稜線は暴風もあり……白峰三山縦走

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読者レポーターより登山レポをお届けします。ふーちゃんさんは北岳(きただけ、3193m)、間ノ岳(あいのだけ、3190m)、農鳥岳(のうとりだけ、3026m)の白峰三山(しらねさんざん)縦走。

文・写真=ふーちゃん

1日目:広河原山荘~白根御池小屋~北岳山頂~北岳山荘

広河原(ひろがわら)山荘は3年前にリニューアルオープンしたばかりなので、お風呂もあり設備も充実していて快適だった。北岳は4度目なので、野呂川(のろがわ)に架かる橋と、はるかに望む北岳を見たら懐かしさを覚えた。

広河原 野呂川に架かる橋
この橋を渡って山道へ

橋を渡るとすぐに根っこの張り出した急登が始まり、白根御池(しらねおいけ)小屋に着くとたくさんのハイカーが休憩をしていた。

白根御池
白根御池

小屋を過ぎると登山道からはめざす北岳、振り返ると鳳凰三山(ほうおうさんざん)の山並みが望めて、南アルプスを歩いているなぁと実感する。

白根御池から望む北岳
白根御池から望む北岳

小太郎山(こたろうやま)との分岐点からは仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)、甲斐駒ヶ岳(かいこまがたけ)、雲間に富士山までが望める絶景があった。

甲斐駒ヶ岳
甲斐駒ヶ岳

山頂直下の岩場を越えた先の山頂は、大勢のハイカーで満員御礼状態。

2日目:北岳山荘~間ノ岳~農鳥小屋~農鳥岳~大門沢小屋

夜半に吹き始めた風は朝になってもやむどころか、勢いがますます強くなっていた。5時の出発予定を1時間ほど遅らせて様子を見たが、思い切って出発する。明るくなっていたので足元の不安が減るのが、せめてもの救いだった。途中で先に出発した人が何人も引き返してきた。岩場はまだ歩きやすかったが、尾根に出ると谷から吹き上げてくる突風には閉口。やっとたどり着いた間ノ岳山頂は風ビュービューの真っ白の世界。写真だけ撮って急ぎ山頂を後にした。

間ノ岳
農鳥小屋の向こうに間ノ岳が
農鳥小屋の向こうに間ノ岳が

耐風姿勢を取り、雨宿りならぬ「風宿り」を何回か繰り返しながら、慎重に進んだ。

心地よい稜線の先に西農鳥岳
心地よい稜線の先に西農鳥岳

幸いにも西農鳥に差し掛かる手前の稜線辺りからは、風も随分と弱まり陽が差しこんできた。ほんのり秋色に染まり始めた稜線歩きを、ちょっぴり楽しむことができた。農鳥岳の山頂にはさすがに数人のハイカーがいるだけだった。昨日登った北岳の雄姿が美しかった。

北岳を望む
北岳の鋭峰が望めます

ホッとして気が抜けてちょっと長居をしてしまったために、この後の長~い急坂の下山道に苦しめられた。ロープ場の下りから始まり、ザレ場とガラ場の連続で時間ばかり過ぎるが一向に足が進まない。遅くなる旨を山小屋に連絡しようと試みるが、電話がつながらない。焦る気持ちを抑えながら一歩一歩慎重に下りる。大門沢小屋の灯りが見えたときは、九死に一生を得たような気がした。小屋はキャンセルが多く、3分の1も埋まっていなかった。

3日目:大門沢小屋~奈良田第一発電所~奈良田

昨日とはうって変わって穏やかな朝。予定通り5時にヘッドランプを付けて沢沿いの道を下山開始。30分ほどで壊れかけた木組みの橋が現われた。ロープが渡してはあったが、踏み外せば川にドボンなので慎重に渡る。丸太橋や徒渉も何度か繰り返しながら、広い雑木林の中に出た。地面いっぱいの落ち葉がすぐそこまで来ている秋を思わせた。

壊れかけた木組みの橋
壊れかけた木組みの橋

発電所に続く吊橋まで来てホッとして気が緩んだが、これが甘かった。アスファルト道に出てからの長いこと、40分ほど急ぎ足で歩き、やっとのことで奈良田(ならだ)バス停に到着。途中で昨日下山時にケガをした人を救助するため、山小屋に向かう2台の救急車に出会った。人力で沢沿いの細い道やあの丸太橋を運んでくるのは容易ではないことだろう。他人事でなく、どんなケガもしないで無事に下山しなくてはとあらためて思った。それにしても南アルプスは奥深く、強風の恐怖まで経験して大変な縦走になった。

(山行日程=2025年9月15~18日)

MAP&DATA

高低図
ヤマタイムで周辺の地図を見る
最適日数:2泊3日
コースタイム:【1日目】8時間23分
【2日目】7時間40分
【3日目】3時間40分
行程:【1日目】
広河原・・・白根御池小屋・・・小太郎尾根分岐・・・北岳肩ノ小屋・・・北岳・・・北岳山荘
【2日目】
北岳山荘・・・中白峰・・・間ノ岳・・・農鳥小屋・・・西農鳥岳・・・農鳥岳・・・大門沢下降点・・・大門沢小屋
【3日目】
大門沢小屋・・・吊橋(森山橋)・・・奈良田第一発電所(農鳥岳登山口)・・・奈良田
総歩行距離:約24,700m
累積標高差:上り 約2,722m 下り 約3,414m
コース定数:72
アドバイス:農鳥小屋の今シーズンの営業は9月30日まで。大門沢小屋は10月14日、北岳山荘は11月2日まで。
ふーちゃん(読者レポーター)

ふーちゃん(読者レポーター)

1946年生まれ、神戸在住。日本百名山踏破。約1000座を登頂。あと何年登れるかわかりませんが、リミットを決めないで年齢相応の山を楽しみたいです。

この記事に登場する山

山梨県 / 赤石山脈北部

北岳 標高 3,193m

 日本で富士山に次いで高い山は白峰の北岳である。白峰は通称白峰三山と称し、3000mを抜く山5座が、南アルプスの北部に連なっている。すなわち北岳(3192m)、中白峰(3055m)、間ノ岳(3189m)、西農鳥岳(3050m)、農鳥岳(3026m)である。  この連山の最北にある故、北岳。当を得た山名である。古くは『平家物語』に「手越を過ぎて行きければ、北に遠ざかりて、雪白き山あり。問へば甲斐の白根と云ふ」と出ているが、果たして東海道筋から見えたであろうか。時代は下がり、『甲斐国志』(文化11年―1814年編)によれば「白峰、此山本州第一ノ高山ニシテ西方ノ鎮タリ。国風ニ詠スル所ノ、甲斐ヶ根コレニシテ(中略)南北ニ連ナリテ三峰アリ。其北方最モ高キモノヲ指シテ、今専ラ白峰ト稱ス」と記している。  同書によれば、「山上ニ日ノ神ヲ祀ル。其像黄金ヲ以テ鋳ル。長七寸許、容ルニ銅室ヲ以テス。高貳尺貳寸廣方八寸、其四隅ニ鈴ヲ掛ク、風吹ケハ声アリ」と大日如来を祭ってあることを載せている。明治41年7月、この頂に立った小島烏水は「奉納大日如来寛政七年乙卯六月(1794年)」と彫られた小鉄板のあったことを記録している。となれば『甲斐国志』の記事も本当かも知れない。  明治4年、地元、芦安村の行者、名取直江が里宮、中宮、奥宮を造営して開山したという。  登山者として最初にこの頂を踏んだのはウエストンで、明治35年8月23日のことであった。積雪期の初登頂は大正14年3月22日、京都三高山岳部のメンバーで、西堀栄三郎、桑原武夫、多田政忠、四手井綱彦の4人。野呂川両俣から右俣に入り、間ノ岳を経て頂上に立った。次いで3月28日、山梨の平賀文男が広河原から第2登を飾った。  最近は交通の便がよくなり、おそらく南アルプスの山の中で、一番人気のある山ではないだろうか。登山基地の広河原まで車で入れば、1泊2日でゆっくりと往復でき、雪渓あり、お花畑あり、しかも展望絶佳ときている。  展望は南、眼前にどっかと腰をすえた間ノ岳、これに重なり合うは、塩見岳や悪沢岳。南東の櫛形山の上に富士山、東側には鳳凰三山の上に奥秩父。その左には八ヶ岳、甲斐駒ヶ岳。遠く白馬三山から槍・穂高、その左にずんぐりと仙丈ヶ岳、御岳山、中央アルプスが堪能できる。  登山コースは広河原から大樺沢二俣、小太郎尾根経由で6時間、同じく二俣から八本歯のコル経由で5時間強の登りで登頂可能。

山梨県 静岡県 / 赤石山脈北部

間ノ岳 標高 3,190m

 白峰三山の真ん中に位置するので間ノ岳とは、当を得た山名である。日本第3位の高峰であるにもかかわらず、極めて地味な山だが、赤石岳、仙丈ヶ岳とともに、大きな山容を見せている。山頂は広くて、通称、間ノ岳のドームといわれるほどで、悪天のとき、方向を間違えることさえある。  一般的に、この山だけを単独に登るということはあまりない。白峰三山縦走時、あるいは仙塩尾根を経て塩見岳へと抜ける際など登頂する。  この山頂からの展望は、北岳のそれと大差がない。しかし、南側から眺めた鋭角の北岳は、さすが南アルプスの王者の風格をもって昂然として迫ってくる。  間ノ岳は『甲斐国志』にその名が載っている。登山者としては、明治14年(1881)8月18日に、アーネスト・サトウが農鳥岳経由で登頂している(出典「日本旅行日記Ⅰ」東洋文庫)。積雪期では京都三高山岳部の西堀栄三郎ら4名が、大正14年3月22日、野呂川右俣をつめて頂上に出た。北岳に登頂の途次の通過であった。  この山を踏むためのベースとなるのは、北岳のコルにある北岳山荘で、ここから中白峰を経て2時間ほどで登頂できる。 ※2014年3月までは、日本第4位の標高の山とされていたが、測量方法の変更や地殻変動などにより1m高くなることが国土地理院より発表され、2014年4月1日より奥穂高岳と並んで日本第3位の標高の山となった(2014.04.01追記)。

山梨県 静岡県 / 赤石山脈北部

農鳥岳 標高 3,026m

 農鳥岳の名は、この山の東面の谷に現れる雪形に由来している。6月中旬に、首を南に向けた白鳥の姿が甲府盆地から望見される。これを見て農家では田植えを始めた。  この山には、鳳凰三山の農牛とともに次のような伝説が残っている。  茅ヶ岳のふもと、穂坂辺りは早魃の常習地帯で、村人は鳳凰山に登って雨乞いをした。山神は気の毒に思い、黒牛、白鳥を遣わせ、池を掘らせた。夜中に仕事をし、白鳥が暁を告げると山に帰ることを日課としていた。ある朝、時を告げることを忘れてしまった。白鳥はさっと飛び立ったが、牛は進退極まり、石にされてしまった。それから古巣の鳳凰山には春になると黒牛の、農鳥岳には白鳥の雪形が現れるようになった、とのことである。  本峰は農鳥岳と西農鳥岳(3050m)の2峰に分かれる。西農鳥岳から、農鳥岳の上にのぞく富士山は印象的。また、大井川の谷を隔てて、仙塩尾根の頂点に立つ塩見岳の姿も捨てがたい。  白峰三山縦走の場合、間ノ岳から2時間で西農鳥岳。奈良田温泉から大門沢コースを登るとなると、9時間強で農鳥岳の頂に立てる。

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