古道・御坂みちと御坂峠越え。葛飾北斎や太宰治、古人の足跡に触れる歴史探訪ハイキング

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読者レポーターより登山レポをお届けします。上町嵩広さんは浮世絵に描かれた御坂(みさか)峠の古道歩きへ。

文・写真=上町嵩広

御坂トンネル手前
御坂トンネル手前で右手の道に入る

東京ではすっかりサクラも散ってしまいましたが、バスの窓の外を見ると河口湖付近ではちょうど満開。外国からの観光客も多く、バスは満員です。河口湖側から甲府行きの路線バスに乗り、三ツ峠入口バス停で下車しました。国道137号の御坂トンネルの手前になります。

今回は三ツ峠入口バス停から古道・御坂みちに入り、御坂山地の稜線へ上がり、東進して太宰治ゆかりの天下茶屋へ下りていきます。そこから再び三ツ峠入口バス停まで歩いて戻ってくる行程です。地図上、御坂峠が2つあり、わかりにくいのですが、ここでは便宜上、現在の御坂トンネル側を西御坂峠、旧御坂トンネル側を東御坂峠と呼んでおくことにします。

御坂峠・針葉樹の森の中
登山道の登り始めはスギなど針葉樹の森の中

下りたバス停の反対側に道を渡ると三ツ峠登山口につながる横道に入ります。そのすぐ左手に御坂峠と記載の道標があります。空を見上げると薄雲がかかっていました。黄砂の予報も出ているので富士山がきれいに見られるかなぁーとちょっと心配です。

登山道途中にある石仏
登山道の途中には石仏などが残る

登山道を登っていくと、スギなどの森の斜面を稜線に出るまでつづら折りで上がっていきます。次第に葉を落とした木々が増えてくると、左手に富士山が見えてきました。今回の登山の目的のひとつは葛飾北斎や歌川広重が浮世絵に描いた御坂峠からの富士山の姿を探訪してみること。

かつての茶屋
西御坂峠にはかつての茶屋がまだ立っている

クヌギやコナラなどの落ち葉が敷き積もった道を踏みしめながら登っていきます。傾斜が緩んでくるともうすぐ西御坂峠です。峠は開けた広場となっており、かつてのお茶屋さんの建物がまだ残っています。もう営業はしていませんが。ここで一息入れました。

御坂山地稜線からみた富士山と河口湖
稜線から見た富士山と河口湖の眺望

峠から左手に行けば御坂山地の黒岳、そして右手に進めば御坂山を経由して東御坂峠となります。今回は天下茶屋に立ち寄りたかったので東御坂峠へ向かいます。稜線を進み鉄塔の前を通り過ぎると、南側に展望が大きく開けています。しかし富士山は春霞のためかクッキリとは見えません。冠雪もあり、まるで空と一体化して溶け込んだような眺めです。

稜線の森はまだまだ冬枯れのまま。新芽がようやくわかる程度で緑や花もなく、彩りは寂しいです。しかし野鳥たちはさかんにさえずりを響かせていました。また日差しは暖かく快適なハイキングで足取りも軽くなります。

歌川広重「甲斐御坂越」
歌川広重「甲斐御坂越」(国立国会図書館所蔵)国立国会図書館デジタルコレクション収録
葛飾北斎「冨嶽三十六景 甲州三坂水面」
葛飾北斎「冨嶽三十六景 甲州三坂水面」(東京富士美術館所蔵)東京富士美術館収蔵品データベース収録

御坂峠はかつて甲府と鎌倉を結ぶ鎌倉往還でした。東西に走る御坂山地は甲府側と富士山側の障壁で境となっていました。旧御坂トンネルが完成するまでは峠越えで往来していたそうです。御坂の名はヤマトタケルが峠を越えたことに由来するとのこと。江戸時代には葛飾北斎が「富嶽三十六景」、歌川広重も「富士三十六景」で浮世絵に描いています。甲府側からやってきた旅人は御坂峠を登りきって富士山の姿を目にしたときに、さぞかし感嘆したことでしょう。

富士山と河口湖
浮世絵の構図と近しい富士山と河口湖

さらに東御坂峠の方へ進むとふたたび富士山の展望地が現われます。浮世絵に描かれた富士山と河口湖の位置関係や構図からすると、こちらの方がより近いでしょうか。その先で東御坂峠となり、ここから天下茶屋に向けて稜線から麓へ下りていきます。

コガラ
さかんにさえずりを響かせていたコガラ

ここでご褒美がひとつ。これまで鳴き声はたくさんすれども姿をまったく見ることができなかった鳥の姿を、目の前で捉えることができました。まるで「撮って♪」と言わんばかりにピタリと止まってくれています。スマートフォンの画像検索機能で調べるとコガラのようです。

太宰治の文学碑
太宰治の文学碑
太宰治ゆかりの天下茶屋
太宰治ゆかりの天下茶屋

登山も最終盤です。斜面を下りていくと建物の屋根が見えてきました。「富士には月見草がよく似合ふ」で始まる太宰治の文学碑を過ぎると旧御坂トンネルそして天下茶屋に下りてきます。今回のもうひとつの目的です。

天下茶屋の味噌田楽
天下茶屋の味噌田楽

歴史を感じる天下茶屋の建物。おじゃまして今回の山行の二番目のご褒美として味噌田楽をいただきました。お店自慢の手作りの甲州味噌ダレの甘味が登山後にはうれしいです。お食事をいただいてお店の方にお願いすれば、2階の太宰治の資料展示スペースを見学することができます。

天下茶屋の前から望む富士山と河口湖
天下茶屋の前から望む富士山と河口湖

かつてこの部屋に太宰治と井伏鱒二が実際に滞在していたと思うとちょっと感慨深い。最後に天下茶屋の前から富士山を拝みます。富士山と麓に湖と裾野が広がり、スケール感のあるなかなか雄大な景色です。文学の素養などない私ですが、太宰治ならずとも思い出を作品に残す気持ちがわかるような気がしました。

カモシカ
三ツ峠入口バス停そばで目が合ったカモシカ

ここからは三ツ峠バス停まで県道708号の舗装道路の下り坂をひたすら歩いて下っていきます。登山靴歩きにはちょっとツライ。1時間余り歩き、ようやくバス停に到着です。ため息をつきザックを下してバスを待ちます。すると道路の反対側でなにやら繁みを揺らす音。最後にカモシカと遭遇することができました。最後のご褒美です。

歴史ある峠越えの道の雰囲気を感じ、さらに北斎、広重そして太宰治といった歴史上の人物の足跡にも触れて、野生動物にも出合えた実りある古道歩きの登山でした。

(山行日程=2025年4月19日)

MAP&DATA

高低図
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最適日数:日帰り
コースタイム: 4時間50分
行程:三ッ峠入口・・・御坂峠・・・御坂山・・・旧御坂峠・・・天下茶屋・・・三ッ峠登山口バス停・・・三ッ峠入口
総歩行距離:約10,100m
累積標高差:上り 約810m 下り 約810m
コース定数:20
上町嵩広(読者レポーター)

上町嵩広(読者レポーター)

登山歴は15年ほど。普段は奥多摩や丹沢周辺に出没し、八ヶ岳や北アルプスにも出張ります。好きな山は八ヶ岳の編笠山。山の抱負は「ちょっとだけ背伸びした山を登ってみる」。

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