ハクサンイチゲが咲き始めた飯豊連峰・朳差岳へ
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは飯豊(いいで)連峰・朳差岳(えぶりさしだけ、1636m)へ。
文・写真=こう
飯豊連峰の最北端に位置する朳差岳。飯豊連峰の中では標高が低く1636mしかないが、存在感のある名山だ。花が有名な山でもあり、初夏のニッコウキスゲの群生もさることながら、残雪をまだまとっているこの時期に咲くハクサンイチゲの花畑は特に人気である。
一般的なルートは、奥胎内ヒュッテから登る足ノ松(あしのまつ)尾根になっているが、雪による通行止めが解除されていないこの時期は権内(ごんない)尾根から上ることになる。権内尾根のルートは、長い林道ときつい急登が待ち受けているが、ハクサンイチゲの花畑を見るために、一念発起して朳差岳をめざすことにした。
1日目:東俣彫刻公園〜権内尾根〜朳差岳〜大石山〜朳差岳避難小屋
駐車場をスタートしてすぐのところからシダが繁茂していた。緑豊かな景色の中で、ヤブデマリの花が白く輝いていた。緩やかなアップダウンのある林道だったが、道中では雪崩が堆積した雪の上を越えたり、林道をまたぐように流れる川をいくつも渡る必要があった。
林道終点にある橋を渡るといよいよ登山道になる。同じ緑の景色でもここからはブナ林だ。美しいブナ林に癒されながら徐々にきつくなっていく傾斜を登ると、その先はトラバースとなる。右側が切れ落ちており、油断すると転落しかねない危険な箇所である。用心しながら進んでいき、下り切った先に2つ目の橋が現われる。
2つ目の橋からカモス峰まではひたすら登りとなるため、あせらずゆっくり進む。地面が滑りやすいところもあり、余計な力が入ってしまい、通常よりもふくらはぎが疲れた。このあたりからブヨの数も多くなるので、バグネットや虫除けスプレーなどの虫対策をしていくと、ストレスなく歩けるだろう。イワウチワやウラジロヨウラク、ムラサキヤシオなどの花たちが登山道を彩っており、華やかだった。カモス峰の標識があるところはやや平らになっていて、疲れた足を休ませることができる。
カモス峰からはアップダウンを繰り返し、権内ノ峰、千本峰と超えていく。真っ白な空が目の前まで近づいてきていたが、徐々に雲が高く上がっていき、正面に見える大きな山にゼブラ模様が描かれているのがわかった。
前朳差岳への登りは長く、いつになれば着くのだろうかとやきもきしながら登った。木に囲まれている登山道は、風が入らず暑い上に無数のブヨがついてくるのでうっとうしく感じた。山頂が近づいてくると、それまで厳しかった傾斜が優しくなり、景色が開けて遠くまで見えるようになった。山頂には満開のミネザクラがあり、その奥には飯豊の前衛である二王子岳(にのうじだけ)の姿も見えた。風が通り気持ちよかったので、再びここで休息を取り、朳差岳へと向かう。一度下った後で登り返すことになるが、こちらはカモス峰や前朳差岳への登りよりも楽であった。
途中に雪渓があったが、斜面が緩やかだったため、アイゼンを装備しなくとも通過可能だった。心配な人はチェーンスパイクがあれば安心して通過できるだろう。
左手には大きな山がうっすらと見えてきた。飯豊本山である。その右には北飯豊の山々が並んでおり、地神山(じがみやま)の堂々とした山容が目に焼きついた。朳差岳までの稜線上には湿原もあり、そこからほどなくして山頂へとたどり着く。
山頂で景色を楽しんだ後は、今回宿泊する朳差岳避難小屋へと向かった。小屋に荷物を置き、外に出て小屋の前に広がるハクサンイチゲの花畑を楽しんだ。まだ満開ではないが、それでも充分なほどに花畑が広がっていた。今週末から来週にかけて、もっと密度が高くなるだろう。
似たような写真を何枚も撮っていたが、頼母木(たもぎ)小屋付近のハクサンイチゲの群生も見に行く予定だったため、写真撮影を切り上げてそちらへと向かった。降ってきた雨が体にぽつぽつと当たりもしたが、結局、本降りにはならずに済んだ。途中にはハクサンイチゲだけではなく、シラネアオイなどほかの花もあった。
鉾立峰(ほこたてほう)と呼ばれる急峻な山があり、登るのにも下るのにも一苦労だったが、なんとか乗り越え大石山へとたどり着いた。そこからハクサンイチゲの群生地まではそう遠くない。こちらにも雪渓があったが、特別な装備は不要であった。稜線上の花畑は開放感があり、まだ雪の残る山々と一緒に花を写真に収めることができ、とてもいい撮影スポットだった。
納得いくまで写真を撮り、朳差岳避難小屋へと戻ることにした。大石山(おおいしやま)に向かってきたときと同じく、鉾立峰への登りには苦しめられたが、歩いてきた稜線を山頂から見下ろすと、稜線に加えて雲海と滝雲を見ることができた。
2日目:朳差岳避難小屋〜朳差岳〜権内尾根〜東俣彫刻公園
夜中に屋根を強く叩いていた雨は、朝を迎えると小雨になっていた。外に出てみると、風は相変わらず強く吹いていたが、歩くのに支障がない程度の風だった。朳差岳に登り、前朳差岳を通過して、千本峰へと下った。雨でぬかるんだ地面は滑りやすく、バランスを崩さぬよう注意しなければならなかった。また、道の両脇の草木が濡れていたため、雨が降っていないのにもかかわらず、レインウェアがないとずぶ濡れになってしまう。
このように雨の日の山行のつらさもあったが、雨上がりだからこそ見られる景色もあった。昨日よりも濃密できめ細やかな雲海と、それぞれの周囲の山々を越えるように滝雲が流れており、とても壮大な景色だった。また、水を浴びて草花が生き生きとしている姿も、雨の日ならではの景色であろう。
注意しなければならないことは晴れのときよりも多いのだが、雨のときしか感じられない山のよさを楽しむのもまた一興であろう。カモス峰から下り切った後の林道は、行きと比べると倍以上の長さに感じたが、疲れとともに湧き上がる達成感を噛み締めながら駐車場まで歩き切った。
(山行日程=2025年5月24~25日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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