
中央アルプスってどんなところ?
日本アルプスのなかの中央アルプス。聞いたことはあるけど、どんなところか知っていますか? 中央アルプスの概要と魅力を写真とともに解説します。 今年は中央アルプスの山行計画を立ててみませんか。
文・写真=津野祐次
中央アルプス(木曽山脈)は長野県の南部、日本アルプスの中間に連なる山脈。規模は、日本アルプスの中では最小。しかし氷河地形や周氷河地形が見られ、後世に守り残すべき自然として2022年3月27日に国定公園に指定された。登山基地の千畳敷(せんじょうじき)は標高2612m、麓から路線バスやロープウェイなどの公共交通機関を利用して約1時間で上がれ、日本屈指の山岳景観や高山植物群落が手軽に楽しめる。各名峰をめざす麓からのコースや大展望の待つ縦走まで、初心者、中級者、本格派向けまで、実力に合わせたコースを計画できる。中央アルプスのさまざまな情報を紹介しよう。
中央アルプスの山々
中央アルプスの全体を、概念図から見てみよう。
中央アルプスは南北2つに分けられる。北部は高山帯の峰々で、北の経ヶ岳(きょうがたけ)から南の恵那山(えなさん)までが範囲。木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ)を主峰に中岳(なかだけ)、宝剣岳(ほうけんだけ)が最北部を形成している。木曽駒ヶ岳から派生する尾根に木曽前岳(きそまえだけ)、麦草岳(むぎくさだけ)、将棊頭山(しょうぎがしらやま)が、宝剣岳から派生する尾根に伊那前岳(いなまえだけ)、三ノ沢岳(さんのさわだけ)が座る。宝剣岳以南は、濁沢大峰(にごりさわおおみね)、檜尾岳(ひのきおだけ)、熊沢岳(くまざわだけ)、東川岳(ひがしかわだけ)、空木岳(うつぎだけ)、南駒ヶ岳(みなみこまがたけ)、仙涯嶺(せんがいれい)と続き越百山(こすもやま)が南北を区切る。宝剣岳以南は、地形的な変化が著しく高山景観がみごとで、登山者に人気のある山域だ。
一方、南部は越百山以南で、奥念丈岳(おくねんじょうだけ)から安平路山(あんぺいじやま)、摺古木山(すりこぎやま)、富士見台(ふじみだい)、恵那山を経て大川入山(おおかわいりやま)までが範囲で、森林帯の山々だ。奥念丈岳から安平路山の間は、登山者は極端に少ない。
中央アルプスの生い立ちと地形
中央アルプスは、長野県南部の木曽側、伊那側の逆断層により中央部が絞り出されるように形成された。南北約100㎞、東西約20㎞、高さ3000m弱の山々が、南北ほぼ一直線に連なる。東西側とも麓から一気に高度を上げる急峻な地形で、小さな渓谷がいくつもあり、滝が随所に飛沫を落とすのが特徴。また国内最大の花崗岩山塊群だ。
さらに各名峰直下に氷河時代の産物、圏谷が遺存する。そこは森林限界に位置し、新緑と紅葉が優美。加えて高山植物の宝庫となっている。なかでも有名な圏谷は、木曽駒ヶ岳の氷河湖・濃ヶ池(のうがいけ)、宝剣岳の千畳敷、南駒ヶ岳の摺鉢窪(すりばちくぼ)だ。中岳山頂一帯に周氷河地形が顕著に見られ、針状の岩塊地が観察できる。
魅力ある峰々とその特徴
木曽駒ヶ岳を代表格に、将棊頭山、檜尾岳、南駒ヶ岳、越百山の諸峰は、弓状を描く優しい山容で歩行の難易度は高くない。
一方で花崗岩剥き出しの鋭鋒、宝剣岳と空木岳と仙涯嶺はともに中ア三大岩峰と呼ばれ、牙城を彷彿させる難攻不落の砦。通過の際は滑落に注意を要するが、鋭い山姿はフォトジェニックである。
中ア唯一の氷河湖・濃ヶ池は、湖面に木曽駒ヶ岳や宝剣岳が映え、静寂神秘にたたずむ。独立峰的な三ノ沢岳は、木曽側へ張り出した山であり、山頂から望む中アと南アの二重山稜の景観はいちおし。高山帯の主脈上の山々からは、南アルプス、八ヶ岳、御嶽山、富士山などの展望に恵まれる。この山脈の地形的特徴から彩雲など珍しい気象現象も期待できる。
中央アルプスの歴史
木曽駒ヶ岳周辺の記録に残る登山史は、1338年高遠家親(たかとういえちか)が山道を開削、八社の大神を祭った。1532年上松町徳原(あげまつまちとくはら)の神官・徳原長太夫が頂上に駒ヶ岳奥社を奉祀。尾張出身の恵那山で修験道を研鑽した覚明行者(かくめいぎょうじゃ)は、伊那から将棊頭山を経て行者岩に登り、尊像を刻み木曽へ下山。これが木曽駒ヶ岳開祖の由来となった。1784には年高遠藩(たかとうはん)・郡代(ぐんだい)の坂本天山(さかもとてんざん)らが集団で登り領地検分を行なう。その時詠んだ漢詩は勒銘石(ろくめいせき)として伊那前岳に今も残る。
1913年に起きた中学校の集団登山での痛ましい遭難事故は「聖職の碑」として新田次郎によって小説化され、遭難の碑が将棋頭山の南西の登山道に安置されている。この事件を契機に、山小屋や登山道の整備が進み、1976(昭和42)年、駒ヶ岳ロープウェイが架けられた。
中央アルプスの花たち
中央アルプスは広大な群落こそ少ないが、種の多さは際立つ。登山口付近の山地にはカタクリやトリカブト類などが、森林帯にはイワカガミ、ヤナギラン、スズランなどが、亜高山帯から森林限界にはハクサンイチゲ、シナノキンバイ、コバイケイソウなどが、高山帯には特産種のコマウスユキソウ、コマクサ、イワツメクサ、イワギキョウ、ミヤマキンバイなどが株状に身を寄せ集めて群生する。
それぞれの地に、それぞれが子孫を残そうと懸命に可憐な姿で命を繋いでいる。一本一本の花には進化の妙味や、造形の趣や、色彩の豊かさが際立つ。けれども高山という特異な地形にみごとにマッチして群生する姿には、複合的な美しさが加わる。千畳敷はそれを代表するだろう。
山小屋とキャンプ場は
通年営業はホテル千畳敷のみ。近年、檜尾岳(ひのきおだけ)にテント場が新設され、檜尾小屋が改装された。宝剣岳と空木岳間の縦走者に援軍となるだろう。
季節限定は、木曽駒ヶ岳周辺に宝剣山荘、天狗荘、頂上山荘、頂上木曽小屋、玉乃窪山荘が、将棊頭山に西駒山荘が、空木岳に木曽殿山荘が、越百山に越百小屋がある。空木岳には山岳会所有の空木駒峰ヒュッテが立つ。いずれの小屋も事前の予約が必要。営業期間や利用料金、内容などはそれぞれの山小屋情報を要確認。
避難小屋は、木曽福島コース七合目、上松コース七合目、桂小場コース六合目下、空木平、池山尾根、越百小屋隣接、安平路山、富士見台、恵那山にある。テント場は頂上山荘と宝剣山荘と先述の檜尾小屋の3か所だ。
プロフィール
津野祐次(つの・ゆうじ)
写真家。92年に写真事務所新設。撮影会や講演会の講師、テレビ出演も多い。写真を常設したギャラリーが伊那市長谷にある。写真集『雲上浪漫』など著書22冊、共著多数。
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