紅葉と雪。2つの季節が交差した、晩秋の経ヶ岳
読者レポーターより登山レポをお届けします。naobonさんは日帰りで中央アルプス・経ヶ岳(きょうがたけ、2296m)へ。往路は幻想的な雪景色、復路は絶景と鮮やかな紅葉の中を歩き、冬と秋を体感する晩秋の山旅を楽しみました。
文・写真=naobon
MAP&DATA
みぞれの中、登山を開始
11月最初の三連休の最終日、中央アルプスの北端にある、経ヶ岳(きょうがたけ、2296m)に登りました。経ヶ岳は、平安時代の名僧、慈覚大師(じかくだいし)が麓にある仲仙寺(ちゅうせんじ)にお経を書いた木片を埋めたことから、その名がついたといわれており、日本二百名山でもある名峰です。
当初、経ヶ岳周辺の天気は晴れ予報でしたが、標高約1550mの権兵衛峠(ごんべえとうげ)登山口では、なんとみぞれ。降雪に驚きつつも、午後から天候回復が見込まれる予報でもあったので、登山を開始します。
権兵衛峠登山口から経ヶ岳山頂までは、約5.6kmの道のりです。登山口の標高は高く、全般的になだらかな道ですが、小ピークがいくつかあり、アップダウンに富む山とのこと。この後の晴れ予報を信じて、歩き始めました。
登山口付近には積雪はありませんでしたが、アンテナピーク付近を越えると徐々に足元に雪が積もってきました。幸いなだらかな道なので、歩くのにはそれほど支障はありませんでした。登山道脇のところどころ、柵囲いに不思議な袋が下がっていました。すれ違った登山者の方から聞いた話では、ササユリなどの植物をシカの食害から守るためのシカよけで、強烈な臭いが出るヒトデの粉が入っているそうです。
小坊主岩、観音岩、まっくん岩などの奇岩ゾーンを越えると、中央分水嶺の看板がありました。日本海側に流れる信濃川(しなのがわ)と太平洋側に流れる天竜川(てんりゅうがわ)の境目に立っていると思うと少し不思議な気持ちがします。
絶景を楽しめるはずが、雪の中を進む
ここから北沢山(きたざわやま)の斜面を登り詰めると、北沢山山頂(1969m)に到着です。晴れていれば南アルプスが望める絶景のビューポイントですが、今は雲の中。幸い雪はやんだので、小休憩をとりました。ナンテンの実の赤色が雪景色に映えます。
北沢山山頂から、コイノコまでは、約40分の絶景ルート……のはずがモノトーンの雪景色。雪もやや強くなってきました。コイノコで、先行していた2人組のパーティと遭遇。お話をうかがうと、地元のご出身の方で、経ヶ岳に何度も登られているとのこと。この先の登山ルートについてアドバイスをいただき、歩みを進めます。
この先の岩場は、雪が降っていたので先のアドバイス通り迂回路を選択。途中、再びの中央分水嶺と標高2043.2mを知らせる看板がありました。しばらくして雪もやみ、視界が徐々に開け、紅葉終盤の赤茶けた木々に覆われた山裾がちらりと見えました。雪と赤茶色の森と靄(もや)という、なんとも幻想的な風景でした。
経ヶ岳山頂に到着すると、青空が広がる!
ここから経ヶ岳山頂に向けて、最後の急坂を登ります。途中「経ヶ岳の肩」で、「山頂まであと500m」の表示に励まされます。この付近では5~10cmくらいの積雪があったので、つぼ足で慎重に進みました。幸い、高度が上がるにつれ、雪もやみ、徐々に青空が見えてきたところで、経ヶ岳山頂(2296m)に到着です。
山頂では、青々とした空に、白い氷をまとった木々、その先に紅葉の山々が見えます。遠く、目を凝らすと、北アルプスまで望めました。風もなかったので、ここで眺めを楽しみつつ休憩を取りました。
往路とは打って変わった晩秋の風景の中を下山
下山は往路と同じルートを戻ります。山頂直下の斜面は雪に覆われているので、滑らないよう、トレッキングポールを使いながら、慎重に下りていきます。往路は冬のモノトーンの景色でしたが、復路は、温かい色彩の晩秋へ逆戻り、同じ道を歩いているとは思えない光景が広がります。
紅葉と雪の織り交ざる景色にうっとりしながら、立ち止まっては歩きを続けて、コイノコに戻りました。コイノコの標識の向こうに、つい先ほどまでいた経ヶ岳のピークが見えました。
往路は雪で、まったく経ヶ岳の姿を拝めなかったのですが、存在感抜群です。山頂の雪模様と、山麓の赤茶色の森、白銀の樹木、自然の織りなす風景にしばし言葉を失います。
コイノコから北沢山以降は、絶景ルートが続きます。復路では、樹林帯を抜けると、左手に南アルプス、右手に御嶽山(おんたけさん、3067m)、正面に中央アルプスと、山々と里山の風景に見守られて歩きます。
北沢山山頂では、展望に囲まれて休憩をとりました。南アルプスの峰々が遠くに見えます。暖かくなってきたので、みかんの酸味が身にしみました。
「熊出没注意」の看板に気持ちを引き締めつつ下る
北沢山から松の木峠までは、夏であればお花畑が点在するエリアです。とくにササユリが有名だそう。陽当たりがよいためか、雪はすっかり溶けて、泥道となっていました。往路では気づかなかったのですが、北沢山の山腹には、「熊出没注意」の看板と、生々しいクマの爪痕が木々に刻まれていました。今年6月ごろに出没したときのもののようです。最近の全国的なクマ出没のニュースを思い出し、クマ鈴を鳴らして、気持ちを引き締めます。
アンテナピークのある松の木平から権兵衛峠登山口まで最後の下りです。季節はすっかり秋に戻っています。カラマツや、モミジ、カエデの紅葉に、午後の柔らかい光が差して、より一層色鮮やかに輝きます。
里見平にて、再び南アルプスと伊那谷の風景が迎えてくれました。南アルプスの山頂付近はすでに雪をかぶっていて、冬化粧をしています。仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)に3週間ほど前に登ったとき紅葉真っ盛りだったことを思い出すと、季節の移ろいをしみじみと感じます。
無事登山口に到着。下山後は、麓の「大芝(おおしば)の湯」にて、冷えた身体を温めて、帰路に就きました。晩秋に、冬と秋が凝縮した小宇宙を経験した、豊かな山旅でした。
(山行日程=2025年11月3日)
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プロフィール
naobon(読者レポーター)
東京都在住、神戸市出身。夏山シーズンは日本アルプスの稜線縦走を、冬は低山・里山ハイキングや山城巡りを、気ままに楽しんでいます。山行後の温泉とビールにこの世の極楽を感じる、週末ハイカーです。
山と溪谷オンライン読者レポート
山と溪谷オンライン読者による、全国各地の登山レポートや、登山道具レビュー。
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