百花繚乱の東北・焼石岳へ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんはハクサンイチゲなどたくさんの花々が咲く岩手県の焼石岳(やけいしだけ、1547m)へ。

文・写真=こう


花の百名山に選ばれる焼石岳。草原がハクサンイチゲで白く染まるのが有名だが、ハクサンイチゲのみならず多種多様な花が咲く。また、中沼(なかぬま)付近には湿原によく見られる花が咲き、山頂が近づくにつれて高山で見られる草花が増えるため、歩くごとに変化が楽しめるのも魅力の一つだろう。

花の咲く時期がちょうど梅雨と重なるため、天気が読みづらいのが難点で、今回も午後から雨予報も出ていたが、雨が降り出す前に花畑を楽しもうと思い、焼石岳へと向かった。

昨年、紅葉の時期に訪れた時には、5時半で満車になっていた中沼登山口駐車場だったが、この日は晴れ予報ではなかったこともあり、そこまで混雑していなかった。

歩き始めるとすぐに川の流れる音が耳に届く。青々しい植物に囲まれ、森林浴を楽しみながら歩くことができたが、風の入らない森は蒸し暑く、登山開始早々に背中がじわっと湿り出した。また、駐車場に着いたときからブヨがつきまとってくるので、虫対策をしないと煩わしく感じるだろう。

鏡のような中沼の水面に映る焼石連峰を期待して登ったが、焼石岳方面はガスが多く、中沼が映し出すのは沼を取り囲む木々のみだった。

焼石岳 青々しい植物と心地よい川の音
青々しい植物と心地よい川の音が出迎えてくれた
マイヅルソウ
マイヅルソウが咲きはじめていた

中沼を過ぎ、ブナ林を抜けると雪渓が現われた。ある程度の雪量があり固かったが、気温が上がり雨量が増えるこれからの時期は、いつ崩れてもおかしくないため、充分に注意して通過したい。登山道を横切る川をいくつか越えなければならなかったが、最も厄介なのは雪解け水が流れ込み、川のようになった登山道だった。

水分を含んだ地面は緩み、足元の岩が動きやすくなっているので、場合によっては靴が濡れることは受け入れて、水の流れる平らな場所に足を置くのが最善策かもしれない。

湿原に差し掛かると、リュウキンカやミツガシワ、コバイケイソウ、ミズバショウなど、春から初夏にかけて湿原で見られる花々が登山道を彩っていた。

焼石岳 いつ崩れるかわからない雪渓
雪渓はいつ崩れるかわからないため注意して通過したい
ミツガシワ
ミツガシワ

湿原より先に進むと、それまでよりも残雪の量が増える。特につぶ沼ルートと合流する場所は、雪が壁のようになっていたが、小屋関係者が丁寧にステップを切ってくださっていたため、苦労せずに登ることができた。

久々に訪れた銀明水(ぎんめいすい)避難小屋だったが、相変わらず非常にきれいな小屋で、トイレも使用可能でとてもありがたい存在だ。

銀明水避難小屋を過ぎて、雪の斜面と雪のない登山道を繰り返して登り詰めると、緑豊かな平原へと出る。そこまで来るとようやく焼石岳の山頂が顔を出す。周囲にそびえる獅子ヶ鼻岳、東焼石岳の景色を楽しみながら山頂までの距離を詰めていくと、次第に木々が少なくなり、かわりにハクサンイチゲやチングルマが増えてきた。

焼石岳 斜面には雪が多く残る
斜面には雪が多く残る
焼石岳の山頂が見える
平原まで来ると焼石岳の山頂が見える

分岐がある姥石平(うばいしだいら)まで行くと、ハクサンイチゲの群生が現われ、一段とにぎやかになるが、東焼石方面へ進むとその数はさらに増える。昼過ぎから天気が崩れる予報だったため、焼石岳よりも先に東焼石岳へ向かい、花畑を楽しむことにした。

焼石岳 ハクサンイチゲの花畑
姥石平付近からハクサンイチゲの花畑が始まる

焼石岳の花畑は広大な面積もさることながら、ハクサンイチゲだけではなく、同時期に咲く花の種類が豊富なのも魅力だ。チングルマやユキワリコザクラ、ミヤマシオガマ、ミヤマキンポウゲなど数え上げればキリがないほどたくさんの種類が咲いている。花に囲まれた登山道を歩くのはなんと気持ちがいいのだろう。この絶景を前に急いで進むのはもったいない気がしたので、人が来ないタイミングを見計らいつつ撮影と観賞を楽しんだ。

焼石岳 花に囲まれた登山道
花に囲まれた登山道
焼石岳 色とりどりの花が咲く
色とりどりの花が咲く
ユキワリコザクラ
ユキワリコザクラ
白が混ざったミヤマシオガマ
白が混ざったミヤマシオガマ

東焼石岳の直下まで行くと背の高い草や木がなくなるため、背の低いハクサンイチゲを主役に据えて撮影するのに好都合だった。

少し標高を上げると、獅子ヶ鼻岳方面に広がる花畑を一望することができる。ここから眺めると、焼石岳の花畑は圧巻の広さだとあらためて思った。全体的に白が多いが、黄色やピンクの花が散りばめられていて、多様な植生が育まれているのだと感じた。

ハクサンイチゲと焼石岳
ハクサンイチゲと焼石岳
東焼石岳直下のお花畑
東焼石岳直下のお花畑

東焼石岳の山頂は草原になっており、山頂に至るまでひたすらにハクサンイチゲロードが続く。山頂では風が穏やかだったため、地べたに腰を下ろして昼食をとった。景色が美しいのはもちろんよかったのだが、岩手側にたんまりと溜まっていた雲海が稜線に上がり、流れていく様子を眺めているのも楽しいひとときであった。

予報よりも早く天気が崩れてきて、ポツポツと雨が降り出したので、足早に焼石岳をめざした。花畑を抜け、樹林帯に入ると、その中に隠れるようにキヌガサソウが咲いていた。大きく放射状に伸びる姿は迫力があり、そして端正で美しかった。

東焼石岳山頂付近
東焼石岳山頂付近
キヌガサソウ
キヌガサソウ

焼石岳において数少ない岩場を抜け、急登を詰めると、焼石岳の山頂に着く。東焼石岳、獅子ヶ鼻岳、西焼石岳などの山々に囲まれたその頂は山深い位置にあり、雄大な眺めに心を打たれた。いつまでも眺めていたかったが、雨風が勢いを増してきたため、下山を急いだ。

基本的に危険な箇所はなかったが、雪が残っている箇所は滑落しないように注意が必要だ。チェーンスパイクがあれば安心して下れるため、念のため携帯しておくことをおすすめする。

中沼付近まで降りてくると本降りになってきたが、立ち込めていた霧が柔らかな光をつくり出し、水を浴び生き生きとした植物たちを優しく照らしているのが印象的で、雨で潤った幻想的な森を堪能しながら登山口へと戻った。

焼石岳方面から見た獅子ヶ鼻岳
焼石岳方面から見た獅子ヶ鼻岳
焼石岳 雨に濡れた湿原
雨に濡れた湿原が幻想的だった

(山行日程=2025年6月14日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 6時間50分
行程:中沼登山口・・・中沼・・・分岐・・・銀明水避難小屋・・・姥石平分岐・・・焼石岳・・・九合目・・・姥石平分岐・・・銀明水避難小屋・・・分岐・・・中沼・・・中沼登山口
総歩行距離:約14,500m
累積標高差:上り 約987m 下り 約987m
コース定数:27
アドバイス:中沼登山口の駐車場は40台程度であまり広くないため、早めに行く必要がある。駐車場までの尿前(しとまえ)林道は未舗装の悪路で路面は凸凹している。道幅は狭く、すれ違いは困難であるため、注意して走行すること。
こう(読者レポーター)

こう(読者レポーター)

山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。

この記事に登場する山

岩手県 / 奥羽山脈中部

焼石岳 標高 1,547m

 奥州市の西に位置し、山名は薬師岳から転化したという説と、主峰を西側から見たときの、黒い岩の積み重なった様子からともいわれる。  花の山で、登山道の標高1300mから上部に姥石平を中心として広い高原状の地域がある。ここは遅くまで雪が残り、一部は湿地になっている。風も強いので樹木の侵入が少なく灌木の混じった草原だ。  春の雪解けとともに可憐なヒナザクラをはじめエゾウサギギクなど色とりどりの花が咲く。北海道と南・北アルプスに分布するキバナシャクナゲは、岩木山に続きこの山でも発見された。クロユリも同じような分布をしていてこの山でも見つかった。本州ではこの山にしかない北方系の植物も分布するなど、植物地理学的にも重要な山である。  姥石平の先に円頂丘状の頂上があり、一等三角点が設置されていて、この山域の天竺山、経塚山、横岳、獅子ヶ岳などの火山群が眺められる。さらに姥石平とは違ってイワテハタザオ、タカネナデシコなどの乾性の高山植物が多い。  登山口近くへ行くバスはないので、水沢駅からタクシーを利用する。中沼コース、ツブ沼コースとも登山口から頂上まで3時間ほどである。途中の銀明水には避難小屋がある。  2011年10月31日、東日本大震災による地殻変動で、これまでの標高から1m低くなったことが国土地理院から発表され、現在は1547mの山となっている。

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