大小さまざまな樹氷が立ち並ぶ、快晴の森吉山へ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは樹氷が広がる森吉山(もりよしざん、もりよしやま、1454m)へ。

文・写真=こう


日本三大樹氷観賞地といえば、蔵王山(ざおうさん、ざおうざん)、八甲田山(はっこうださん)、そして、森吉山である。前者2座は日本百名山にも選ばれており、それなりの知名度を誇っているが、森吉山については正直なところあまり詳しく知らなかった。故に、森吉山はどんな形をしているのか、そこからどんな景色が見られるのか、数年前から興味をひかれてならなかった。

毎年、樹氷が大きく育ったころを見計らって、森吉登山を計画していたが、冬の日本海側の天気はなかなか安定せず、機会を見送るばかりだった。今回は、ようやく晴れ予報と私の都合がぴったり合ったので、念願叶って森吉山へと登ることになった。

森吉山阿仁(あに)スキー場の駐車場に着くと、営業開始前のゴンドラ乗り場には、すでにたくさんの人が並んでいた。支度を整えてから長い列の最後尾に加わったものの、あっという間に順番が来て、ゴンドラに乗り込むことができた。

乗車時間の長いゴンドラの中では、じっくりと景色を楽しんだ。ゴンドラから降りて屋外に出ると、まばゆいばかりの銀世界が広がっていた。快晴で強い日差しが照りつけていたが、冷たい風が強く吹いており、日差しの暖かさは微塵も感じられなかった。

スノーシューを装着して、樹氷平と呼ばれる樹氷観賞エリアをめざして歩いていくと、徐々に樹氷の本数が増えてくる。

樹氷平まで行くと、その数は圧巻で、背の高い樹氷が多く並んでおり迫力があった。観光客でも行きやすい場所だったため、たくさんの方が訪れ、記念撮影をしていた。観光客に混ざって記念撮影をすませた後で、いよいよ登山を開始した。

樹氷平
樹氷平から登り始める

樹氷の巣窟を抜けると視界が開けており、樹氷観賞と遠景の両方を交互に楽しめる道になっていた。

ゴンドラから直接登るルートと合流すると、そこから先はピンクテープが巻き付けられた高い棒が一定間隔で配置されていたおかげで、ルートを見失うことはまずなかった。ルートファインディングに自信がない人はピンクテープをたどるとよいが、せっかくの樹氷観賞の機会なので、樹氷が密集してる場所にあえて入り込むことで、樹氷のさまざまな表情を捉えることができた。

標高を上げるごとに、樹氷の形や大きさが変わる。自分よりも背の低い樹氷もちらほら出てきて、その愛くるしい姿に心が癒された。

樹氷のさまざまな表情
樹氷のさまざまな表情を楽しむ
小さい樹氷
人間よりも小さい樹氷

上部に進むにつれて尾根は細くなり、向かって右側には立派な雪庇も現われた。雪庇の下は緩やかな斜面となっているので、仮に落ちたとしても大したケガにはならないだろうが、下を歩く人に雪の塊が当たると一大事なので、ほかの登山者のためにもあまり近づきすぎないように注意したい。

登り切ったところから森吉山に目を向けると、大きな斜面には無数の樹氷が立ち並んでいた。その斜面から右には、緩やかで優しい稜線が斜面を包むようにしてすーっと奥まで延びていた。稜線上は、樹氷は少なく視界が開けているが、いくつか樹氷の群れが遠すぎず近すぎない距離にあり、こちらも景色と樹氷の両方を楽しめる稜線になっていた。

森吉山の斜面の樹氷
森吉山の斜面にはたくさんの樹氷
山頂へと続く稜線
山頂へと続く稜線も美しい

稜線を実際に歩いてみると、小刻みなアップダウンがあり、景色が単調ではないことに驚いた。堂々と鎮座する森吉山も、見る高さや場所を変えることによって微妙に表情を変えるので、見逃せなかった。途中で現われる樹氷だけでなく、雲の影で山の色が移り変わるのも、登山者を飽きさせないアクセントになっていた。

変わっていく景色
歩き進めると景色が変わっていく
鞍部から見た斜面
鞍部から見た斜面はさらに迫力があった

樹氷たちに見下ろされながら坂を登っていくと、頭まで隠れそうな阿仁避難小屋が現われた。この日のように風が強い時や天候が悪い時には重宝する存在でありがたい。

立ち並ぶ樹氷
斜面の上には樹氷が立ち並ぶ
阿仁避難小屋
阿仁避難小屋

そこから少し下り、再び真っ白な平原を進んでいくと、最後の登りに差し掛かる。登りといっても相変わらず傾斜は緩やかで、途中には平らになるところもあるので、苦労することはなかった。ただし、上に進むにつれて風の勢いが増していくため、ゴーグルがないと目の周りが凍りそうなほど寒かった。先に視線を移すと、風が巻き上げた粉雪で青空の色味が薄まって見えた。

山頂が近づくほど樹氷は低くなっていき、最終的には自分の背丈より低いものがほとんどになった。

山頂までの緩やかな傾斜
山頂までは緩やかな傾斜が続く
背の低い樹氷
背の低い樹氷が増えてくる

山頂に着くと、今までは森吉山の後ろに隠れて見えなかった山々がその姿を現わす。一際目を引くのはやはり岩手山だろう。八幡平(はちまんたい)から南へと延びる通称・裏岩手縦走路には同じくらいの背丈の山々が連なっているが、その中で岩手山は群を抜いて高い。そして、岩手県側から見る端正な姿と違い、こちらから見る岩手山は実に荒々しかった。暴風に晒されていることも忘れ、その力強くも美しい眺めに、思わず見入ってしまった。岩木山(いわきさん)、八甲田山、白神岳(しらかみだけ)は登っている途中にも見えていたが、山頂ではより明瞭に山々を眺めることができた。

雪で肥大化した標識
山頂標識は雪で肥大化していた
山頂からの眺め
八幡平から岩手山まで眺めることができた

景色に満足し下山を開始すると、風によって吹き上げられた雪がパチパチと顔に当たって痛かったが、バラクラバをつけようか悩みながら歩いていると、いつの間にか風が弱まっていた。

来た道をそのまま戻ってもよかったが、天気がよくて視界も良好であることから、トレースから外れて、樹氷の集まる場所へと向かった。山頂から100mほどしか標高差がないのにも関わらず、樹氷の高さは雲泥の差だ。巨大すぎる樹氷が数多く存在するため、異世界に迷い込んだような感覚に陥った。

巨大な樹氷
標高を下げると再び巨大な樹氷が増える
個性豊かな樹氷たち
個性豊かな樹氷たち

その後もさまざまな樹氷と触れ合いつつ進み、森を抜けると、阿仁避難小屋手前の雪原に出た。汚れのない純白の雪面が美しく、いつまでもここにいたいと思ったが、下山後の予定も詰まっていたため、ゴンドラへと向かうことにした。森吉山が見えなくなってしまう直前で、最後にもう一度振り返り、白く輝く森吉山と吸い込まれるような紺碧の空に別れを告げた。

阿仁避難小屋手前の雪原
阿仁避難小屋手前の雪原
森吉山と空
森吉山と紺碧の空

(山行日程=2025年2月15日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 5時間 ※積雪状況による
行程:山頂駅・・・石森・・・阿仁避難小屋・・・森吉山・・・阿仁避難小屋・・・石森・・・山頂駅
総歩行距離:約5,100m
累積標高差:上り 約352m 下り 約352m
コース定数:11
アドバイス:森吉山阿仁スキー場の駐車場を利用。近くにコンビニなどはないので、昼食や行動食は事前に購入しておくといい。
こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

この記事に登場する山

秋田県 / 奥羽山脈北部

森吉山 標高 1,454m

秋田県内陸部の北秋田市にあり、古来から霊山として多くの信仰を集めてきた。アスピーテ型火山独得のなだらかな山容の頂上部周辺は、アオモリトドマツなどの原生林が覆う。山頂からは360度の展望で、奥羽山脈をはじめ遠く島海山まで望める。入山コースは、様田コース(こめつがコース)や松倉コース、ヒバクラコースなど複数ある。 旧阿仁町はマタギの里としても知られているが、近年、ヒグマやツキノワグマが飼育されている「くまくま園」があり、観光スポットとなっている。森吉山東麓にある太平湖の湖上遊覧も楽しい。ここに注ぐノロ川を遡行すると、三階滝、桃洞滝などがあり、秘境ムードが味わえる。  

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