手持ちの装備でも行ける雪山。入笠山で雪山ハイキングに挑戦

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読者レポーターより登山レポをお届けします。真鍋晋さんは長野県・入笠山(にゅうかさやま)で、雪山ハイキングに挑戦。条件を選べばアイゼン&ピッケルがいらない雪山登山が楽しめます。

文・写真=真鍋 晋


これまで春~秋シーズンを中心にさまざまな登山を楽しんできたが、雪山だけはなかなか踏み出せなかった。その理由に、「初期投資がかかりそう」という思い込みがあった。店頭に行くと、雪山用ウェア、雪山用登山靴、アイゼン、ピッケル、いずれも高額である。しかし山の条件によっては、これらすべてをそろえる必要はないらしい。そこで手持ちの装備でも充分に行けるレベルの雪山ハイクに挑戦してみることにした。

まずは装備を計画する。ウェアは基本的には3シーズン用のものを流用する。上半身は、ベースレイヤーがメッシュのタンクトップにメリノウールの薄手長袖Tシャツ。ミッドレイヤーに普段着のフリースジャケット。アウターはレインジャケットにする。万が一、これでは寒かったときに備えて、ダウンジャケットもザックに入れておく。下半身は、メリノウールタイツと3シーズン用トレッキングパンツとする。こちらも寒ければ、レインパンツをその上からはき重ねることにする。手袋は夏用で、こちらも寒い時用にスキー手袋をザックに入れておく。ニット帽とネックゲイターは冬季のジョギングで使用していたものだ。靴はミッドカットのトレッキングブーツ(ゴアテックス防水)とする。ゲイターとチェーンスパイクは、残雪期用に所有しており、それを使うことにした。結局、あらためて買いそろえたものは一つもなかった。

では、どの山に登るか? 絶対条件は、「森林限界を超えないこと」と「急登がないこと」。この装備では、降雪や強風にさらされると危険そうだし、チェーンスパイクでは急な勾配は登れそうもない。そこで選んだ山が入笠山である。ゴンドラで1780mの山頂駅まで到達でき、1955mの入笠山頂まで高低差は175mしかない。夏には何度か登ったことがあり、ルートは熟知している。肝心の天気は、前日の予報で晴・強風だった。少し迷ったが、山頂以外は樹林帯を歩くので、風の影響は少ないと考え、このまま決行することにした。

入笠山はスキー場に隣接しており、アクセスがとても便利である。車であれば、最寄りの諏訪南インターチェンジから7分と近く、道もよく整備されている。電車でもJR富士見駅から送迎バスがあるようだ。ゴンドラではスキー客がほとんどで、この時間の登山者は5人だった。ゴンドラ山頂駅を出ると、くるぶしまで埋まるくらい雪が積もっていて、すぐにチェーンスパイクを着用した。少し歩けば、鹿よけのゲートがあり、そこからは樹林帯に入る。しんと静まりかえった雪道に、ギュッ、ギュッと雪を踏む音が響く。雪山独特の静謐な情景に、気持ちも高揚する。この日の外気温は-5℃。顔に触れる空気はひんやりしているが、動きだせば体は寒くない。登坂では軽く汗ばむほどで、レインジャケットを脱ぐか迷ったほどだ。

山頂駅すぐの樹林帯
山頂駅すぐの樹林帯

樹林帯が終わって入笠湿原に出ると、視界がパッと広がる。湿原には一面に真っ白な雪が広がっていて、視界の先にはカラマツの木々がそびえたっている。この日は終日、晴れの予報だったのだが、実際には雲がとても多かった。時折、雲の隙間からのぞく日光が、霧氷をまとったカラマツのてっぺんを照らし出し、とてもきれいだった。

カラマツの霧氷
カラマツの霧氷

お花畑の雪に覆われた斜面をジグザグに登っていく。雪坂を登るのは初めてだが、足を心持ち少し高く上げ、一歩一歩着実に踏み固めていけば、さほど疲れるわけでもない。場所によっては膝下まで雪を踏み抜くところもある。雪が靴の中に入り込むのを避けるために、ゲイターは必須だと思った。少し勾配がきつい所を歩くと、チェーンスパイクのゴムが少し伸びる感触がある。これ以上の勾配を登るのであれば、やはりしっかりとしたアイゼンのほうがいいと感じた。

足元の装備
足元の装備

しばらく斜面を登ると、ヒュッテ入笠の建物が見え、その後はまた樹林帯へと入っていった。ここでは木々の密度がまばらになり、木漏れ日がクマザサを照らし出している。山頂へは迂回コースと岩場コースがあり、迂回コースをたどった。

樹林帯
樹林帯

午前10時に山頂に到着した。歩きだしてから1時間もかかっていない。山頂はとても見晴らしがよい。本来なら南・北アルプスや八ヶ岳を一望できるのだが、今日はガスが多く、遠くの山々を拝むことまでは叶わなかった。それでも一面雪化粧をした木々が立ち並ぶ様はとても美しい。天気予報の通り風が強い。ガスが立ち消えてくれないかと、しばらく待っていたが、寒くなってきたので先に進むことにした。

入笠山頂
山頂の霧氷
山頂の霧氷

大阿原(おおあはら)湿原までの道のりは、しばらく樹林帯を下り、首切清水でいったん車道に出て、その後は平坦な道が続く。ここでは登山者は誰もおらず、上空を通り抜ける風の音だけが、ヒューヒューと鳴り響いていた。雪山では、夏に比べて登山道がとてもわかりにくい。この日は新しそうな踏み跡をたどって歩いていた。ただ降雪が多いと、こうした踏み跡もあっという間に消えるだろうから、ルート確認は入念にしておく必要があると感じた。

たて大阿原湿原までの樹林帯
たて大阿原湿原までの樹林帯

10時30分に大阿原湿原に到着。湿原は広く、真っ白い雪が一面に広がっている。木道が設置してあり、散策が楽しめる。周りを木々に囲まれているので、山頂とは異なり風はあまり気にならない。しばし雪景色を観賞した後、帰路に就くことにした。

大阿原湿原
大阿原湿原
休日の入笠山ではとっておきの楽しみがある。ヒュッテ入笠のランチである。小屋に着くと、「こんなに登山者がいたの?」と思うくらいの人が列をなしていた。僕の目の前で牛の赤ワイン煮が売り切れてしまったため、カツハヤシを注文した。ヒレカツは分厚く、とても柔らかい。ハヤシライスはほぐれた牛肉がたっぷり絡みつき、ルーはとても濃厚だった。温かい食べ物でしっかりとお腹を満たし、ゴンドラ山頂駅へと戻った。

今回の経路は、総距離約7km、高低差370mである。経路のほとんどが樹林帯に囲まれ、風の影響はあまりなかった。初めての雪山ハイクにはピッタリの場所だと思った。ずっと雪道だったため、靴は汚れておらず、汗もほとんどかかなかったので、服もさほど汚れていない。登山道はすいていて、帰りの中央道まですいていた。この日を境に、雪山登山にすっかり魅了されている。さて、次は10本爪アイゼンを調達し、もう少し高い山をめざすことにしよう。

(山行日程=2024年12月22日)

MAP&DATA

高低図
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最適日数:日帰り
コースタイム: 2時間35分
行程:山頂駅・・・入笠湿原・・・入笠山登山口・・・入笠山・・・仏平峠・・・大阿原湿原入口・・・仏平峠・・・入笠湿原・・・山頂駅
総歩行距離:約6,700m
累積標高差:上り 約388m 下り 約388m
コース定数:11
真鍋 晋(読者レポーター)

真鍋 晋(読者レポーター)

普段は現役外科医、週末は登山・トレラン・ジョギング。じっと座っていることが、苦手な性分です。

この記事に登場する山

長野県 / 赤石山脈北部

入笠山 標高 1,955m

富士見高原は、戦前から軽井沢に次ぐ避暑地として、大学の先生など文化人が集まった所。木ノ間、横吹、松目、原ノ茶屋など、美しい名前の集落が入笠山山麓に散在している。 スキー場のゴンドラを利用したハイキングコースがメジャーとなり、夏山ではゴンドラ山頂駅から約1時間で山頂に到達できる。 また、夏だけでなく、冬にはスノーシュー入門コースとしても注目されている。

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