エベレスト街道を歩き、標高6189mのアイランドピークをめざす

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2012年から登山記録をウェブにアップし、近年は写真展やツアー開催など活動の幅を広げるビストロきっちょむ登山隊。2024年11月に隊長が挑んだネパールのアイランドピーク(6189m)登山についてお話をうかがいました。山頂にこそ立てなかったそうですが、個人で海外登山に挑戦したい人に役立つ情報を教えてもらいました。

構成=山と溪谷オンライン、写真=ビストロきっちょむ登山隊

アイランドピークとは?

――アイランドピークはどんな山ですか?

アイランドピークはネパールのエベレスト街道沿いにある山です。エベレストのベースキャンプとほとんどルートは同じ。最後に右に行けばアイランドピーク、左に行けばエベレストベースキャンプ、って感じですね。

なのでエベレストも見えるし、むちゃくちゃかっこいいアマダブラム(6812m)も見えます。エベレスト街道を歩くだけでも最高の景色を堪能することができます。

アイランドピーク概念図

アイランドピークの魅力は、なんといっても「6000m峰(6189m)」ってこと! 結果、私は山頂までたどり着けなかったけど、山頂からはローツェ(8516m)がかっこよく見えるらしいですよ(聞いた話)。

アイランドピーク
アイランドピーク

――どんなルート、日程でしたか?

カトマンズからルクラに飛行機で飛んで、ルクラからエベレスト街道を歩き続けてアイランドピークへ。アイランドピークに登るのはちょうど10日目。無事に登れたらそのままルクラに戻ってきてカトマンズへ帰る、14日間の行程でした。

――初心者でも行ける山なのでしょうか?

初心者でもきっとベースキャンプまでは「行けます」。が、6189mの山頂まで「登れる」かは、あなた次第です(笑)。

でも、アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ(5895m)も、エベレストベースキャンプ(5160m)も、「世界一周旅行で来て、ノリで登っちゃいました! え、日本の山? 日本では高尾山くらいしか登ったことないです〜(笑)」って人、けっこういるんですよ、マジで(笑)。

山に登れば登るほど知識と経験が増えるので、6000mなんて無理!って思っちゃうんですが、高度に強ければ案外行けるかもしれませんね。

中央左がエベレスト、右がローツェ
中央左がエベレスト、右がローツェ

必要な準備と装備

――体力作りやトレーニングはどうしましたか?

アイランドピークは難しいクライミング技術はあんまり必要じゃないです。アイゼンとロープを使う場所はあるっぽいけど、そんなに難しくないらしい(私はたどり着けなかったけど)。

主な敵は高度ですね。なんてったって6000m超えですから! 高度への強さは、お酒の強さと同じで、生まれ持った体質が大いにある。だから高度に強ければ偉い、って話ではない。

でも、もちろん事前に高いところに登ったりして体を高度に慣らせば、現地ではだいぶ違ってきます。なので日本では富士山に登るか、最近では低酸素トレーニングができる施設もチラホラあるらしく、そんなところでも高山病に備えることができますね! ま、私はどっちも行ってないけど!(笑)

右手に見えるのはローツェ
右手に見えるのはローツェ

――持って行った装備を教えてください。役立ったものや、逆に使わなかったものなどありますか?

私が行ったのは11月の初め。6000mを超えるアイランドピークはむちゃくちゃ寒く、真冬の装備が必要でした。私もダウンの上下、その下にはこれでもかって服を着込んでいたけど、それでも寒かった。でも、そんなに寒いのはアイランドピークに登る当日1日だけ。あとは-5℃~5℃くらいでしょうか。日が差すと、日中は暖かいほどです。

アイランドピーク直前の村でブーツやアイゼン、ハーネス、極暖の寝袋などはレンタルできるので、晩秋の北アルプスの小屋泊に行くくらいの装備が正解でした。アイランドピークのベースキャンプにたどり着くまでには10日ほど歩き通しなので、あんまり重い荷物を持っていくと、そこまでに疲れちゃいます。私は重いカメラもあるのに、さらにノートパソコンまで持って行きました(笑)。

ベースキャンプ
ベースキャンプ

――登山にかかった費用を教えてください。

  • アイランドピーク対応保険・・・42,310円
  • 飛行機代・・・13万円
  • トレッキング代14日間・・・2500USD(約37.5万円)

ここに宿代、3食のごはん、お茶、飛行機、ガイド代、入山許可など、基本的なものをすべて含みます。含まないのは、レンタル品、お酒、お水、くらいかな。

――宿泊や移動、ガイドなどはどうやって手配しましたか?

私は2015年にアンナプルナサーキット、2016年にエベレストベースキャンプと、2回ネパールに行っていて、今回が3回目でした。過去2回は本当になにも予約しないで行って、カトマンズに着いてから、現地のホテルで手配しました(そのホテルも空港のタクシーの運転手に適当に連れて行ってもらいました)。

さすがに今回は2015年の時に知り合ったガイドに事前にすべての手配をお願いしましたけど。でもネパールにも旅行会社は星の数ほどあるので、現地に行ってから予約するって流れでも余裕です! 値段もたいして変わらないと思いますよ。

個人手配&現地手配ではなく、事前に日本の旅行会社に手配してもらうことももちろん可能で、たくさんのツアーがあります。日本で手配してもらうとだいたいプラス10万円くらい余計にかかると思います。

宿の窓から見たアマダブラム
宿の窓から見たアマダブラム

――ガイドはどんな人でしたか?

今回のガイドは日本語も話せるガイドでした。経験も豊富だし、人柄も最高! さらにコミュニケーションが密に取れるので本当によかった!

――宿泊や食事事情はどうでしたか?

アイランドピークへと続くエベレスト街道には、たくさんの村があります。日本の山小屋とは少し違って、山小屋と民宿の間のようなホテルに泊まりながら、2週間歩いて行きます。下の方の街にはシャワーがあります(シャワーの温度が低い場合が多いので、体調管理を考え、私は一切浴びなかった)。Wi-Fiは2016年にはあったりなかったりだったけど、今回行ったらホテルはほぼすべてでWi-Fiが使えました!

ごはんはダルバート(ネパール風定食)が一般的だけど、バーガーやピザやヌードルもあります。めちゃくちゃおいしい!ってわけじゃないけど、普通に食べられます。でも2週間もその生活が続くので、後半はお寿司や味噌汁など、日本食が恋しくなります。

安全対策とトラブル

――体調不良や高山病はありましたか? 対策は?

今回は高山病対策でダイアモックスを飲んで臨みました。そのおかげもあってか、アイランドピークのベースキャンプ(5100m)までは問題なかったんだけど、最後のアイランドピーク5800m付近で高山病の症状が出て無念の下山となりました。高山病の症状は人によるのかもしれませんが、私の場合は二日酔いの時のように、頭がクラクラして、意識が朦朧としてきました。

アイランドピークだけガイドが日雇いの安いガイドをあてがわれてしまい、そのガイドはそれでも「登ろう!いけるよ!」と言ってきましたが、私は無理だと自分で判断して下山しました。この辺りの詳細は割愛しますが、あのままガイドの言うままに山頂に突撃していたら、私は本当に死んでいたと思います。なので、無理をせず、自分で行ける行けないを判断することが大切だと思います。

5800mで下山

――緊急時のためにしていたことや保険の選び方は?

この質問、めちゃくちゃいいですね(笑)。ピッケルやアイゼンを使う今回のような山行は、通常の保険では適応外なので、専門の保険に入る必要があります。私ももちろんアイランドピークに対応した保険に入りました。救助・治療は無制限です。

結果として5800mで高山病になったので、そこから馬とヘリでカトマンズまで降ろされ、病院に緊急入院となりました。

日本語が話せる経験豊富なガイドが日本の保険会社に事前に確認の電話をしてくれ、問題なかったのでヘリを呼びました。ヘリに乗せられ、カトマンズでは空港まで病院の車が迎えにきてくれて、そのまま入院(1泊)。診断書には「脱水症状を伴う高山病(重篤レベル6/10)」と書いてありました。

全部でかかった費用は130万円! これをいったん自分で払う必要があります。私は予備として限度額が大きいクレジットカードがあったので払えたんですが、払えなかったらどうなるんでしょうね・・・。

日本に帰ってきて、必要な書類をすべてそろえて保険会社に提出しました。ところが! 1ヶ月以上経っても、まだ130万円は1円も支払われていません。それどころか「なんでルクラじゃなくてカトマンズまでヘリで行ったんですか?」「なんで通常より入院費用が高いんですか?」などと、私としては「知らねーーよ!」な言い掛かりを保険会社につけられています。

「そんなことは私が知る由はないです」「そもそもガイドが事前に御社に確認の電話をしているはずですよ」ということを、きっちりと先方に伝え、今は向こうで現地エージェントが調査中なんだそうです。

金額が高いから調査が必要なのはもちろんわかるけど、130万円を払わされて、さらに言いがかりをつけられて、保険会社とは!?って考えちゃいますよねぇ。いい保険があったら、むしろ私が知りたいので、教えてください!(笑)

救助のヘリ
救助のヘリ

登山を終えて・・・

――アイランドピーク登山を終えた感想を教えてください。

そんな大きいお金を払って、そんな大変な思いをしたアイランドピークですが、お金と時間が確保できるなら、また必ず行きたい! 本当にそう思います。それほど魅力があります。

私は過去にキリマンジャロやマッターホルンを登ったけど、やっぱり海外の難しい山を登るって、ワクワクするし、景色も達成感も日本の山とは全然違います。

今回のアイランドピーク14日間では、ずっとアマダブラム(6812m)が見えていました。このアマダブラがめっっっちゃくちゃカッコ良かった。日本の槍ヶ岳も竹野内豊くらいかっこいいんだけど、アマダブラムは桁違いにゴツくて、まさにドウェイン・ジョンソンでした。

そうした景色を見れるだけでも、ネパールに行く価値があります!

アマダブラム
アマダブラム

――これから登る人へのアドバイスを教えてください。

これはガイドや登ったことがある人に言われたんですが、日程を14日ではなく、もう少し長くとって、アイランドピークアタックの前に、近くの5000m後半の山にも登ったほうがいいようです。エベレストベースキャンプやカラパタール(5550m)とか。そこで体を慣らすと、登頂の確率がグンとアップするらしいです。

あとは重い荷物(冬靴、アイゼン、重い寝袋、ノートパソコン(笑)。)は持っていかず、3シーズンの装備で行って、アイランドピーク直前の村でレンタルするのが正解だと思います。


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