小槍から大槍へ。雲の中のクライミング

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

読者レポーターより登山レポをお届けします。リョーコとダーコさんは槍ヶ岳(やりがたけ、3180m)の小槍から大槍へとクライミング。

文・写真=リョーコとダーコ

1日目:新穂高温泉駐車場~槍平小屋〜飛騨沢〜槍ヶ岳山荘テント場

新穂高温泉から、まずは長い林道歩き。穂高平小屋で休憩する。その後、白出沢(しらだしさわ)を渡り、2年ほど前に土砂崩れで沢幅が広くなったブドウ谷、チビ谷、滝谷へ。

滝谷周辺で登山道がなんか違う。あれ? こんなところ歩くんだっけ?

新しいピンクテープがぶら下がっているので間違えてはいない。「道が崩壊したので通行禁止」の案内にロープが張ってある。ロープの向こうは、以前の登山道がわからないほど倒木がひどかった。滝谷に出て、こちらも道が変わったな、と思いながら見上げると、避難小屋がとんでもない状態になっていた。

滝谷避難小屋
滝谷避難小屋。今すぐ落ちてはこないと思うけど……

小屋自体はそのままあるが地面が流出して基礎の一部が浮いている。利用しようにも、今にも崩れそうな斜面を這うように登っていく必要があるので、これは絶対に近寄り禁止だ。

帰宅後調べてみると、槍平小屋のSNSに、山の日の連休の大雨でこうなったと記載があった。雨量がどれほどだったのかもはや想像が及ばない。とはいえ、倒木などが片付けられ、新しい道の目印テープもつけられており、早急に対応されていることをありがたく思う。

槍平小屋で休憩を入れた後は、槍ヶ岳山荘までの後半戦スタート。飛騨沢に出ると、女性4人グループに追いつく。今回の山行を計画したという方が「甘かったわ。もう少し楽に登れると思ってた。しんどいわ」と言っておられた。私もしんどい。励まし合いながら抜きつ抜かれつで登った。

ベニハナイチゴ
飛騨沢にはベニハナイチゴがたくさんなっていた。おいしそ〜
黄葉が始まりつつある飛騨沢
飛騨沢は、よく見ると黄葉が始まりつつあった

稜線はガスが湧いたり晴れたり。少しずつ気温が下がって涼しくなる。

14時半過ぎに槍ヶ岳山荘到着。人気のある山なので、お盆を過ぎてもたくさんの人。テント設営の受付を済ませて翌日のルートのスタート地点である取付まで下見へ行く。

テントに戻り夕食。翌日は6時くらいから登り始めて、昼までに終わって槍平へ下りたいなぁ、と話をする。

20時ごろから大雨。バケツをひっくり返したような雨が1時間ほど続いた。雨が止んだ後は、夜通し暴風。台風に直撃されたような状態。テントフライがバタバタと音を立てて寝るどころじゃない。耳栓をしてても遮音効果なし。夜中にトイレに行くのも躊躇する。運よく、寒さは感じなかったので朝までもよおさなかったが、携帯トイレを持っていればこういう場合に使えるな、と思った。

2日目:槍ヶ岳山荘~小槍〜ひ孫槍〜孫槍〜大槍(頂上)〜槍ヶ岳山荘

3時半ごろ起床。6時ごろ外に出るとまだまだ風は強く霧も濃い。風でロープが流されたり、コールが聞こえない可能性を考えて8時ごろまで小屋の喫茶室で待機。ココアがおいしかった。

風も少し弱くなり青空も見えるようになったので、行くだけ行こうと出発。

槍ヶ岳 ザレている小さい沢を渡る
ザレている小さい沢を渡る

実は、隣のテントにもクライマーがいて1時間ほど前に出発した。取付へ到着すると、登り始めたばっかりだった。約1時間待つ。頭上でアルプス一万尺の歌が聞こえた。ダウンベストを雨具の下に着ているが日陰なので寒い。タイミングを見て、こちらも登り始める。

槍ヶ岳 小槍を登る
小槍を登るダーコ。左は先行パーティが懸垂下降中

小槍の頂で看板を探したが見つからなかった。残念。この後、懸垂下降を終えて、ひ孫槍へ。

槍ヶ岳 ひ孫槍
ひ孫槍は60m、1ピッチで登った

小槍の上から見たひ孫槍の壁はボロボロに見えて、あれ登るの?ひどすぎない?と弱気になったが、登ってみると意外としっかりしていて大丈夫だった。

ひ孫槍から孫槍へは歩いて移動。11時半ごろにお腹が空いてきた。ほかに誰も登っていないので長めの休憩を取る。

孫槍は赤い残置スリングがある場所からスタート。ダーコがここも先行。時々青空が見えるようになり、頂上も見えるようになった。

孫槍の岩がいちばん不安定だった。途中、残置のハーケンがあって使えると思ったら、岩の隙間が広がったのか、動いて使えなかったりした。2ピッチ目は私がリードした。

槍ヶ岳 孫槍
孫槍2P目最後のとんがり部分、思い切って正面突破する私

孫槍からロワーダウンして、頂上へ向かう大槍に取りつく。登っているすぐ横に登山道が見えて、登り下りする人たちが見えた。

槍ヶ岳 大槍の一般道登山道
こうやって見るとなかなかな急斜面の一般道
槍ヶ岳 小槍から孫槍をバックに
小槍から孫槍をバックに。頂上すぐ下で

13時半ごろ頂上へ到着。記念撮影して頂上から下りる。テントを設営し終わったら15時過ぎになった。この日のうちに槍平まで下りることは叶わず。

この日も18時ごろに雷が鳴り出す。携帯で雨雲レーダーを確認すると、この辺りは降らない予報になっていたが、19時ごろに降り出した。前日よりひどく、25mプールをひっくり返したような大雨。そして前日の数倍強い暴風。台風に直撃されたようなひどい状態。

とりあえず寝ることにしたが、風でテントポールがぐわんとしなりテントが迫ってくる。バタバタ音がしているが、レインフライなのか、それともフライはとっくに飛ばされて本体がバタバタしているのかなにがなんだかわからない状況。あぁ、もぉどぉにでもなれ〜と思いながら無理やり目をつむった。

3日目:槍ヶ岳山荘~飛騨沢〜槍平〜新穂高温泉

暴風は未明まで続いた。しかし、青空が垣間見える時間が前日より早い。いい天気になりそう。隣の学生さんらしき大型テントはポールが1本折れたらしい。私たちのテントは20年ぶりに買い換えた新品だったが、さすがにあの雨量。床から水が少ししみていた。

6時下山開始。

飛騨沢から笠ヶ岳を望む
笠ヶ岳が見えそうで見えない

滝谷まで下りて、大休止を取る。沢の水で顔を洗うと冷たくて気持ちがいい。タオルを濡らして首に巻くと、暑さ対策にもなる。

標高が下がるとますます暑い。穂高平小屋が営業していたらかき氷を食べようと決めていた。「氷」の布看板を見た時「ひゃ〜っ! 開いてるぅ〜!」と歓声を上げてしまった。みぞれミルクを食べて、ミルク金時をお代わりしてラストスパートした。

(山行日程=2025年8月19~21日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】9時間10分
【2日目】5時間
【3日目】6時間25分
行程:【1日目】
新穂高温泉・・・新穂高温泉駅・・・穂高平小屋・・・奥穂高岳登山口・・・滝谷出合・・・槍平小屋・・・千丈沢乗越分岐・・・槍ヶ岳山荘
【2日目】
槍ヶ岳山荘・・・槍ヶ岳・・・槍ヶ岳山荘
【3日目】
槍ヶ岳山荘・・・千丈沢乗越分岐・・・槍平小屋・・・滝谷出合・・・奥穂高岳登山口・・・穂高平小屋・・・新穂高温泉駅・・・新穂高温泉
総歩行距離:約24,600m
累積標高差:上り 約2,302m 下り 約2,302m
コース定数:68
リョーコとダーコ(読者レポーター)

リョーコとダーコ(読者レポーター)

標高が高い山への登山や岩登りが好き。去年、いつも行く岩場に近い兵庫県の某町へ移住。県内にある低山へのハイキングも楽しみになりました。

この記事に登場する山

長野県 岐阜県 / 飛騨山脈南部

槍ヶ岳 標高 3,180m

 鋭角に天を突く岩峰でそのものずばりの命名、しかも北アルプス南部の登山道が集中する位置のよさ。槍ヶ岳は北アルプス南部の鎮である。  行政区分からいえば長野県の大町市、松本市と岐阜県高山市との境にそびえている山である。地理的条件も実に絶妙な場所といえる。  南から穂高連峰の縦走路、東から常念山脈や燕岳からの表銀座コース、谷筋では上高地から梓川、槍沢を遡っていく登山道、新穂高温泉から蒲田川右俣、飛騨沢を登るコースと、北アルプス南部のすべてのコースが槍ヶ岳に集中し、中央部へは西鎌尾根が唯一の回廊となって双六岳に通じる、北アルプス南部の扇の要である。  しかも鋭い槍の穂先のような姿は、日本の氷河地形の典型でもある。地質は硬いひん岩で、氷河が削り残した氷食尖峰。東西南北の鎌尾根も氷食地形、槍沢、飛騨沢、天上沢、千丈沢はU字谷とカールという、日本の氷河地形のサンプルぞろいである。  登山史上で初めて登頂したのは江戸時代の文政11年(1828)の播隆上人。4回登って3体の仏像を安置し、鉄鎖を懸けて信者の安全な登拝を可能にした。登路は安曇野の小倉村から鍋冠山を越えて大滝山へ登り、梓川に下って槍沢をつめている。今も残る槍沢の「坊主ノ岩小屋」は播隆が修業した籠り堂だ。  近代登山史の初登頂は明治11年(1879)の英人W・ガウランド。1891年には英人W・ウエストンも登っている。日本人では1902年の小島鳥水と岡野金次郎。穂高・槍の縦走は1909年の鵜殿正雄で、ここに槍ヶ岳の黎明が始まった。大正11年(1922)には3月に、慶応の槙有恒パーティによる積雪期の初登攀があり、同年7月7日には早稲田と学習院が北鎌尾根への初登攀に挑んでいる。早稲田は案内人なしの2人パーティで、槍ヶ岳頂上から独標往復。学習院は名案内人小林喜作とともに末端からと、方式も違う登攀でともに成功した。  その後も北鎌尾根ではドラマチックな登攀が行われ、昭和11年(1936)1月には、不世出の単独行者、加藤文太郎の遭難、昭和24年(1949)1月の松濤明、有元克己の壮絶な遭難が起きている。加藤の遺著『単独行』と松濤の手記『風雪のビヴァーク』は登山者必読の書である。  登山道で直接登るコースは、上高地から槍沢コース経由で槍ヶ岳(9時間30分)と、新穂高温泉から飛騨沢コース(8時間40分)の2本。ほかに穂高連峰からの縦走コース(7時間30分)、燕岳からの表銀座コース(8時間40分)、双六小屋から西鎌尾根コース(6時間)と数多い。

プロフィール

山と溪谷オンライン読者レポーター

全国の山と溪谷オンライン読者から選ばれた山好きのレポーター。各地の登山レポやギアレビューを紹介中。

山と溪谷オンライン読者レポート

山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。

編集部おすすめ記事