雨のち晴れの鹿島槍ヶ岳

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読者レポーターより登山レポをお届けします。ミキミキさんは北アルプス・鹿島槍ヶ岳(かしまやりがたけ、2889m)へ。

文・写真=ミキミキ


梅雨最盛期の7月4日19時、仕事を終えて中央自動車道八王子付近を西進中、激しい雷雨で追越車線は冠水して1車線道路になっていました。梅雨の雨というよりも、むしろ東南アジアのスコールを思い起こさせる降り方で、日本の四季の行く末が心配になります。談合坂サービスエリアでの休憩を挟んで、予約していた信濃大町駅近くのビジネスホテルに22時にチェックインし、翌朝に備えて早めに就寝します。

1日目:扇沢登山口〜種池山荘〜爺ヶ岳〜冷池山荘

今回の山行を共にする職場の先輩とは、7時30分に扇沢(おうぎさわ)の市営第2駐車場(無料)で待ち合わせることにしました。少し早めの7時過ぎに到着したところ、4割程度の駐車率でまだ余裕があります。そこから車道を少し下ったところにある橋を渡り左手に入ると柏原(かしわばら)新道の登山口です。

柏原新道登山口
4年ぶりに戻ってきた柏原新道登山口

序盤は、鬱蒼とした樹林帯の歩きやすい道で、足の調子を見つつ呼吸を整えてゆっくりと高度を上げていきます。半袖Tシャツでスタートしたものの、前日の雨もあってか湿度が高く、すぐに滝のような汗が額から流れ落ちてきて目にしみます。左手の木々の切れ間から時折見える扇沢のバスターミナルは、目にするたびに小さくなっていき、高さを稼げていることを実感できます。このコースは、所々に黄色の看板が木にかかっていて、小休止できる小さなスペースがあり、都度少しだけ立ち止まり、汗を拭いたり水分補給したりしながら、当日の体調を確認しつつ登りました。

小さくなっていく扇沢のバスターミナルを登山道の木々の切れ間から眺める
小さくなっていく扇沢のバスターミナルを登山道の木々の切れ間から眺める

2000mを超えた辺りから登山道の勾配は緩くなり、この区間で足を休めることができます。途中、雪渓を渡るところがありますが、チェーンスパイクが必要になるようなことはありませんでした。いちばん上の雪渓が最も長く、渡る際はトレッキングポールを雪に差しながら、細心の注意を払いつつ一歩ずつ確実に歩を進めることで、無事に通過できました。その後、登山等は再び傾斜を増して、左斜め上方に朱色の屋根が見えてきたら種池(たねいけ)山荘はもう間もなくです。

種池山荘は、例年焼き立てのピザを提供することで有名な山荘ですが、小屋開きをして間もないこの日はまだ提供されておらず、翌週末からとのことでした。到着がちょうど昼時だったこともあり、ラーメンを注文しました。醤油ベースのアッサリとしたスープにツルツルの麺、チャーシューも載っていてとてもおいしかったです。ここまでの疲労がランチでいったんリセットされ、午後は爺ヶ岳(じいがたけ)を越えて本日の目的地である冷池(つめたいけ)山荘をめざします。

種池山荘のラーメン
種池山荘でラーメンをいただく

このコースは、種池山荘周辺と爺ヶ岳の稜線上でツキノワグマが目撃されることが多く、数日前にもクマが出たとの情報がありました。今回は、熊鈴に加えて、柏手、声出しで自分たちの存在をアピールしながら歩きました。ニホンザルは目撃しましたが、幸いクマには出合いませんでした。

爺ヶ岳までは稜線上の登りになりますが、種池山荘までの登りに比べればそこまできつくありません。爺ヶ岳南峰に到着するころに雨が降り出し、当初は大した降り方でもなかったこともあって、上だけ雨具を着用しましたが、そのうちに本降りになってしまい下半身を濡らしてしまいました。周囲の眺望はなく、自分がどこを歩いているのかよくわからないままに黙々と歩を進めます。気持ちがくじけそうになる中で目の前に山荘が現われた際は先輩と心から喜び合いました。

冷池山荘手前の分岐
冷池山荘手前の分岐に着くころには土砂降りで視界が悪い

2日目:冷池山荘〜鹿島槍ヶ岳〜冷池山荘〜種池山荘〜扇沢登山口

初日に雨の中を歩いた疲れもあって、夜はぐっすり眠ることができました。5時に朝食をいただき、荷物を山荘の入口付近にデポさせてもらい出発します。山荘を出てすぐに長めの雪渓が出てきますが、特に危険なところはありませんでした。その後は、全体的に登り基調の稜線上の道で、時折谷間から強く吹き上げてくる風がガスを払い、左手に剱岳(つるぎだけ)をはじめとした立山の峰々を見せてくれます。

雪渓の奥から昇る朝日
前日の大雨とうって変わって雪渓の奥から朝日が昇り、晴れる予感

東側から太陽が昇ってきた時に、霧に映し出された虹色の輪はこれ以上ないほどに美しいブロッケン現象で、早朝からテンションが上がります。

ブロッケン現象
立山の峰々を背景にブロッケンの中に浮かぶ自分

長い稜線歩きも、美しい景色に見惚れながら歩いていたらあっという間に鹿島槍ヶ岳に登頂しました。

鹿島槍ヶ岳の山頂直下
山頂直下で歩いてきた稜線を振り返る

頂上からは、三六〇度の大展望で、立山のみならず南側には槍・穂高の険しい稜線もくっきりと遠望できます。

鹿島槍ヶ岳山頂から槍・穂高の険しい稜線を望む
山頂から槍・穂高の険しい稜線を望む

この大絶景で、昨日の大雨の中を歩いたつらい記憶もすべて帳消しになりました。山頂は風が強く、ウインドブレーカーを着用していてもやや寒さを感じ、長い下りが控えていることから、早々に下山することにしました。

冷池山荘までの下りは、感覚的には登りにかかった時間の1/3程度で下りているくらいにスイスイ歩けますが、その先の爺ヶ岳への登り返しは2日分の疲労が蓄積した脚にはなかなか厳しく、種池山荘に到着した際はホッとしました。種池山荘から扇沢登山口まではほぼ登り返しのない下りで、短くはないものの思いのほか体力を残して下山することができました。登山口では、同行した先輩と無事に下山できた喜びを分かち合いました。帰路、長野道と中央道で大渋滞に巻き込まれましたが、暗くなる前に都内の自宅に戻ることができました。いよいよ始まった夏山シーズン、今年も安全に登っていきます。

(山行日程=2025年7月5~6日)

MAP&DATA

高低図
最適日数:1泊2日
コースタイム:【1日目】6時間15分
【2日目】10時間25分
行程:【1日目】扇沢・・・柏原新道登山口・・・種池山荘・・・爺ヶ岳南峰・・・赤岩尾根分岐(冷乗越)・・・冷池山荘
【2日目】冷池山荘・・・布引岳・・・南峰・・・北峰分岐・・・鹿島槍ヶ岳北峰・・・北峰分岐・・・南峰・・・布引岳・・・冷池山荘・・・赤岩尾根分岐(冷乗越)・・・爺ヶ岳南峰・・・種池山荘・・・柏原新道登山口・・・扇沢
総歩行距離:約24,869m
累積標高差:上り 約2739m 下り 約2743m
コース定数:65
ミキミキ(読者レポーター)

ミキミキ(読者レポーター)

東京都武蔵野地区在住。関東近郊の山を中心に一年を通じて登山を楽しんでいて、登山の前後のドライブとグルメが週末の楽しみです。

この記事に登場する山

富山県 長野県 / 飛騨山脈北部

鹿島槍ヶ岳 標高 2,889m

 この山は、後立山連峰の中央部に位置し、名実ともに後立山の盟主という存在である。  端麗と表現される南北2つの峰と、それを結ぶ吊尾根がつくるこの山の姿は、どこから眺めても美しい。この山に魅せられた岳人たちは、同時にこの山が内懐に秘める荒々しさのとりこにもなったのである。それは山麓からではうかがい知れない、北壁や荒沢奥壁などのバリエーション・ルートである。これらのルートの開拓は大正末期から昭和の初期に、学校山岳部を中心に華々しく行われ、それは日本におけるアルピニズムの歴史に、貴重な一頁を記しているのである。  鹿島槍ヶ岳への登路は、縦走路のほかには、東面・信州側から短くて急峻な赤岩尾根1本のみである(鹿島から所要9時間)。この尾根の途中の高千穂平は、鹿島槍ヶ岳のよき展望台ともなっているが、そこから眺める大冷(おおつべた)沢の源頭には、残雪期に獅子やツルの雪形が現れる。そこから昔は、山名をシシ岳とかツル岳、あるいは双耳峰からの連想で背比べ岳などとも呼ばれていた。現在の鹿島槍ヶ岳の山名は鹿島集落の背後にある槍ヶ岳といった意味である。山体は信州側は急崖、西面・越中側はなだらかな非対称山稜の典型である。  西面には、支稜の牛首尾根を挟んで東谷と棒小屋(ぼうごや)沢が、西面の水を集めて黒部川に注いでいる。この棒小屋沢と、剱岳東面を流下する剱沢とが、黒部峡谷に対して対向から合流する、有名な黒部の十字峡を形成している。  東面を落ちる白岳、大冷の各沢は、源頭部にバリエーション・ルートを提供している。その1つ、カクネ里はU字谷をなし、平家の落武者が隠れ住んだという(隠(かく)れ里(さと))伝説をもつ、ロマンを秘めた圏谷である。もちろんここに人が隠れ住むというのは不可能だが……。  南峰から主稜を南へ下ると、肩といった存在の布引岳(残雪が布を敷いたように見えるのでこの名がある)で、付近には船窪地形が散見される。その南の小平地には冷(つべた)池があり、冷池山荘が建っている。また吊尾根の雪田付近から北峰を巻いて北へ下ると、両側の谷からの浸食によって、主稜線に深いⅤ字形の切れ込みの入った八峰(はちみね)のキレットに出る。その北側にキレット小屋がある。  登山口の鹿島集落は昔から戸数11戸しかなく、集落の人々は平家の落武者の子孫といわれている。ここで民宿を営んでいる狩野氏宅には、近代登山以降の鹿島槍ヶ岳の登高記念帳が保存され、それがそのまま鹿島槍ヶ岳の登山史ともなっている。

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