山・・・久住分かれ・・・星生分岐・・・扇ヶ鼻分岐・・・扇ヶ鼻・・・赤川登山口
総歩行距離:約7,900m
累積標高差:上り 約937m 下り 約937m
コース定数:22

この記事に登場する山

大分県 / 九重連峰

九重連山・久住山 標高 1,786m

 大分県久住町(現・竹田市久住町)の西部にある山で、九重連峰の南に位置する。先年、九州本島の最高峰の座を兄弟峰の中岳(1791m)に譲ったが、これほど愛されている山は少なく、人気は依然として高い。山は角閃石安山岩が露呈したトロイデで、九重火山群の主峰でもある。  山容は南側の久住高原からはやさしいが、西千里ガ浜からは鋭い三角峰を突き上げ、その姿は東洋のマッターホルンにたとえられている。  山頂からの展望は、連峰の名峰たちを間近に、久住と瀬ノ本の2つの高原を見下ろして、遠く阿蘇山や祖母・傾山地へと連なる雄大な風景が一望できる。  この山や高原を称えた文人、墨客の作品も多く、与謝野寛(鉄幹)・晶子夫妻、北原白秋の歌は碑となって残り、川端康成は『続千羽鶴』で、その美しい情景を主人公の手紙に寄せている。  また、北斜面にはコケモモ、南斜面にはミヤマキリシマの大群落(ともに国の天然記念物)があり、初夏には可憐な花で埋め尽くされる。  連峰中央部にひしめく峰々は、その高さと姿とを競い合っているかのように見える。なかでもひときわ目立つのが久住山である。古くから神います山としてあがめられ、天孫降臨の伝説もあるほど。宮崎県日向の高千穂にある「クシブルダケ」は、語の響きから「クジュウ」ではないかという説である。真偽のほどはともかくとして興味深い。  九重山に天台密教が入ったのは平安時代初期のころで、いち早く山岳信仰が栄え、信仰登山が行われたのも、あるいは神話とも関連づけられはしないだろうか。  九重町牧ノ戸登山口から山頂までは2時間。途中までは別項の星生山の場合と同じコースを登り、西千里ガ浜から直進して星生崎(ほっしょうざき)をまたぎ、避難小屋のある鞍部へ下ったあと久住分かれへ。そこから右に進み、空池の縁を登ると間もなく頂上である。  赤川からの直登コースは最短距離だが健脚向。また、かつて人気のあった南登山道や、沢水(そうみ)を経由する本山登山道は、長いアプローチのため最近は敬遠されぎみ。  兄弟峰の天狗ヶ城(てんぐがじよう 1780m)や中岳へは一投足で、久住分かれを直進、御池(みいけ)の縁へ出たあと、天狗の西側斜面から取り付いて山頂をまたぎ、そのまま中岳に。また、久住山から空池、御池、池ノ小屋を経由しても中岳に至る。稲星山(いなぼしやま)(1774m)、白口岳(1720m)へも足を延ばしたい。久住分かれから北千里ガ浜、法華院、坊ガツルへのコースも人気があるが、硫黄山から出る火山ガスには注意が必要。

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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