岩と展望の富士見新道からめざす大菩薩嶺

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読者レポーターより登山レポをお届けします。小白直樹さんは大菩薩嶺(だいぼさつれい)をマイナールート、富士見新道で。上級者向けのコースです。

文・写真=小白直樹


山の紅葉も終盤となった晩秋の一日に、展望の大菩薩を仲間たちと歩いた。今回の山行でたどるのは、今は歩く人も少ない富士見新道から山頂をめざし、眺望と岩をたっぷりと楽しむルートだ。朝7時半ごろ、スタート地点の上日川(かみにっかわ)峠に着くと人気の山だけあって駐車場はほぼ満車状態。空はよく晴れ上がっていたが、強い冬型の気圧配置で冷たい西風に背中を丸めて歩き始めた。林道の水溜まりには5mmほどの厚さの氷が張っていた。

唐松尾根の入口を過ぎて、今は営業していない富士見山荘前の分岐を左に入る。よく踏まれた道をしばらくトラバース気味に進んで沢を渡り、少し登ると山腹を上がって避難小屋方面へ行く道との分岐がある。白い板に書かれた古い道標があって富士見新道は沢沿いをたどっていくのだが、ここから先は途端に踏み跡が薄くなる。

大菩薩嶺 富士見新道
この道標から薄い踏み跡をたどって沢沿いを登る

沢を左手に見ながら歩きやすい所を登っていくとケルンが積んであり、間もなく傾斜の緩い明るいガレ場に出た。このガレを少し登ると富士見新道を示す白い道標があり、ここから右手の笹原の踏み跡に入る。振り返れば葉を落とした木立の上に新雪をまとった秀麗富士が姿を現わした。

大菩薩嶺 富士見新道
白い道標を見てガレ場から笹原へ入る
大菩薩嶺 富士見新道
笹原から望む新雪の富士

笹原から樹林の斜面になって傾斜が増し、色褪せたトラロープや古い横木の道標、目印のテープを追いながら露岩の山腹をやや右上へ登っていく。やがて木の枝に引っ掛けられた白い道標が現われると、ここがお楽しみの岩場の入口だ。

大菩薩嶺 富士見新道
木に引っ掛けてある道標から岩場が始まる

今回はアクティブに岩場登りを楽しみたいので、テープスリングを簡易ハーネスとして腰に巻き、ヘルメットもかぶって準備完了。ここの岩場は3つに分かれていて、1つ目の岩場は正面のリッジを一段登って左へ回り込むと、錆びた古い鎖が地面に垂れている。この鎖に沿って登れば岩場の上に抜けられる。岩場を避けて右の土のルンゼの中を登ることも可能だ。

大菩薩嶺 富士見新道の岩場
いよいよ楽しい岩場歩きの始まり

その先のガレ場を渡ると2つ目の岩場が現われる。正面には7~8mの高さの岩壁が立ちはだかるが、左下のルンゼに古い鎖があって、これに沿って登ればやさしい。頭上の岩には穴観音とペンキで書いてある。今回は岩登りを楽しむのも目的のひとつなので、あえて正面の岩壁を直登した。壁は立っているがおおむね階段状にホールドがある。ただし、テラスにはい上がる最上部だけはフットホールドが細かいので、立ち木を支点にロープで安全確保した。10m以上の長さのロープがあれば充分だ。

大菩薩嶺 富士見新道の岩場
2つ目の岩場は正面の壁を直登した
大菩薩嶺 富士見新道の岩場
念のためにロープで安全確保

岩壁を登った上には絶景のテラスがあって、大菩薩湖を前景にした富士山や、甲府盆地の向こうには頂を雪化粧した南アルプスの山並みが見渡せる。寒風にさらされた頬の痛みも忘れて、しばし見とれてしまう景色だ。

大菩薩嶺 富士見新道の岩場
テラスからは富士と南アルプスの絶景が広がる

ここからさらに樹林の踏み跡をたどって、もう一度ガレ場を渡ると3つ目の岩場に出る。ここは斜度がやや緩んでホールドも充分なので、どこからでも登れる。左へ回り込むように登るのがやさしい。岩の上には以前掛かっていた鎖の支点もあるので、不安な場合はこれを使ってロープを張ることもできる。

大菩薩嶺 富士見新道の岩場
青空に向かって軽快に登っていく

爽快な岩場を登り詰めた所には神成岩(かみなりいわ)があり、ここで稜線の登山道に合流する。ちょうど標高2000mの標識が立っている地点だ。ここからは大勢のハイカーでにぎわう大菩薩嶺の山頂を往復して、展望の稜線を大菩薩峠へと向かった。峠を過ぎると急に人が少なくなり、静かな樹林の熊沢山を越えると石丸峠を見下ろす明るいササの斜面に出る。この辺りは強い西風も避けられるので、ササの中の日溜まりに腰を下してランチタイムにした。しばしの休憩の後、石丸峠、小屋平を経由して上日川峠に戻った。

大菩薩嶺 石丸峠を見下ろす笹の斜面
石丸峠を見下ろす笹の斜面を下っていく

今回歩いた富士見新道は整備された登山道に飽き足らない人や、岩場歩きが好きな人、ルートファインディングを楽しみたい人にはおすすめのコースだ。

(山行日程=2024年11月30日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 4時間15分
行程:上日川峠・・・福ちゃん荘・・・富士見山荘・・・富士見新道・・・大菩薩嶺・・・賽ノ河原・・・大菩薩峠・・・石丸峠・・・石丸峠入口・・・上日川峠
総歩行距離:約8,700m
累積標高差:上り 約806m 下り 約806m
コース定数:19
アドバイス:上級者向けルートにつき、要注意。冬季は道路、バス情報も事前に確認を。バスは12月15日まで。
小白直樹(読者レポーター)

小白直樹(読者レポーター)

丹沢山地の麓、神奈川県相模原市緑区在住。自然と酒をこよなく愛する仲間たちと共に山歩きや釣りなどのアウトドア活動にいそしみ、日々アクティブな隠居生活を送る自由人です。

この記事に登場する山

山梨県 / 関東山地

大菩薩嶺 標高 2,057m

 大菩薩峠の北にあり、三等三角点が埋められている。伝説によると、甲斐源氏の祖、新羅三郎義光が奥州に遠征時、道を失ったが、木こりに化けた軍神の導きでここを越えた。彼は軍神の加護に感謝し、八幡大菩薩の名を高らかに称えた。これが山名の由来とのこと。  戦前、戦後ともにハイキングのメッカであり、中腹まで車が使える昨今はなおのことである。この山が有名になったのは、なんといっても、大正2年に始まった中里介山の小説『大菩薩峠』によってであろう。中腹の勝縁荘(休業中)には介山直筆の「大菩薩峠勝縁荘」の扁額も残る。  山頂こそ展望には恵まれないが、南面の尾根筋はカヤトの原で、日川の谷を前景にした富士山をはじめ、西側の甲府盆地を下にして連なる南アルプスは、上河内岳から甲斐駒ヶ岳まで、まさに一目千両といった感じである。  さて、昔、奈良の大仏を見た甲州人が、その大きさに驚いた。ところが彼は、「甲州に来れば小仏でも三里、大菩薩となれば八里もある」とほざいたという。甲州人はなんと負け惜しみの強い人種だろうか。  登山口の裂石(さけいし)から大菩薩峠経由山頂まで4時間、同じく丸川峠からも4時間で山頂に達する。

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