絶景三昧の雪稜歩きを楽しむ。五頭山から菱ヶ岳へ縦走
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは新潟県の五頭山(ごずさん)、菱ヶ岳(ひしがたけ)へ。
文・写真=こう
雪深い新潟の山は、冬になると夏とはまったく違った表情を見せる。五頭山(912m)、菱ヶ岳(973m)も例外ではなくそれに当てはまる山だ。標高は1000mに満たないため、夏山シーズンは生い茂る木々で展望が限られるが、大量の雪が積もった冬は、山頂や稜線から景色をより楽しむことができる。雪稜歩きと飯豊連峰の大観を楽しみに登ることにした。
菱ヶ岳登山口駐車場に車を停め、準備を進めていると、続々と車が入ってきて、7時前には満車になってしまった。純粋に愛されているのもあるだろうが、この日は終日晴れる予報であるため、冬の日本海側において貴重な晴れを逃すまいと、たくさんの人がこのタイミングを心待ちにしていたのだろう。
数日前には今シーズン最強寒波が訪れており、まとまった降雪があったようだが、前日の登山者のおかげでラッセルする必要はなかった。傾斜の緩やかな道はつぼ足で進み、急登が始まる直前でアイゼンを着けた。圧雪された急坂にアイゼンの刃を食い込ませながら進む。しばらくは急登が続き、息を切らしながら登っていたが、途中から傾斜が緩やかになり、快適に進むことができた。周りの木々は、幹から枝先まで雪を纏っており、美しい銀世界が広がっていた。
途中に木々がなく、眺望が開けた場所からは、本日の最終目的地である菱ヶ岳の姿を眺めることができた。また、空気が澄んでいるおかげで、南西方面には妙高山(みょうこうさん)、火打山(ひうちやま)が朝日によって色づく様子も確認できた。
このルートのいちばん最初のピーク、三ノ峰にたどり着くと、三六〇度の視界を得ることができる。北東に立ち並ぶ一際白い峰々は、新潟と山形にまたがる巨大山塊である飯豊(いいで)連峰だ。豪雪地帯にある飯豊連峰は、冬は基本的に雲の中に隠れているため、頻繁に目にできるものではない。周りの登山者もその姿に歓喜し、意気揚々とニノ峰へと向かって行った。
ここまで来ると、木々が極端に少なくなり風が吹き込んでくるようになったため、ハードシェルを着込んでからその先に進むことにした。三ノ峰から一度下り、二ノ峰へと登り返す。すぐ隣にあるため、距離も標高差も大したものではなかった。二ノ峰まで登ると、ようやくさえぎるものなく菱ヶ岳へと続く稜線を眺めることができる。谷間に溜まった雲が、東風に押し出されるようにして、稜線をのっそりと乗り越えていく。こんなに間近で滝雲に遭遇したのは初めてだったため、貴重な光景に胸が高鳴った。
一ノ峰に登るところで、足が深く沈むようになったため、アイゼンからスノーシューへと切り替えると、その後は沈むことなく快適に歩くことができた。五頭山山頂である本峰へと向かう最中に、ガスに視界を奪われてしまったが、山頂直前でガスが抜け、いつの間にか飯豊連峰が目の前まで来ていた。三ノ峰で見るよりも、距離を縮めた分だけ迫力が増していた。ひとしきり写真を撮って満足した後で、来た道を引き返し、菱ヶ岳へと向かうことにした。
分岐は雪のせいか目印が見当たらず、稜線方向はたくさんの木立でルートがわかりづらかった。木々の間を縫うように下っていくとオープンバーンになり、菱ヶ岳へと向かって延びる稜線を望むことができる。稜線上には、純白の雪が波のような形で西から東に流れるように積もっており、その美しさの虜になった。
斜面を下り切ると、緩やかな登り返しとなる。歩いていると滝雲に飲まれ、あたり一面真っ白になったが、ギラギラと輝く太陽の光がさえぎられたことで、柔らかな光に包まれて幻想的な景色だった。
アップダウンを繰り返しながら先へと進むと、雪庇と思わしきものが現われる。雪庇を避けるようにして、斜面をトラバースして進んでいたが、まだこの時期は雪庇がそこまで成長しておらず、急斜面をトラバースするよりも雪稜を歩く方が安全だった。
鞍部では暴風にさらされ、風と共に舞い上がった雪に視界をさえぎられた。稜線上は我々以外には誰も歩いておらず、ラッセルを覚悟していたが、雪が締まっており、所々にある吹き溜まりを除いては、あまり苦労せずに進むことができた。
中ノ岳手前の急斜面を上ると、景色のいい稜線が続く。大量の雪が積もったことで、目線が高くなり、爽快な気分で歩くことができた。
中ノ岳を通過して先へ進むと、右へ左へうねうねと曲がった稜線が現われる。中ノ岳から菱ヶ岳まではコースタイムで1時間弱だったが、行く先にそびえる菱ヶ岳はコースタイム以上に遠く感じた。
こちらの雪庇もまだ成長途中で、谷へとせり出したものはほぼなく、注意はしつつも安心して歩くことができたが、積雪の多い時期はコース取りを充分に注意しながら進みたい区間だ。
滑らかでホイップクリームのような雪面は、一見柔らかそうに見えるが、充分に締まっており、スノーシューを装着していれば深く沈むことはなかった。誰も踏んでいないまっさらな雪の上に自分の足跡を刻みながら進んでいると、次第に傾斜がきつくなってきた。剥き出しの斜面は風がよく通り、砂のような乾いた雪がサーッと音を立てて流れていった。
急登が終わるとなだらかな道になるが、ここから視認できるだけで3回はアップダウンを繰り返すようだった。白銀の峰々から視線を右に移せば、美しい紺碧の日本海に佐渡島、粟島が浮かんでいた。
幅の広い稜線だが、一つ目のピークから下るところは、細くくびれているところがあり、そこに小さな雪庇ができていたため、バランスを崩さぬよう慎重に下った。
目の前に見えるいちばん高いところが当然山頂だと思っていたが、地図を見るとそこは山頂ではなく、五頭山連峰最高峰の981mピークで、少し先にある7mほど標高の低いピークが菱ヶ岳の山頂のようだ。
たどり着いた山頂からは、越後平野を一望することができる。上空には雲が広がっていたため、数時間前まであれだけ輝いていた飯豊連峰も、雲の下で鳴りを潜めていた。本来なら周りの山々や日本海の美しい眺めをのんびり楽しみたいところだったが、日差しがなくなったことに加え、風も強く寒かったため、足早に下山することにした。
山頂から歩き出していきなり細い道になったかと思えば、その先は、下れないのではないかと思うほど急な斜面だった。ジグを切ったり、木につかまったりしつつ、滑落しないよう気を張り詰めながら下った。
平らな場所であれば歩きやすいかと思ったが、地図では確認できない短い登りや吹き溜まりがあったり、湿った雪がスノーシューの上に重くのしかかったりして、思うように進めなかった。斜面に切られた夏道は滑落の危険もあるため、回避して進む必要があり、一筋縄ではいかなかった。
このルートの最大の難所は、杉端(すぎはな)と呼ばれる場所だった。夏道と冬道があり、冬道は尾根を直進する。かなり傾斜のきついヤセ尾根で、こちらを通るのは間違いなのではないかと不安になった。一度、尾根を進みすぎてしまいルートをロストしてしまったため、わかりやすい場所まで登り返して、地図を再確認した。地図が指し示す夏道が見つけられず時間ばかりが過ぎていったが、斜面を丁寧になぞりながら確認したところ、崖のような斜面に比較的緩やかなルートを見出した。トラバースするのに問題ないほどの傾斜ではあったが、斜面を覆う雪は崩れやすく、足を滑らせる危険性があったため、足場を踏み固めながら一歩一歩確かめるように進み、なんとか難所を通過することができた。
その後は北山を越え、緩やかな道を歩き、ところどころに現われる小さいアップダウンを通過して、菱見平(ひしみたいら)をめざした。
夏道の印として、木にピンク色の塗料が塗られていたが、雪に隠れているところもあり、わかりづらい箇所がいくつかあった。後少しで菱ヶ岳登山口というところで、ピンクテープが示す夏道があまりにも急な斜面のトラバースだったため、下りやすいところから斜面を下り、大幅に迂回して駐車場へと向かい、無事に下り切ることができた。
苦難を乗り越えた達成感はひとしおで、稜線上で見た絶景とともに思い出に残る山行となった。
(山行日程=2025年1月12日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
プロフィール
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全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。
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山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。
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