四国一美しい稜線をたどり、剣山から三嶺へ縦走
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは四国の剣山(つるぎさん、1955m)から三嶺(みうね)を縦走。
文・写真=こう
四国で最も美しいと称される剣山から三嶺へと続く縦走路。標高は2000mに満たないものの、稜線上に木々は少なく、眺望が開けた開放的な稜線歩きが楽しめる。そして、なんといってもササに覆われた稜線に一筋の道が延びる景色が美しい。この魅惑の稜線を一度歩いてみたいと思い、剣山から三嶺への縦走を計画した。
予報では、2日目が曇りのち雨となっていたため、1日目に剣山側の見ノ越登山口から登り、一気に三嶺まで歩き、2日目は三嶺ヒュッテから下山するのみとした。
1日目:見ノ越登山口〜剣山〜三嶺〜三嶺ヒュッテ
剣山の駐車場から道路を歩き、石段を登り剣神社へ行く。剣神社から右手にある登山口に向かうと、右側の展望が開け、朝日で赤く染まる三嶺の姿が見えた。実際に目にすると想像してたよりも遠く感じ、日が暮れるまでに行けるだろうかと心配にもなったが、まずは目の前の剣山に登ることに専念した。
登山道はつづら折りになっているため、寝ぼけた体を起こすのにいい運動になった。登山道の上にはリフトがあり、営業時間内であればリフトを使って登ることも可能だ。リフトの降り口である西島駅近くには、キャンプ場があり、当日はテントがいくつか張られていた。リフト降車場の右脇に登山道を進むと、ほどなくして東側の景色が開け、ようやく太陽とご対面することができた。
途中には残雪があったが、除雪されたためか登山道に雪はなく、快適に歩くことができた。段差の低い階段をゆっくりと登っていくと、剣山頂上ヒュッテが現われた。ヒュッテでは食事の提供をしているほか、カイロやレインコートの販売もあり、観光客や登山初心者にも優しい小屋だと感じた。小屋を出て山頂方面へ少し登ると公衆トイレがあったのだが、そこが山のトイレとは思えないほどのきれいさを保っていたのに驚いた。
山頂に行く前に展望デッキへと向かい、幾重にも連なる山々を眺めた。もっと時間に余裕があれば、ここで景色を眺めながらのんびり朝食でもとりたかったが、あいにくそこまでの余裕はなかったので、景色を写真に収め、足早に立ち去った。
山頂までの緑豊かな斜面には木道が整備されており、景色を楽しみながら散歩しているうちにたどり着いた。登山口から剣山山頂まではあっという間だったが、今回の行程ではここまでがウォーミングアップで、ここから先の三嶺までの縦走路がようやく本番である。
剣山山頂から先に進んでいくと、次にめざす次郎笈(じろうぎゅう)が現われる。実際目の当たりにした次郎笈は、写真で見るよりも迫力があり、大きく見えた。
剣山と次郎笈の間にはいくつかのアップダウンがあったが、いずれも緩やかなので、苦しむことはなく、景色を楽しみながら目の前にそびえる次郎笈へと迫っていった。
次郎笈峠から山頂へは急な登りになるが、距離がさほど長くない上に、中腹はなだらかになっていて息をつくこともできるので、見た目ほど辛くなく、剣山の勇姿に背中を押されながら、順調に標高を稼いでいった。
縦走路から少し離れた山頂に寄り道して休憩を取ったが、今後の行程を考えてあまり長居はせず、行動食を食べた後はすぐに発った。
分岐まで戻り、三嶺方向へと進んだ。一度下り、次郎笈峠からトラバースしてくる道と合流すると、緩やかな登りが始まる。ここから丸石と呼ばれるピークまではササの稜線が続く。剣山に自生するミヤマクマザサは、本州によくある視界を奪われるような背の高いササではなく、せいぜい足首程度くらいの高さしかないので、歩いたり景色を眺めたりするのに邪魔になることはなかった。そんなミヤマクマザサの美しい景観を楽しみながら丸石へと向かった。
丸石を過ぎると樹林帯に入り、景色が一変する。枯れ木なのかまだ時期ではないだけなのかはわからないが、枝先に葉はなく日差しがよく入ってきた。丸石避難小屋を過ぎて、高ノ瀬が近づくにつれて徐々に傾斜が増していく。ルートがややわかりづらく、素直に踏み跡を追っていくとそこは正規のルートではなかった。道を間違えると戻るのに時間がかかるため、焦らず慎重にルートを見極めたいところだ。高ノ瀬の山頂は大して広いわけではなかったが、空いてるスペースを見つけて腰を下ろし、急登で乳酸が溜まった足を少し休ませた。
高ノ瀬の先は再びササの稜線となる。加えてこちらには、白い岩が点在している。四国の山に対して、草原のような稜線と白い石灰岩というイメージを勝手に抱いていたが、このあたりがまさしくそのイメージにぴったり当てはまる景色だった。
斜面をトラバースしながら登っていくと、開けた草原に出る。牧歌的な景色が広がる心地のよい空間で、そこにいるだけで心が和んだ。
台地上の平らな稜線を歩いていくと、一度標高を下げてから再び同じくらいの標高を上げ直す。ここまで陰ることなく照り続けている太陽は、正午に差し掛かりその威力をさらに増していた。風が通らないところを歩いていると、四国はもう夏になっているのではないかと感じるほどだった。
白髪避難小屋まで来ると水場の看板が現われた。剣山から三嶺までのロングルートにおいて数少ない貴重な水場ではあるが、150mほど下るようだったので、あえて向かわなかった。
白髪避難小屋付近からカヤハゲへと向かって歩き出すと、地面を覆うササがカヤへと変わった。分岐のあるピークまで登るとカヤハゲと三嶺が見えるが、カヤハゲはその名が表す通り、カヤに覆われた山で木々がなかった。
カヤハゲの山頂手前には大きな岩があり、休むのにちょうどよかった。少し冷たい風が心地よく、しばらく休んでいたが、次第に身体が冷えてきたので先へ進むことにした。
カヤハゲを登りきると正面に三嶺が現われる。重厚な雰囲気があり横にも上にも大きいその姿は、アルプスの山々に引けをとらない迫力を備えていた。いくつかある小刻みなアップダウンを越えて三嶺直下まで行くと、目の前には壁が立ちはだかっているようだった。上に向かっている道の先には、天狗岩と呼ばれる巨岩が待ち受けており、鎖を使いながらそのすぐ脇を登っていく。そこから先も一部緩やかな区間を除いては、鎖場や急登が続くので、落ち着ける場所で息を整えつつ焦らずゆっくり登りたいところである。
山頂は展望がよく、その日歩いてきた道のりを一望することができ、遠くまで延びる線の先には剣山と次郎笈が小さく見えた。西には広大な稜線が広がっており、そちらも魅力的に思えた。
山頂から小屋までの距離はわずかだが、すばらしい景色に目を奪われてしまって、なかなか足が進まない。
特に小屋の手前にある池は、青空を映し出す鏡のようで、天空の池と呼ばれるのにふさわしい景色だった。
三嶺ヒュッテは無人の山小屋だが非常にきれいな小屋で、一晩過ごしてもまったくストレスはなかった。数には限りがあるが銀マットや毛布も借りることができるようだった。トイレは汲み取り式だが、汚れや臭いなどはなく、気持ちよく利用することができた。トイレットペーパーは持参しなければならないため、忘れず持っていく必要がある。
小屋内で早めの夕食を済ませ、夕日を見るために散歩に出かけて、池がよく見える岩の上で景色が赤く染まるのを待った。西の空に雲が多く、期待していたほど焼けなかったが、残照で色づく草原は美しかった。
2日目:三嶺ヒュッテ〜名頃登山口
雲が多く朝日は望めないかと思ったが、奇跡的に10分ほど雲が避けてくれたおかげで朝日を拝むことができた。ただし、予報どおりこの日は天気がよくないようなので、予定よりも出発を早めて下山を開始した。斜面に切られた登山道は景色がよいので、景色を眺めながら歩きたくなるが、斜面を転げ落ちる可能性があるので、ところどころで立ち止まって景色を楽しんだ。前日のルートに引き続き、こちらのルートにも巨岩があった。
その先はザレ場では滑らないよう注意して通過した。水場もあるようだったが、白髪避難小屋の水場と同様にこちらもなかなか下らなければいけないため、必要な水分は下から持っていくのが無難だと感じた。
樹林帯へと入っていくと、基本的には緩やかな道となり、急なところはつづら折りになっていたので、安心して下ることができた。ぽつぽつと降り始めた雨は、これから本降りになるかと思われたが、杞憂に終わり、登山口まで雨に当たらずに下ることができた。
憧れだった四国一美しい稜線の縦走は、天気にも恵まれたおかげで、思い出深いものとなった。
(山行日程=2025年4月27~28日)
MAP&DATA
【2日目】2時間
見ノ越・・・西島駅・・・刀掛ノ松・・・頂上ヒュッテ・・・剣山・・・ジロウギュウ峠・・・次郎笈・・・丸石・・・奥祖谷二重かずら橋分岐・・・高ノ瀬・・・石立分岐・・・平和丸・・・白髪避難小屋・・・白髪ノ別れ・・・カヤハゲ(東熊山)・・・三嶺・・・三嶺ヒュッテ
【2日目】
三嶺ヒュッテ・・・ダケモミの丘・・・名頃登山口

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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