多発するクマ出没や被害。世界的にも珍しい「クマが生息する首都」東京の最新状況を探ってみた

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東北地方を中心としてクマ出没や被害が頻発しているが、登山者にも人気の奥多摩などのエリアがある東京都は、世界的にも珍しい「クマが生息している首都」として知られている。そこで今回、東京都におけるクマ出没の最新状況を探ってみた。

文=大関直樹、写真=PIXTA

北日本を中心に増加するクマの人身被害

近年、クマが人を襲う事故が北日本を中心に多発している。今年の11月30日には、秋田市のスーパーでクマが男性従業員を襲い、そのまま3日間立てこもったニュースを覚えている人も多いだろう。

環境省の発表によると、2023年度のクマによる人身被害の件数は198件、被害者数は219人、そのうち6人が死亡しており、これは2006年度の統計開始以降で過去最悪の数字だ(2024年11月6日時点、ヒグマによる被害も含む)。被害増加の原因について、環境省ではクマの主食であるブナ、ミズナラなどの堅果(ドングリ)が凶作となり、エサを求めて人里に出没したのではないかと分析。2024年4月からクマ類(ヒグマおよびツキノワグマ)を、捕獲や調査などの費用を国が支援する「指定管理鳥獣」に指定した。

環境省:クマ類による人身被害について [速報値]をもとに作成

また、今年度の上半期(4~9月)のクマ出没情報は、全国で1万5788件(前年より2397件増加)に上り、統計が残る2016年度以降で過去最多だった

環境省:クマ類の出没情報について[速報値]をもとに作成

東京都のクマ被害は深刻化しているのか?

北日本を中心にクマ被害が増える中、東京都の被害状況はどうなっているのだろうか?東京都は、登山者にも人気のエリアである多摩西部地域(奥多摩町、檜原村、あきる野市、青梅市、八王子市、日の出町)にツキノワグマが生息している。そこで、東京都環境局、奥多摩町、檜原村、あきる野市の4都市町村にクマ被害について電話で話を聞いてみた。

「東京都に関して言うと、過去5年間の人身被害は、2019年度と2022年度に各2件あったのみです。目撃情報は増えていますが、イノシシやシカを誤認した可能性もあるので、確実にクマが増えているかはわかりません」(東京都環境局多摩環境事務所自然環境課長・田中さん)

ここで気をつけたいのが、「目撃情報数」と「クマの生息数」は必ずしも一致しないことだ。特に人が多いエリアでは、同じ個体が複数回、目撃されることもある。また、クマの活動範囲と人間の活動範囲が重なることで、生息数は増えていなくても目撃情報が増加するケースもある。

環境省:クマ類の出没情報について[速報値]をもとに作成

「春から夏にかけては、山中でクマを見かけたという登山者からの情報が多いです。ただその時期は、山に登る登山者が増えるからだと思われます」(檜原村産業環境課農林産業係長・森田さん)

各自治体では、クマの目撃情報があるとさまざまな方法で登山者に注意喚起を促している

東京都が2017年度から2020年度にかけて実施した調査によると、都内のツキノワグマ生息数は160頭前後と推定される。その調査をもとに都が定めた「第13次東京都鳥獣保護管理事業計画」では、「生息数確保の観点から狩猟禁止を継続し、有害捕獲のみを行う」としている。これらを踏まえると、東京都のクマ被害は、目撃情報こそ増えているが、深刻化しているわけではないようにも思える。

東京都のクマの活動傾向と対策について

東京都内ではクマによる被害は今のところ少ないものの、リスクはゼロではない。あきる野市環境農林部環境政策課長の山本さんが、次のように言う。

「多摩地域は西に山地が広がっており、クマの生息区域にあたります。登山者の方は、自分がそのエリアに足を踏み入れていることを自覚し、しっかりとしたクマ対策をしていただきたいです」

山に登る際は、クマ鈴を携行するなどしっかりとした対策をすること(写真=PIXTA)

東京都のクマは目撃情報から、12月のクリスマス前後に冬眠に入り、3月末から4月上旬に目覚めると推定される。さらに季節ごとに活動エリアに一定の傾向が見られるという。

「春先はエサが少ないためか、山麓や市街地での目撃情報が多くなります。一方、秋になってドングリが実をつけると、山の上での目撃が増加しています。ほかにもカキやクルミ、クリの木があるエリアにも出没する傾向がありますね」(奥多摩町観光産業課農林水産係長・小峰さん)

カキなどの甘くて果汁が多い果実は、クマの好物だ

クマ対策としてはまず大切なのは、クマに遭遇しないようにすることだ。そのためには、以下の3点に気をつけて入山したい。

クマと遭遇しないために

  • クマ鈴など、音を鳴らしながら歩く
  • クマが出没しやすい早朝、夕暮れの時間帯は特に注意する
  • 見通しの悪い場所や沢の音が響く場所は、遭遇リスクが高いので警戒する


いくら対策をしていても、クマと遭遇するリスクをゼロにすることはできない。そこで、もしクマに出遭ったときの対処法も、知っておこう。最も避けるべきなのは、クマに背を向けて走って逃げ出すこと。クマは逃げるものを追いかける習性があり、その速さは時速40kmにも達するため、逃げ切るのはほぼ不可能だ。背中を見せずにゆっくりと後ずさりし、静かにその場を離れるのが基本である。

もしクマに遭遇してしまったら

  • クマに背を向けない
  • 落ち着いてゆっくり後ずさりし、その場を離れる
  • クマが襲ってきた場合は、撃退スプレーを使用する

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