地方移住後の生活費|毎月いくらで暮らせるか?

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気になるけれど、なかなか聞けない移住後のお金の話。毎月いくら収入があれば暮らしていけるのか? こればかりは実際に住んでみないと、なかなか想像できないと思います。今回は、私の実体験と移住者の話をもとに、地方移住後の生活費について紹介します。

文・写真=鈴木俊輔

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安曇野の熱気球
2月と3月にだけ見られる安曇野の熱気球

「地方での生活はお金がかからない」は本当か?

一般的に地方での暮らしは都会ほどお金がかからないイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えません。長野県内に住む移住者の話を聞くと、以前よりも生活費が多くかかるようになったという声もあります。その理由を尋ねると、「冬の暖房代がかかる」「近くに安いスーパーがない」など。一方、ライフスタイルを変えて、少ない生活費でも暮らせるようになったという声もあります。

わが家の場合は、トータルでの生活費は移住前より約3割減。感覚的には月20万円あれば、家族3人でなんとか暮らしていけます。支出のなかでも減った科目もあれば増えた科目もあります。

【減った支出】
・住居費 ・交際費 ・娯楽費
【増えた支出】
・交通費 ・水道光熱費

いちばん減ったのは「住居費」です。神奈川県に住んでいたときのアパートの家賃は月11万円。移住後に借りた家の家賃は月5万円。現在はその家を購入して住んでいるため、住居費としてかかるのは固定資産税と家の修繕費くらいです。ちなみに、私が住んでいる安曇野・大北地域では、一戸建ては月5〜7万円の借家物件が多く、アパートは月4〜6万円が相場。都会の物件と比べてそれほど安いわけではありませんが、間取りは広いです。

「交際費」と「娯楽費」も大きく減りました。会社員時代は飲み会に行ったり、休みの日は退屈しのぎに買い物に出かけたりして出費もそれなりでした。移住してからはそうした機会はめっきり減りました。

逆に増えた支出は「交通費(=自動車費)」。移住前は車を持っていなかったのですが、いまでは2台あります。こちらでの主な交通手段は車で、「大人の数だけ車がある」という家が多い。車検や自動車任意保険、自動車税、ガソリン代など、車の維持費が占める支出のウェイトは大きいです。

また、意外と高いと思ったのが「水道光熱費」。私が住む地域では、ガスは都市ガスではなくプロパンガスなので、やや割高。水道料金も高く、その額は移住前の約1.5倍です。いちばんかかるのは、冬場の暖房費。寒さの厳しい長野県では暖房の使用期間が長く、その分お金もかかります。わが家の場合は薪ストーブをメインに使っているので暖房費はだいぶ抑えられますが、ファンヒーターやエアコンだけで冬を過ごすとなると、かなりの支出です。家で床暖房を使用している知人は、1週間にポリタンク2個分の灯油が必要と話していました。

雪景色
3月の雪景色、信州の春はまだ先

地方移住すると収入は減るのか?

都会から地方へ移住する場合、同じ職種に転職したとしても収入は減ります。こちらの求人票などで正社員の給与額を見ても、都会に比べて2割か3割少ない印象です。ちなみに、2025年3月時点の最低賃金(時給)を比較すると、東京都は1,163円、長野県は998円。仮に、長野県でこの時給で1日8時間、週5日働く場合、1カ月の収入は次のようになります。

日給: 998円 × 8時間 = 7,984円
週給: 7,984円 × 5日 = 39,920円
月給: 39,920円 × 4週間 = 159,680円

アルバイトのフルタイムで働いた場合の1カ月の賃金は約16万円。この収入で暮らしていけるかというと、私の感覚だと一人暮らしなら可能ですが、家族を養うとなるとなかなか難しい気がします。ちなみに、私が長野県に移住した最初の年は、地域おこし協力隊の月給が当時16万6千円で、そこから年金や保険料が差し引かれて手取りは14万円くらい。住民税の金額は前年の収入で決まるため、フルタイムで働いていた私たち夫婦にとっては大きな支出でした(翌年は非課税世帯)。ある程度の貯金はあったものの、いつまでも貯金を取り崩すわけにもいかず、協力隊の収入でも生活していけるようにライフスタイルをシフトしていきました。

ハローワークで配布されている求人票
ハローワークで配布されている求人票

移住をきっかけにライフスタイルをシフト

移住後のライフスタイルを考えるにあたっては、『自立力を磨く』(藤村靖之著)や『ぼくはお金を使わずに生きることにした』(マーク・ボイル著)が面白くインスパイアされました。私が意識したポイントは次の3つです。

①できることは自分でやる
②消費するよりもつくる
③あるもので楽しむ

①は以前この連載でも書いた通り、できるだけお金をかけずに暮らしをDIYするというもの。つい先日はお風呂場の換気扇が壊れたので、住宅設備屋の父に電話で聞いて自分で修理しました。DIYは得意ではありませんが、ネット動画などを参考にすれば自分でできることもたくさんあります。

②は消費する楽しみではなく、自分で作る楽しみを見つけること。例えば、移住してからコーヒー豆の焙煎をマスター。生豆代はかかりますが、カフェに行くよりもお金はかからず、いつでも新鮮でおいしいコーヒーを飲めます。

③については、移住前は国内外をあちこち旅していましたが、いまでは近くに楽しみがあるので遠出をする機会が減りました。山の近くに住んでいるため、日帰り登山も可能です。登山に行ってもかかるのは車のガソリン代くらい。帰りに温泉に寄っても、千円あれば極楽気分です。

書籍
私の愛読書

本当に好きなことにお金を使う

移住した当時よりも収入は増えましたが、基本的にライフスタイルは変えていません。必要のないことは節約して、好きなことにはお金を使うようにしています。例えば、私がいま乗っている4WDの軽自動車は自動車整備の仕事をしている知人から20万円で譲ってもらったもの(走行距離6万キロ、スタッドレスタイヤ付き)。ふた昔前の車種ですが問題なく走ります。私にとって車は趣味でもなければステータスシンボルでもなく、安全に走ればそれで良し。いかしたSUVに乗りたい気持ちもないわけではありませんが、その優先順位は極めて低い。

一方、食べ物にはこだわり、できるだけ良い食材を買って手間ひまかけておいしい料理を作ります。また、物を買うときは、流行り廃りがあるものやすぐに壊れそうなものは選ばず、多少高くても10年以上使えて気に入ったものを選んでいます。

先述した通り、都会から地方に移住すると一般的に収入は減りますが、ライフスタイルを工夫すれば生活は可能です。他の移住者を見ても、増えた時間で工夫しながら暮らしている印象です。私の場合も東京でサラリーマンを続けていれば、いま以上の収入があったかもしれませんが、山の近くでの愉快な生活は手に入りませんでした。自分にとって何が大事なのか、移住にあたってはその人の価値観が問われます。

爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳を背景に
爺ヶ岳と鹿島槍ヶ岳を背景に

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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