日本最北の2000m峰、大雪山系愛別岳。荒涼とした景色とお花を楽しむ

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読者レポーターより登山レポをお届けします。みやびさんは愛別岳(あいべつだけ、2113m)へ。

文・写真=みやび


表大雪(おもてだいせつ)の北端にそびえる日本最北2000m峰の愛別岳は2113mです。なだらかな山の多い表大雪のなかでは荒涼とした鋭鋒が魅力。片道50分ほどの吊尾根を経るため単独峰のような風格です。

愛別岳に至る吊尾根は難易度の高い箇所も一部あり、初心者の単独行は控えたほうがいいと思われます。特にガス、強風、凍結時などは無理せず引き返しましょう。

今回は1010mの愛山渓(あいざんけい)登山口から永山岳(ながやまだけ、2046m)を経て愛別岳登頂、安足間(あんたろま)分岐から安足間岳(2194m)、当麻岳(とうまだけ、2076m)を抜け、当麻乗越から沼の平に降り、愛山渓登山口に戻る周回コースで17km、10時間ほどの山行です。

夜中の雨がやみ、涼しく出発

国道39号のドライブイン愛山渓から道道223号に入り、一部狭い全面舗装19kmの終点の愛山渓温泉駐車場に駐車。夜中の小雨が止み愛山渓登山口を4時30分出発。今日も暑い一日のため涼しい時間に稜線到着をめざします。

愛山渓登山口
今日も暑いので4時30分愛山渓登山口出発、真ん中の白い箱が携帯トイレ回収ボックスです

松仙園(しょうせんえん)コースとの分岐を左へ。平坦な道を進みポンアンタロマ川にかかる木の橋を渡ると三十三曲分岐から登りが始まります。分岐左の滝コースは崩落し、ここ数年閉鎖されています。

三十三曲分岐から左の滝コースは閉鎖中
三十三曲分岐から左の滝コースは閉鎖中

ジグを切り登る三十三曲は夜中の雨で滑るため慎重に進みます。30分ほどで空が開け心地よい風が吹き、生き返りました。さらに進むと沼の平分岐に到着、左へと下りて行きます。

一部水浸しの登山道
空が開け涼しい風が吹いてきた。道は一部水浸し

滑る岩道を登ると爽快な景色

滝ノ上分岐でイズミノ沢の小さな徒渉後、永山岳への登りに。降雨後は岩が滑る道、茂るササでベショベショになりながら慎重に登りました。ササを抜けると一気に景色が開け、見上げるとまだ遠い永山岳、振り返ると沼の平の爽やかな景色が広がっていました。

永山岳への登り
景色が開け、まだ遠い永山岳が見えてきた
永山岳への登り
永山岳への登り。振り返ると沼の平の爽やかな景色に癒される

コマクサ、エゾノツガザクラ、メアカンキンバイは開花後半、チングルマのお花畑は終わっていましたが、エゾカンゾウの小さなお花畑があちこちに見られ、元気をもらい永山岳に到着しました。

エゾカンゾウの小さなお花畑
エゾカンゾウの小さなお花畑に元気をもらい登る

荒涼とした尾根を進む

朝方ガスに覆われていた山頂は快晴の青空。太陽がまぶしい国立峰を右から回り込むと、愛別岳の吊尾根が見えてきました。愛別岳入口まではザレた尾根をトラバースし進みます。普通に歩けば大丈夫ですが、強風時などは滑落に注意です。

永山岳
永山岳に到着、予報以上に晴れた青空がうれしい
永山岳から愛別岳へ
永山岳から先は荒涼とした景色。尖った国立峰を右から回り込み奥へ進む
大覗谷越しに見る愛別岳の吊り尾根
大覗谷越しに愛別岳の吊尾根が見えてきた

爽快、チョウ舞う美しい吊り尾根

小さな看板のある愛別岳の入口下降点に到着。美しい吊尾根の先に愛別岳が見えます。一歩踏み出すと最初の難所、滑落注意のザレた急坂下りです。踏み跡をたどると比較的容易に下りられました。

愛別岳入口の小さな看板
ザレのトラバースの途中に愛別岳入口の小さな看板があります
愛別岳分岐の看板から美しい吊尾根へ
愛別岳分岐の看板から美しい吊尾根へ
愛別岳 ザレた急坂
はじめのザレた急坂下りが最初の難所。滑るので慎重に進む

そしていちばんの難所は最初の岩稜帯。短い距離ですが、足がかりが少ない岩に砂が載って滑るため、三点支持で慎重に越えました。二つの難所を抜けると見た目より歩きやすい細尾根です。

気持ちいい尾根歩きはコヒオドシ、クジャクチョウに天然記念物のアサヒヒョウモンなどたくさんのチョウが舞い異世界のよう。千をくだらぬチョウの舞いを見るのは初めてでした。

そして最後の難所、山頂直下の岩場登りを越え、愛別岳の山頂に到着しました。

愛別岳 下りてきた道を振り返る
下りてきた道を振り返る。「への字」の岩稜帯がいちばんの難所
愛別岳 見た目より歩きやすい細尾根
見た目より歩きやすい細尾根は気持ちよく、たくさんのチョウが舞っていた
愛別岳 山頂直下
山頂直下が最後の難所。岩が崩れやすいのでほかの登山者と間隔を保ちます
愛別岳 広い山頂からは三六〇度の眺望が楽しめる
愛別岳に到着。広い山頂からは三六〇度の眺望が楽しめる

快晴の愛別岳からの景色を独り占め

奥は上川町を見下ろす雄大な景色。振り返れば歩いてきた迫力の吊り尾根と稜線。左には黒岳など表大雪の山々。前回ガスで見られなかった三六〇度の景色を独り占めです。

愛別岳山頂から北側、上川町方面の雄大な景色
山頂から北側、上川町方面の雄大な景色

のんびり景色を堪能しましたが、目の前に広がる急坂を登らなければ戻れません。山頂直下の岩場をクリアし細尾根を歩いていると、風が強くなってきました。帰りの難所は意外とすんなり通過し、最後のザレ急坂もジグを切り登ると往路より楽に稜線に戻れました。

ただし一部落石を誘発しやすいので、ほかの登山者との距離は保ちましょう。

愛別岳 山頂からの眺望
山頂より歩いて来た吊尾根。帰りの難所は容易に抜けられた

終わっていると思ったお花畑に感動

愛別岳入口の稜線に戻ると風速15mほどの強風を伴いガスが上がってきました。ザレたトラバースを進み、安全な安足間分岐に着くと風は弱くなりました。

愛別岳入口の稜線
強風を伴うガスが上がってきた、安全な安足間分岐へと慎重に進む

分岐からは永山岳に戻らず、安足間岳、当麻岳方面へ進みます。安足間岳からは終わっていると思っていたチングルマのお花畑が、小さい群落ながらもあちこちに。エゾコザクラやミヤマキンバイ、エゾノツガザクラなど初夏の花々が目を楽しませてくれました。

チングルマのお花畑
安足間岳から当麻岳の道はチングルマのお花畑が見られた
エゾコザクラ、ミヤマキンバイ、エゾノツガザクラなど初夏の花々
エゾコザクラ、ミヤマキンバイ、エゾノツガザクラなど初夏の花々が目を楽しませてくれる

有名な裾合平(すそあいだいら)のチングルマは終わりの時期ですが、当麻岳斜面のチングルマと裾合平越しの旭岳の雄大なコラボを眺め小休止。

さらに爽やかな沼の平を見ながら下りられるこの道は本当にすばらしい。

当麻岳斜面のチングルマと裾合平越しに聳える旭岳
当麻岳斜面のチングルマと裾合平越しにそびえる旭岳の雄大ですばらしい景色

締めは沼三昧で

当麻乗越に向け歩くと、近づく沼の平の景色。少し曇が出てきましたが美しい沼を見ながら進みます。

当麻乗越に向かう爽やかな沼の景色
爽やかな沼の景色を眺めながら下りていく

岩がちな道を下りていくと沼の平に到着。六の沼から歩いて来た山々を眺め、青空映す美しい半月沼に癒やされました。沼三昧を楽しみ、滑る三十三曲を下り無事下山しました。

大雪山 ケルミシュレンケ複合体
大雪山ではここだけといわれるケルミシュレンケ複合体が見られる
六の沼から歩いてきた山々を眺める
六の沼から歩いてきた山々を眺める
青空が広がり深い蒼の半月沼
青空が広がり深い蒼の半月沼が美しい

のんびり歩いて時間がなくなり愛山渓温泉には入れませんでしたが、愛別岳の美しい吊尾根、安足間岳から当麻岳のお花畑、最後に沼の景色を楽しみ満足の山行でした。

(山行日程=2025年7月23日)

立ち寄り情報
「大雪山愛山渓温泉 スパ&エコロッジ愛山渓倶楽部」

「大雪山愛山渓温泉 スパ&エコロッジ愛山渓倶楽部」

標高1010mの愛山渓登山口にある源泉かけ流し100%の温泉。電源はすべて水力自家発電で賄われています。手ぬぐいなど温泉グッズの販売あり。

https://aizankeionsen.rinyu.co.jp/

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:日帰り
コースタイム: 11時間5分
行程:愛山渓温泉・・・三十三曲り分岐・・・沼ノ平分岐・・・滝の上分岐・・・銀明水・・・永山岳・・・安足間分岐・・・愛別分岐・・・愛別岳・・・愛別分岐・・・安足間分岐・・・当麻乗越・・・八島分岐・・・三十三曲り分岐・・・愛山渓温泉
総歩行距離:約16,300m
累積標高差:上り 約1,648m 下り 約1,647m
コース定数:42
みやび(読者レポーター)

みやび(読者レポーター)

北海道在住。大雪・十勝連峰を中心に北海道の山を日帰りで歩いています。花と景色と下山後の温泉が楽しみ。

この記事に登場する山

北海道 / 石狩山地

大雪山・愛別岳 標高 2,113m

 大雪山のたいていのピークは椀を伏せたような姿をしているが、この愛別岳は岩肌も黒々とした特異な岩峰で、この山塊中で最も男性的な山である。  山名は山麓の愛別町(あいべつちょう)からきている。アイベツは「矢の川」で、急流をいうのであろう。  登山口にある愛山渓(あいざんけい)温泉は、賑やかな層雲峡とは対照的で、町営宿泊施設1軒と山小屋しかない静かな温泉郷。近くにある湿原の雲井ヶ原(くもいがはら)から仰ぐ愛別岳の姿は印象的な眺めだ。  この愛山渓を起点に、北鎮岳(ほくちんだけ)への登山道を登る。比布岳(ぴっぷだけ)手前から分岐する細い吊尾根をたどって登頂できるが、下り口に滑りやすいガレ場があるので、初心者だけの行動は危険である。  巨岩の間を縫う急登を終えて山頂に到達する。訪れる人はあまり見られず、静かな山頂だ。愛山渓から5時間は必要であろう。

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