北アルプスってどんなところ?

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新潟・富山・岐阜・長野の4県にまたがる、北アルプス。一口に「北アルプス」といっても、その範囲はとても広く、アルプス的景観も多種多様です。絶景の北アルプスの解説を、山岳カメラマン・菊池哲男さんの解説でお送りします。

文・写真=菊池哲男

北穂高岳より深く切れ落ちた大キレット越しに槍ヶ岳を望む
北穂高岳より深く切れ落ちた大キレット越しに槍ヶ岳を望む

北アルプスは、本州の中央部に位置し、南北約100km、東西約25kmに及ぶ飛彈山脈の通称。3000m級の高峰が連なり、山好きなら一度は登りたいと憧れる名峰がいくつも集まっている。日本アルプスのなかでも最も北にあるため平均気温が低く、日本海の影響を受けるために冬期の積雪も多い。このためカール地形に代表される氷河跡があちこちに見られ、最近になって剱岳(つるぎだけ)や白馬岳(しろうまだけ)ほかで氷河の存在が確認された。森林限界も低く、夏には豊富な残雪がとけたところからさまざまな高山植物が入れ替わり咲き乱れ、疲れた登山者を癒やしてくれる山上の楽園と化す。どこかスイスアルプスを彷彿させるような、山々が織りなす壮大な景色が続く。

北アルプスでは山そのものが誘いで、1つの山の頂に立てば、「次はあの山へ登ろう」とふつふつと熱い思いが湧きだし、熱い目で立ち尽くしていることだろう。

北アルプス概念図

北アルプスを構成する名峰たち

北アルプスには日本アルプスを代表する名峰がいくつも存在する。よく知られている深田久弥(ふかだきゅうや)氏選出の「日本百名山」だけでも13座<白馬岳、五竜岳(ごりゅうだけ)、鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ)、剱岳、立山(たてやま)、薬師岳(やくしだけ)、黒部五郎岳(くろべごろうだけ)、水晶岳(すいしょうだけ)、鷲羽岳(わしばだけ)、槍ヶ岳(やりがたけ)、奥穂高岳(おくほたかだけ)、常念岳(じょうねんだけ)、笠ヶ岳(かさがたけ)>があり、焼岳(やけだけ)や乗鞍岳(のりくらだけ)も加えると15座にもなる。これは南アルプスの10座、中央アルプスの3座に比べると圧倒的に多い。

北アルプスの北部は急峻で深い黒部峡谷(くろべきょうこく)で東西に分断され、西側に剱・立山連峰(つるぎ・たてやまれんぽう)、薬師岳そして黒部五郎岳と南へ続き、東側には白馬岳から五竜岳、鹿島槍ヶ岳、針ノ木岳(はりのきだけ)など後立山連峰が南へ連なり、そのまま烏帽子岳(えぼしだけ)や野口五郎岳(のぐちごろうだけ)など裏銀座と呼ばれる中央部の山々へと続いていく。これらは三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)で合流し、いよいよ北アルプス南部に位置する3000m峰の槍ヶ岳・穂高連峰と高度を上げ、焼岳、乗鞍岳で南端となる。また槍・穂高連峰の東側には北から燕岳(つばくろだけ)、大天井岳(おてんしょうだけ)、常念岳、そして蝶ヶ岳と常念山脈が前山のように並行して並び、大天井岳からは槍ヶ岳へと東鎌尾根(ひがしかまおね)が繋がっている。

蓮華山手前にあるハクサンイチゲのお花畑と白馬三山
小蓮華山手前にあるハクサンイチゲのお花畑と白馬三山

世界に誇れる日本の景色・北アルプスの地形的特徴

深く急な樹林帯を抜け、森林限界を越えると鋭角の峰々と抜けるような白い残雪が作り出す異次元のハーモニー。はじめて北アルプスを訪れた者は、日本にこんな風景があったのかと驚きを隠せないだろう。「日本アルプス」という名が最もしっくりくるのが北アルプスで、いちばんのポイントは痕跡を残す氷河地形が特徴だ。剱岳や槍ヶ岳などの岩峰は氷食尖峰(ひょうしょくせんぽう)。穂高の涸沢カールや立山の山崎カールなどの圏谷氷河とモレーン、槍沢などのU字谷など日本にも氷河があった証拠が残っていて、最近、剱岳や白馬岳、唐松岳、鹿島槍ヶ岳で氷河が認定されたのも記憶に新しい。

また、お花畑と呼ばれる大規模な高山植物の群落が多く点在するのも北アルプスの特徴で、「白馬連山の高山植物帯」として天然記念物に指定されている白馬岳をはじめ、立山・室堂周辺や五色ヶ原(ごしきがはら)、雲ノ平(くものだいら)、穂高連峰に囲まれた涸沢カール、槍ヶ岳の各沢など枚挙に暇がないほどだ。

蝶ヶ岳より槍・穂高連峰
蝶ヶ岳より槍・穂高連峰。槍沢のU字谷やカール地形がよくわかる
ミクリガ池
立山連峰と水蒸気爆発によってできた「爆裂火口」のミクリガ池
涸沢カールと前穂高岳
氷河が山肌を削り取ったお椀状の谷地形・涸沢カールと前穂高岳
岩小屋沢岳より
剱・立山連峰東面は厚い谷氷河に埋め尽くされた。岩小屋沢岳より

北アルプスで特に人気の山は?

メジャー級の山がそろう北アルプスの中でも真っ先に名前が上がるのが槍ヶ岳だろう。北アルプスのみならず日本アルプスの象徴と言っても過言ではない。どこから見ても天を突くようなピラミダルな山容が印象的で一度見つけると目が離せない。次に「岩の王国」として名高い穂高連峰<北穂高岳(きたほたかだけ)、涸沢岳(からさわだけ)、奥穂高岳(おくほたかだけ)、前穂高岳(まえほたかだけ)、西穂高岳(にしほたかだけ)>や「岩の殿堂」剱岳も本場ヨーロッパアルプスを彷彿させ人気が高い。一方、高山植物の宝庫として屈指の白馬岳も日本アルプスの女王として君臨する。同じ後立山連峰の五竜岳や鹿島槍ヶ岳も登山口までのアプローチが良く、多くの登山者に親しまれている。

また北アルプスの中央部に位置する三俣蓮華岳(みつまたれんげだけ)や黒部五郎岳(くろべごろうだけ)、雲ノ平など黒部源流の山々も北アルプスの中では最深で秘境的な雰囲気もあって、根強い人気を誇っている。深田百名山には選ばれていないものの、特異な花崗岩とコマクサの群落で知られる燕岳は稜線に建つ燕山荘の人気と相まって大人気の山となっている。こうしてみると北アルプスは、ほぼくまなく登山者が訪れる人気の山域だというのが実感できる。

槍ヶ岳と巨大な谷氷河に谷底の断面がU字型に削られた槍沢
槍ヶ岳と巨大な谷氷河に谷底の断面がU字型に削られた槍沢
残照に染まる奥穂高岳とジャンダルム
残照に染まる奥穂高岳とジャンダルムが姿を現わした。涸沢岳より

北アルプスの中で比較的静かな山域は?

登山者が多い印象のある北アルプスにあって比較的登山者が少ない山域を挙げるとすると、北部では後立山連峰の白馬岳や唐松岳から西側の祖母谷温泉(ばばだにおんせん)へのルートや蓮華温泉から白馬岳へと続く雪倉岳鉱山道(三国境からは登山者が急増)、朝日岳からの日本海の親不知まで続く栂海新道も標高が低い部分が長いため、山マニア向けといえるだろう。爺ヶ岳の種池山荘から針ノ木岳間も人気の後立山連峰にあって剱・立山連峰を眺めながら比較的静かな縦走を満喫できる。

中部では部分的に崩壊があり、難所が続く蓮華岳から烏帽子岳間や黒部湖から赤牛岳への読売新道、燕岳の北に位置する餓鬼岳なども静けさを保っている。北アルプス南部は槍・穂高を中心に人気コースが連なり、どこも週末を中心に大混雑しているが、奥穂高岳からジャンダルムを越えて西穂高岳への縦走は一般ルートとしてはかなり手強く、まだまだベテランだけの領域といえるだろう。

鳴沢岳付近より赤沢岳、針ノ木岳方面を望む
鳴沢岳付近より比較的静かな赤沢岳、針ノ木岳方面を望む
雪倉岳鉱山道の神ノ田圃より
登山者とすれ違うことが稀な雪倉岳鉱山道の神ノ田圃より

人気の山小屋・味わい深い山小屋

深田百名山の登山者が多いので、百名山の途中にある山小屋が人気といえる。受け入れ可能な宿泊者数が日本一多い白馬山荘をはじめ、槍ヶ岳山荘、穂高岳山荘、涸沢ヒュッテ・涸沢小屋、剱山荘や立山・室堂周辺の各山小屋、双六小屋、太郎平小屋、初心者向として知られる唐松岳・唐松岳頂上山荘や五竜山荘、冷池山荘も宿泊者が多い。

白馬山荘と杓子岳・白馬鑓ヶ岳
白馬岳山頂直下にある大規模な白馬山荘と杓子岳・白馬鑓ヶ岳
燕岳と稜線に建つ大人気の燕山荘
燕岳と稜線に建つ大人気の燕山荘。テント場も完全予約制だ

一方、規模はそれほど大きく無いものの三俣山荘や雲ノ平小屋など黒部源流部に位置する山小屋も別天地の感があって人気。薬師沢小屋は『山と溪谷』で2年間連載していたイラストレーターのやまとけいこ氏が支配人として勤務していて、ますます釣り好き・秘境好きなどマニアックなファンを引き付けている。またランプの宿として知られる船窪小屋(ふなくぼごや)も営んでおられた老夫婦はすでに小屋を降りてしまったが、息子さんが引き継ぎ、そのままのスタイルでしっかり守っている。

北アルプス北端にある朝日岳(あさひだけ)・朝日小屋(あさひごや)も手作りの食事がおいしいと評判の山小屋だが、コロナ以降は宿泊者数を半分程度に減らし、いち早く予約制やキャンセルシステム導入など色々工夫しながら営業を続けている。

朝日小屋
朝日小屋管理人は清水ゆかりさんで女性目線のアイデアがいっぱい

温泉のある山小屋

北アルプスには山麓だけでなく、山上に温泉がある山小屋も多くあり、魅力の一つになっている。まず筆頭に挙がるのは、白馬三山の一つ、白馬鑓ヶ岳(はくばやりがたけ)の中腹にある白馬鑓温泉小屋だろう。標高2,100mにある雲上の温泉は東側が開けた開放的な野天風呂があり、どこから来ても4時間以上はかかる秘湯中の秘湯といえる。一番標高の高い場所にあるのが立山・室堂の地獄谷温から源泉を引くみくりが池温泉。雷鳥荘、雷鳥沢ヒュッテはいずれも露天風呂はないものの、このお湯を引いている。あのウェストンが白馬岳登山の際に泊ったという蓮華温泉も内風呂以外の4つの露天風呂があり、朝日岳(あさひだけ)や五輪山(ごりんやま)を眺めながらの絶景風呂を楽しめる。また黒部溪谷(くろべきょうこく)の黒部峡谷鉄道終点欅平駅(けやきだいらえき)の奥には阿曽原温泉小屋(あぞはらおんせんこや)、山小屋祖母谷温泉(やまごやばばだにおんせん)もあり、山の隠れ家のような場所で渓流の音が聞こえる露天風呂が人気だ。ただし、2025年は欅平駅まで鉄道が運行しないため、営業状況は要確認。

蓮華温泉仙気の湯
脱衣所なし。まさに野趣味たっぷりの蓮華温泉仙気の湯
白馬鑓温泉小屋にある雲上の露天風呂
白馬鑓温泉小屋にある雲上の露天風呂からはご来光が拝める

テント泊について

コロナ以降、山小屋料金が軒並み値上がりし、若い人などにテント泊が急増している。もちろんテント場代も値上がりしていて、白馬大池山荘や白馬鑓温泉小屋、唐松岳頂上山荘、五竜山荘など1張り2000円+1人2000円×人数というところもあって単独でも4000円、ペアなら6000円と1人500円時代を知っているだけに高くなったなあという印象だ。

ほとんどの山小屋が予約制になるなか、テント泊についても予約制のところが多いので事前に調べよう。

雷鳥沢キャンプ場
雷鳥沢キャンプ場は立山連峰など周りを山々に囲まれた別天地
五竜山荘のテントサイト
どっしりとした五竜岳を間近に望む五竜山荘のテントサイト

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プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

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