御嶽山で火山が創り出す絶景を堪能
読者レポーターより登山レポをお届けします。こうさんは1泊2日で夏の御嶽山(おんたけさん)へ。
文・写真=こう
御嶽山の名をはじめて耳にしたのは11年前の噴火のニュースだった。多くの犠牲者を出し、戦後最悪の火山災害となり、恐怖の山というイメージがいつまでも残ってしまっていた。
それ以外の情報について、特に調べることもなかったのだが、八ヶ岳や北アルプスに登るたびにその雄大な姿が見え、ひときわ存在感を放つ御嶽山に対して少しずつ興味が湧き出した。
調べてみると、火山活動によって作られた美しい火口湖をいくつももっている山という情報に加え、五の池小屋(ごのいけごや)に宿泊すれば雲上のテラスでケーキを食べられるという贅沢な体験ができると知り、いつか御嶽山、そして五の池小屋に行き、至福の時間を過ごしてみたいと思うようになっていた。今回、運よく五の池小屋の予約が取れたため、濁河(にごりご)登山口から登ることにした。
1日目:濁河登山口〜五の池小屋〜継子岳(ままこだけ)〜五の池小屋
濁河登山口から舗装された道を歩いていくと、ほどなくして登山道へと変わる。整備された登山道はとても歩きやすい。背の高い木々の隙間からは日差しがこぼれ、地面を覆う苔をスポットライトよろしく輝かせていた。木の間を縫うように風が吹き込み、気温は暑くもなく寒くもなくちょうどよかったため、序盤は気持ちのいい森林浴となった。
一部急なところもあるが、比較的なだらかで登りやすい道が続く。途中にある、のぞき岩避難小屋や八合目あたりはやや広くなっており休憩するのにちょうどいい。八合目を過ぎると森林限界を越えるため景色が開けてくる。
のぞき岩から見たときには、壁のように見えた摩利支天山(まりしてんやま)も、森林限界を過ぎるとだいぶ近づいて見えた。
出発時点では一面の青空だったが、気温の上昇とともに雲がどんどんと湧き上がってきた。雲に追いつかれないように上をめざして歩みを進めた。
五の池小屋付近までくると砂礫帯が現われ、そこに鮮やかなピンクの花が咲き乱れていた。コマクサである。青空によく映えるコマクサをひとしきり撮り終えた後で、この日宿泊する五の池小屋へと向かった。
小屋に着き、宿泊の受付を済ませた後で、テラス席に座って休憩した。目の前には五ノ池と摩利支天山があり、その絶景を眺めながら至福の時間を過ごした。
充分に休んだ後で、この日は継子岳(ままこだけ)まで歩くことにした。小屋の裏から登山道へと踏み出すと、赤茶けた土に覆われた道がしばらく続く。歩いていると、右手に四ノ池(よんのいけ)が現われた。池というわりには水がほぼない状態で、池の周りは斜面に囲まれているので、カール地形のように見えた。
四ノ池と上空に浮かぶ大きな雲に見惚れていると、その雲が、東から吹きつける風によって生き物のように動きだし、こちらに近づいてくる。景色があるうちに山頂に着きたいと思い、先を急いだ。
なだらかな稜線を進んでいくと、山頂手前にある丘に細長い岩がいくつも立って並んでいた。人の手によって立てられたのか、はたまた自然に立って並んでいるのかは定かではないが、いずれにしても不思議な光景だった。
西側に待ち構えていた雲に東から押し寄せてきた雲がぶつかり、案の定、山頂はガスに包まれ、視界は周辺しかなくなってしまった。
継子岳の山頂付近でたまたま知り合いと出会い、話をしていたところ、継子Ⅱ峰の景色がすばらしいという情報を手に入れたので、ガスが抜けることを信じて、その先へと向かって歩き出した。
継子岳から継子Ⅱ峰の間には、コマクサやイワギキョウが咲いており、穏やかな景色が広がっていたが、継子Ⅱ峰は岩の峰といった趣で、切り立っていて高度を感じられる場所だった。
そのおかげで、それまでは稜線上にある一座として見えていた御嶽山が、独立した雄大な姿であることを認識できた。絶景に加えて、姿を変えながら宙を漂い続ける雲に夢中になり、いつまでも飽きずに見続けていた。
五の池小屋へと戻り、テラスにて宿泊者限定のケーキを食べて優雅なひと時を過ごした。少し時間をおいた後で夕食に舌鼓を打つと、満足したせいか部屋でうたた寝してしまった。友人に起こされ外に出てみると、はるか上まで湧き立った雲に夕日が差し込み、オレンジ色に輝いていた。次第に東側に浮かぶ雲が赤く染まっていき、その赤が三ノ池にも映り込んでいた。
夕日を堪能した後は、テラス席でピザを食べながら、暮れゆく西の空を眺めていた。
よく晴れて星もきれいに出るだろうと思い、一度布団に入り、真夜中に外に出てみたところ、満天の星空が広がっていた。摩利支天山の上に天の川がかかっているのも視認できた。
2日目:五の池小屋〜剣ヶ峰(けんがみね)〜五の池小屋〜濁河登山口
重いまぶたをこじ開け布団からはい出る。外に出るとすでに東の空は明るくなり始めていた。小屋のすぐ裏にある飛騨頂上へと向かい、雲の上に浮かぶ中央アルプスや南アルプスの山々を山座同定しながら、日が昇るのを待った。太陽が上がってくるにつれて周りの山々も明るく照らされていき、剣ヶ峰と手前にある斜面が赤く染まった。
太陽が顔を出し、熱が肌に伝う。この時間に、この場所でしか見れない景色に満足し、幸先のよい一日の始まりとなった。
小屋で朝食を済ませると、身支度を整え、ヘルメットを装着し、剣ヶ峰へ。五の池小屋から剣ヶ峰に向かうには2ルートあるが、行きは摩利支天山の方へ進んだ。ある程度登ったところから振り返ると、昨日登った継子岳と宿泊した五の池小屋が見えた。日の出のときよりも明らかに雲が増えていることがやや気になった。急斜面であり高度を感じる景色だが、登山道は九十九折りになっていたため、とても歩きやすい。
登り切ったところから一気に景色が開け、御嶽山の堂々たる姿とご対面できる。想像以上の大きさに呆気に取られた。そして、摩利支天山の山頂だと思っていたものは、摩利支天乗越という場所らしく、実際の山頂は20分ほどトラバースしたところにあった。
摩利支天乗越からでも充分景色が美しく、御嶽山や隙間なく埋め尽くす雲海に満足したため、摩利支天山の山頂へは向かわずに、剣ヶ峰へ向かうことにした。
乗越から下り切ったところには白竜(はくりゅう)避難小屋があり、休憩スポットになっていた。剣ヶ峰へと向かうためには、ここからさらに下り、賽の河原を通ってそこから二ノ池(にのいけ)へと登り返す必要がある。
緑豊かで草原のような賽の河原とは対照的に、二ノ池は砂漠のような景色だった。噴火前は水を蓄えた美しい池だったと聞くが、その景観を一変させてしまうほど凄まじい威力で起こった噴火に対して、底知れぬ恐ろしさを感じた。
山頂まで残り20分のところで、東から湧き立った雲に一瞬視界を遮られた。少し経つとガスの中から再び山頂が現れたが、標高の低いところに上空をめざす雲がスタンバイしているのが見えた。日射によって温められた雲海の一部が雲となり、次々に上へと登ってくる。ガスに包まれてしまう前に山頂へと急いだ。
山頂直下にはシェルターがあり、その脇に山頂に向かうための急な階段があった。登っている時に手すりの奥に目をやると、いかにも頑丈そうな灯籠が砕け散ったまま転がっており、11年前の噴火の様子を物語っているようだ。
階段を上り切った先には神社があり、右手に向かうと山頂標識があった。奥には一ノ池、二ノ池が見えた。無事登頂することができた喜びを噛みしめながら、その雄大な景色を楽しんだ。
下山時は、一度王滝(おうたき)頂上方面へと下り、そこから分岐を北へと進み、剣ヶ峰の斜面をトラバースして二ノ池へと戻った。
賽の河原から白竜避難小屋へと戻った後は、摩利支天乗越には登らずにトラバースを選択した。下り始めが急になっているので滑落しないように細心の注意を払った。そこから先に危険箇所は特になく、三ノ池を間近に感じながら、のんびりと五の池小屋に戻った。
小屋に戻ると、朝食のときに予約していたアップルパイが用意されていたので、テラスで景色を眺めながらじっくり味わった。帰るのが名残惜しいほど素敵な小屋だったが、自分に対して心を鬼にして下り始めた。登り返しはなく、下るだけなので体力的にきついとは感じなかった。
終盤には登りのときにも感動した緑が美しい苔の森が待ち構えており、絶景のフルコースを最後まで堪能し尽くした。
(山行日程=2025年7月26~27日)
MAP&DATA

こう(読者レポーター)
山形県在住。東北の山のほか関東甲信越、日本アルプスを月に6~8回のペースで登り、風景写真を撮っている。
この記事に登場する山
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