農鳥岳テント泊のはずが……稜線は大暴風で撤退!

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読者レポーターより登山レポをお届けします。リョーコとダーコさんは南アルプスの農鳥岳(のうとりだけ、3026m)へテント泊の計画を立てたものの、暴風で撤退。

文・写真=リョーコとダーコ

1日目:奈良田~大門沢登山口〜大門沢小屋〜大門沢下降点〜大門沢小屋

百高山の農鳥岳と仙塩尾根にある安倍荒倉岳(あべあらくらだけ)、新蛇抜山(しんじゃぬけやま)、北荒川岳(きたあらかわだけ)の4座を登る計画を立てた。ずいぶん前に『山と溪谷』の付録「山の便利帳」に百高山というものが掲載されているのを見て、めざしてみようと思いついたのが始まりだった。

計画では1日目は農鳥小屋まで。コースタイムで10時間ほどある長丁場。ちなみに大門沢(だいもんざわ)下降点までは、3年前に笹山ダイレクトコースを歩くため、一度登っている。

奈良田第一発電所横から左側の林道へ入る
第一発電所横から左側の林道へ入る

20分ほど歩いて登山口。森山橋を渡ると河原にテントが張られて、登山者休憩所が設置されていた。工事稼働日の作業時間中だと無料でWi-Fiやトイレが使えると書いてある。

大門沢登山口の登山者休憩所 通過したのが早朝だったため、工事現場の人はいなかった
通過したのが早朝だったため、工事現場の人はいなかった

ここから取水口までロープが張られている。歩道のような登山道を案内に従って進む。取水口を過ぎて斜めになった吊橋を渡った。この後は、森林の中をのんびり歩く。

大古森沢(おおこもりさわ)を渡り倒木をくぐったところで、道が左上へ延びている。ピンクテープがついた木が倒れて集まっている状態なので、左へ道が続くように見えるが、直進が正解。実際、左上方向へ進んでる人が多いようで、踏み跡がかなりくっきりついていた。

大古森沢の丸太橋を渡る
大古森沢の丸太橋を渡る

八丁坂を登り始めると2泊3日テント泊の荷物(家で量ると14kgだった)が重い。汗がふき出る。

水が流れる登山道
水が流れる登山道。ここを抜けると再び丸太橋がある

農鳥岳方面から下りてきた人とすれ違う時に気になることが。ほとんどの人が雨具を着ていたりザックカバーをかけている。沢を渡るときに上部を見ると歩き始めと違って、分厚い灰色の雲が空を覆っていた。

恐竜の骨のような倒木
小屋まで半時間くらいのところにある恐竜の骨のような倒木

小屋に近くなると、強い風が吹いてくる。涼しいなぁ、と思う反面、嫌な予感がする。

小屋に到着し、大休止。農鳥方面から下山してくる人がいたので、夫が上の様子を聞くと、稜線は「暴風」または「爆風」。雨はひどくないものの、歩いているとしっとり濡れてくるらしい。うわ〜、予想以上の悪さ。

曇っているけどうっすら見えた富士山。大門沢小屋にて
曇っているけどうっすら見えた富士山。大門沢小屋にて

行くだけ行ってみようと小屋を出発する。大門沢が見える細い尾根辺りで北岳方面から縦走してきた人とすれ違うことが多くなり、みな「風がきつい」「暴風」「気をつけてくださいね」と声をかけてくれる。

これまで暴風強風大雨の経験はあるので、一応覚悟はしているが足が重い。とりあえず行ってからどうするか決めるつもりだけど、戻ることになるのなら進む意味があるのかな、と思った。

稜線に出る手前で雨具を着る。ここでも、笹山ダイレクトを登ってきた人や北岳から来た人が暴風強風の話はもちろん、ここにきて「寒いですよ」「ひどいですよ」「景色が見えず、ただ歩いただけで修行でした」と話してくれる。感想がますます悪くなっている。農鳥沢を登ってきた男性は、寒すぎるので、(おそらく着替えのために持っていた)ウールの靴下を手袋代わりに手にはめて歩いてきた、という。

ガスと強風の大門沢下降点
ガスと強風の大門沢下降点

それでは、と稜線に出る。ぼぼぼぼ。途端に、左側(西側)から強風が吹き付ける。うわ〜、風つよ。いったん、大門沢側に退散し、どうするか相談する。

農鳥小屋まで2時間半ちょっと。夫は、行けると思う、と言う。今日進めたとしても明日以降どうするか。3日目は天気が悪いことは承知で来てるが、明日も悪いとなると……。電波が入るのでスマホで天気予報を確認。よくない予報。農鳥小屋まで行ったとしても、この風だと買い替えたばかりの新しいテントが飛ばされるかもしれない。かと言って小屋に素泊まりするには……予備の現金、そんなに持ってきてない! 仙塩尾根の3座を含めたルート取りを考えると農鳥岳だけ登っても……。

いろいろ逡巡しつつ、進むつもりで再度稜線へ出て歩き始めた。

風で押されて体が斜めになるが歩けないことはない。視界はもちろん悪いが、道が見えないほどではない。この時点で私は体が斜めのまま歩けるな、と思った。が、夫が振り返って、あかん、やっぱり戻ろう、と言った。夫が戻ろうと言う場合は、危険を感じているときなので、戻ることにした。下降点まで引き返す50mほどの間に一度、体が持っていかれるような風が吹き、思わず目の前にあった岩をつかんで耐風姿勢を取る。あ、だめだな、こりゃ。納得して安全地帯まで戻った。

かなりガスが広がった大門沢側
かなりガスが広がった大門沢側

17時前に大門沢小屋に到着。北岳方面から来てすれ違った人たちがほとんどいて、みなほっとされていたようだ。

2日目:大門沢小屋~奈良田駐車場

夜中に雨が降ったようだ。水滴がテントに落ちる音がしていた。起きると霧雨が降ったり止んだり。小屋の上で雨雲と晴れ間とのせめぎ合っているようだ。大門沢上部を見るとこの日も厚い雲に覆われていて雲が流れるのが速い。下山開始する。ところが、だんだん雲が取れて晴れ間が出てきた。上部を見ると雲の流れは相変わらず速いが、青空が見えるではないか。あぁ、天気を見誤った。あの風の中、進んでいたらなんとか行けたかも。

たられば思考が頭を巡るが、天気がいいときを狙ってまた行けばいいか。風に当たって寒さで動けなくなっていた可能性はゼロではないので、戻ってよかったはず、と思うことにした。

(山行日程=2025年8月5~6日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
日数:1泊2日
コースタイム: 【1日目】11時間
【2日目】3時間40分
行程:【1日目】
奈良田・・・奈良田第一発電所(農鳥岳登山口)・・・吊橋(森山橋)・・・大門沢小屋・・・大門沢下降点・・・大門沢小屋
【2日目】
大門沢小屋・・・吊橋(森山橋)・・・奈良田第一発電所(農鳥岳登山口)・・・奈良田
総歩行距離:約21,100m
累積標高差:上り 約2,768m 下り 約2,768m
コース定数:62
アドバイス:奈良田の駐車場には簡易トイレがありますが、トイレットペーパーがないことがあります。登山口へ向かって7分ほど歩くとバス停の建物に洋式水洗トイレがあります。こちらもトイレットペーパーがないことがあるので(男女共に)、ペーパーを用意した方がいいでしょう。大門沢小屋のトイレの便座が和式から洋式に変わっていました。トイレットペーパーの備え付けはないので、持参するのをお忘れなく。
リョーコとダーコ(読者レポーター)

リョーコとダーコ(読者レポーター)

標高が高い山への登山や岩登りが好き。去年、いつも行く岩場に近い兵庫県の某町へ移住。県内にある低山へのハイキングも楽しみになりました。

この記事に登場する山

山梨県 静岡県 / 赤石山脈北部

農鳥岳 標高 3,026m

 農鳥岳の名は、この山の東面の谷に現れる雪形に由来している。6月中旬に、首を南に向けた白鳥の姿が甲府盆地から望見される。これを見て農家では田植えを始めた。  この山には、鳳凰三山の農牛とともに次のような伝説が残っている。  茅ヶ岳のふもと、穂坂辺りは早魃の常習地帯で、村人は鳳凰山に登って雨乞いをした。山神は気の毒に思い、黒牛、白鳥を遣わせ、池を掘らせた。夜中に仕事をし、白鳥が暁を告げると山に帰ることを日課としていた。ある朝、時を告げることを忘れてしまった。白鳥はさっと飛び立ったが、牛は進退極まり、石にされてしまった。それから古巣の鳳凰山には春になると黒牛の、農鳥岳には白鳥の雪形が現れるようになった、とのことである。  本峰は農鳥岳と西農鳥岳(3050m)の2峰に分かれる。西農鳥岳から、農鳥岳の上にのぞく富士山は印象的。また、大井川の谷を隔てて、仙塩尾根の頂点に立つ塩見岳の姿も捨てがたい。  白峰三山縦走の場合、間ノ岳から2時間で西農鳥岳。奈良田温泉から大門沢コースを登るとなると、9時間強で農鳥岳の頂に立てる。

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