姫神山で岩手山の眺望と霧氷を楽しむ雪山登山。下山メシはわんこそば
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは岩手山(いわてさん)の展望を求めて姫神山(ひめかみやま)へ。下山メシは岩手名物・わんこそばです。
文・写真=こう
「岩手といえば?」と聞かれたら、瞬時に思いつくだけでも、片手では収まりきらないほどの名物がある。県としては本州一の面積を誇る広大な岩手の地は、自然や景観、食、文学、文化など多くの魅力に満ちている。ただ、それでも真っ先に思いつくのが岩手山なのは、登山を愛好する者のさがだろうか。
その週末は、もともと友人たちと「みちのく潮風トレイル」の浄土ヶ浜(じょうどがはま)・田老(たろう)ルートを土日で歩くつもりだったが、せっかく岩手に行くのであれば、登山と観光も楽しみたいという欲が芽生え、岩手の象徴である岩手山が美しく見える山に登って眺望を楽しみ、下山後に盛岡観光と名物であるわんこそばを楽しむことにした。
そんな欲張りな我々の望みを叶えてくれるのにぴったりな山があった。それが姫神山だ。
山頂は開けており、岩手山の眺望は抜群であるのに、コースタイムは往復3時間程度で、時間もかからずに登れてしまう。わんこそばの名店である「東屋本店」に40分程度で行けるアクセスのよさも決め手のひとつとなり、満場一致で姫神山に登ることになった。
一本杉登山口の駐車場は、前日降った雪で真っ白になっていた。前週には山肌がまだ見えていたようだが、強い寒気が南下してきたことで、それなりにまとまった量の雪が降ったらしい。上空にはきれいな青空が広がっていたが、とにかく気温が低く、寒さが身に堪える。山頂でゆっくり休むため、保温着を一枚余分にザックに詰め込んだ。
駐車場にあるトイレは現在工事中で使用できず、本来その脇から登山開始となるのだが、そちらも工事の影響で通行止めとなっていたため、少し迂回してスタートした。最初はなだらかな道を進む。地面は足首程度まで積もった雪に隠れていたが、先行者のトレースがあったため、足に雪を被ることなく進むことができた。
ほどなくして正式な登山口が現われる。「クマ出没注意」「山火事注意」など、ほかにもたくさんの看板があり、さまざまな注意喚起をしていた。
登山口からは背丈の高い杉林が続く。天に向かって真っ直ぐに伸びる木の幹に、まだらに雪がついていたことから、昨夜は雪だけではなく風も強かったことがうかがえた。雪化粧した杉並木はどこか神聖で、いつも見る針葉樹林とはまた違う雰囲気を醸し出していた。
少し進んだところで、向かって左側が明るくなり、見てみると、そちらは葉を落とした広葉樹が立ち並んでいた。針葉樹林と広葉樹林を線引きするように伸びた登山道を進んでいくと、右側、つまり針葉樹林側に一際大きな杉が現われた。このコース名の由来になっている一本杉だ。近づいて腕を広げてみるが、到底かかえきれない。
この寒い中で立派に生きる一本杉にパワーをもらい、先へ進むとすぐに「ざんげ坂」と呼ばれる急登が現われる。傾斜のいちばんきついところは手をつきそうになるほど急で、一本杉にもらったパワーをあっという間に使い果たした。息を切らしながらもなんとか登り切ると、平らな場所があり、そこが五合目だった。
ここからは尾根道になり、再び急登となる。比較的幅の広い道なので、段差の少ないところを見つけ、ジグザグに登ることで、無駄な体力消費を抑えながら進んでいった。
急登が終わってなだらかな道になり、気持ちにも余裕が出てきたころに、ようやく空を覆う霧氷の存在に気付いた。標高の低いところでは、ただ木に雪が積もっているだけだったが、七合目まで上がるとしっかり凍っている様子が目に見えた。もう9時半を迎えるというのに、空は朝焼けのような温かみのある色をしており、霧氷もほんのりと赤く色づいていたのが不思議だった。
標高を上げるごとに木々が低くなり、霧氷が近づいてくる。空の青いキャンバスに、霧氷の白い模様が描かれており、自然が創り出すアートは至高の美しさだった。
ずっとこの景色を見ていたかったが、西側から雲が流れてきていたため、山頂からの眺望を逃さぬよう先を急いだ。霧氷のトンネルを抜けると、雲が流れてくる方向に平地が見え、その奥には雲に隠れた山があった。雲からはみ出すように大きな裾を広げていたため、それが岩手山であることを確信した。
押し寄せる雲に不安を抱きつつも、岩手山を隠すガスが抜けることを期待し、山頂へと歩みを続けた。途中、大きな岩を渡る箇所があり、備え付けてあったロープを握り、慎重に進んだ。再び木々に囲まれた道になるが、抜けた先に姫神山の頂があった。
登ってきた方向に岩手山があるが、まだ雲に隠れたままであったため、保温着を着込み、山頂にあった巨岩に身を隠して風をしのぎ、姿が現われるのを待った。
雲が流れて、南側の景色が広がると、斜面の下部が一面霧氷になっており、そちらもみごとな景色だった。しばらく晴れたり曇ったりを繰り返して、あと少しのところまで雲が抜けたが、結局また雲が湧き上がり、最後まで岩手山の全貌を見ることは叶わなかった。
下山は、急傾斜に加え、雪で滑りやすくなっており注意が必要だった。わんこそばの誘惑に、無意識のうちに下る速度が上がっており、気付いたときには一本杉を通過していた。
駐車場に戻ってからは、手早く登山道具を片付け、盛岡市街へと向かった。お店に着くと、わんこそばを待つ客が数組いたが、ほどなくして席に通された。楽しみな反面、はたしてたくさん食べられるだろうかという不安もあり、やや緊張しながらエプロンをつけていたが、食べ始めると、登山で消費して空っぽになっていた胃袋には、するするとそばが入っていった。そばの味はもちろんだが、刺身やなめこおろし、とりそぼろなどの薬味もおいしかった。また、給仕さんの「はい、じゃんじゃん。どんどん」という小気味よいリズムの掛け声のおかげで、テンポよく食べ続けることができた。
100杯が近づいたあたりで「もう充分」と思ったが、そこから給仕さんに応援されたり尻を叩かれたりしながら、なんとか120杯まで食べ進め、最後はそばを入れられる前に慌ててお椀に蓋を被せた。
登山で消費した以上の栄養を摂取することができた上に、味覚だけではなく給仕さんのおもてなしも楽しませていただいた。冬の岩手の絶景とともに、また岩手の魅力を再認識した一日となった。
(山行日程=2024年12月7日)
ドラマ『下山メシ』放送中!
・各話放送直後より「TVer」にて見逃し配信
https://tver.jp/series/srwqr08jrt
・各話放送終了後より「Netflix」にて見放題独占配信
https://netflix.com/title/81944249
ドラマの原案となった山と溪谷オンラインの連載はこちら。
https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=19
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こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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山と溪谷オンライン読者レポーター
全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。
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山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。
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