ランニングシューズブランドの意欲的なミッドカットモデルを、朝日連峰・以東岳でテスト
今月のPICK UP HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)/スピードゴート 2 ミッド WP
価格:24,000円(税別)
サイズ:25.0cm~30.0cm
重量:358g(27.0cm/片足)
分厚いミッドソール、前への推進力…。トレランシューズをベースに設計されたミッドカットモデルの特徴を確認
トレイルランニング系のシューズを登山に使用する人がますます増えている。 この手のシューズは柔軟ではあるが、不整地での安定感は期待できないために、岩稜帯がある高山には向かず、重い荷物を支える力も持っていない。だが、低山や日帰り登山程度の荷物ならば十分に使え、軽量ゆえの足さばきのよさに大きなメリットが生まれる。フィット感が高いのもよい点だ。だが、もう少し足首をホールドする感覚が高く、岩の上でのグリップ力が強いと使いやすいと思う方も多いことだろう。
今回ピックアップしたのは、最近になってトレイルランナーからの支持を急速に高めているフランス生まれの新進気鋭メーカー、ホカ オネオネの「スピードゴート 2 ミッド WP」。トレイルランニングシューズを母体に、トレッキングブーツとしての機能もアップさせた最新のミッドカットモデルだ。重量は片足27㎝で約358gと非常に軽量である。
このシューズを上部から見ると、前方には比較的余裕があり、かかと部分はいくぶんシェイプされていることがわかる。
柔らかなアッパーで、足を包みこむようなフォルムだ。シューレースはある程度の伸縮性を持たせたタイプで、多少大雑把に締め付けても一定以上のフィット感を保つ。もちろん、当初から適切にシューレースを締め付ければ、ますます理想的な履き心地だ。ただし、長時間はき続けていると、少々緩みやすいようではある。
出自がトレイルランニングとあって、スピードゴート 2 ミッド WPは前方への推進力を考慮している。例えば、菱形の凹凸をもつソールがつま先部分まで延びているのは、前進するときに、つま先の先端で地面をとらえ、強く蹴りだせるように設計されているからだ。
つま先部分にいくらかミゾを刻んだものはトレッキングシューズやライトアルパインブーツにも見られるが、これほど明瞭にソールを延長しているものは多くない。これはやはり、もともとはスニーカーのようなフォルムのトレイルランニングシューズが原型だからだ。
サイドから見ると際立っているのは、ミッドソールの分厚さ。じつはこのモデルに限らず、ホカ オネオネのシューズは、どれもこのようにものすごく厚みがあるミッドソールを持っている。
スピードゴート 2 ミッド WPのミッドソールの厚みを外側から計測すると、いちばん厚い部分で約4.5㎝。かかとの部分は内部でおわん型にシェイプされているので、ミッドソールによってかかとの下半分が覆われているような状態である。
ミッドソールは厚みだけではなく、幅の広さも相当なものだ。このシューズの本体といえるのは、このミッドソールなのではないかと思うほどである。また、ミッドソールの幅が広ければ、その上に張られているアウトソールも必然的に幅広いものになり、着地している際の接地面積もかなり大きい。これにより、ホカ オネオネのシューズは他メーカーよりも地面との摩擦力が高くなっている。
アウトソールに使われている素材は、ソールメーカーとして名高いビブラム社の製品の中でも特に地面をとらえる力が強い「ビブラムメガグリップ」だ。トレイルランニング系シューズに使うには少々硬いのではないかと思われる素材だが、スピードゴート 2 ミッド WPはアウトソールに深い切れ目を作り、グレーのミッドソールそのものが一部では裏面に出るようにデザインしている。そのためにアウトソールの湾曲性は増し、はいているときに硬さが気にならない一方、滑りにくさはキープされている。
ソールの分厚さと幅広さは、安定性という意味では大きなメリットだが、視点を変えればデメリットともいえる。体の重心は若干上がり、実際の人間の足幅との大きさがかなり異なるため、素足感覚で使えるとはいいがたいからだ。だが、ミッドソールがこれほど分厚いだけあって、スピードゴート 2 ミッド WPのクッション性はまさに驚異的! そのあたりについては、後ほど改めて説明しよう。
もう少し細かなディテールも確認しておきたい。
スピードゴート 2 ミッド WPの足首まわりには、クッション性が高い素材が配置され、一部は何かにぶつかったときの衝撃を和らげるためにか、さらに少し盛り上がっている。この部分をじかに触っただけではそれほど効果があるとは思えない程度の弾力性だが、いくらかメリットはあるのだろう。
インソール(フットベット)は、ホカ オネオネ独自に作ったものではなく、オーソライト社のものを組み合わせている。通気性や透湿性、衝撃吸収性に優れ、防臭や防カビにも力を発揮するというオーソライトのソールは、近年になって多くのシューズメーカーの支持を集め、多くのモデルに採用されている。スピードゴート 2 ミッド WPに使われているものも非常に柔らかで、シューズの持ち味を損なうことなく、性能アップに貢献している。
さて、実際に歩き始めよう。前回のこの連載では、ビッグアグネスの「タイガーウォールUL2 EX」というテントを朝日連峰の大鳥池近くのテント場で試した。そして今回は、同じテント場からスピードゴート 2 ミッド WPで日本200名山の以東岳を目指していく。
以東岳へ! シューズの特徴を活かすため、スピーディーに登ってみる。そこで体感できたのは…
淡い光で包まれ、静けさに満ち溢れている大鳥池を出発。はじめに目指すのは西方にそびえるオツボ峰だ。
真夏とはいえ早朝は涼しく、両脇に笹が生い茂る登山道をどんどん進む。トレイルランニングほどのスピードは出していないが、できるだけスピーディに行動しようと、僕はコースタイムの目安の半分ほどの時間で標高を上げていった。
スピードゴート 2 ミッド WPのフィット感は申し分ない。途中で少々緩んだ気がしたのでシューレースを締め直したが、あとは歩き終えるまで調整する必要はなかった。
前方に進みながら、大小の岩があれば足を置いてみて、石質の違いがソールの滑りやすさにどれくらい影響するのか確かめてみる。地面が崩れかけた場所では足を強く蹴りだし、土や砂の上でのグリップ力もチェックしていった。
総じて言えるのは、ビブラムメガグリップの力は想像以上ではないか、ということだ。一般的なトレッキングシューズに使われているアウトソールよりも数段滑りにくいと思える。もっとも同じ場所で数種類のソールを履き比べたわけではないので、これはあくまで僕の印象に過ぎない。
オツボ峰付近で稜線に上がると、いかにもトレイルランニングに向いた緩やかな登山道になる。
僕はトレイルランニングよりも自分のペースで緩急をつけながら歩くほうが好きだが、それでも今回はときおり小走りになってみたりも…。スピードハイクの感覚でスピードゴート 2 ミッド WPの履き心地をさらに試していった。
一歩一歩ゆっくりと足を踏み出していった登りのときはそれほど明確ではなかったが、平坦な場所でスピードを上げると、足が地面に接した際の衝撃緩和力のスゴさが如実に感じられる。まるで足裏にバネがついているような弾力性があり、飛び跳ねるような歩行感なのだ。これは素直に気持ちいい。
この弾むような履き心地は、ホカ オネオネならではだ。僕は同社の他のシューズも使用したことがあるが、スピードゴート 2 ミッド WPにもその特徴がよく表れている。しかもミッドカットモデルだけに足首まわりのホールド感が高い。もちろん、ローカットのトレイルランニングシューズほど軽快ではないが、一般的なミッドカットのトレッキングシューズよりは足さばきがよく、衝撃吸収性と軽量性、そして安定感のバランスがうまくとれているように感じる。
以東岳が近付き、山頂付近には岩場もいくらか出てくる。しかし僕は何のトラブルもなく山頂に到着した。
遠くには西朝日岳のシルエットが見える。朝日連峰には急峻な岩場は少なく、それほど重い荷物でなければスピードゴート 2 ミッド WPでどこまでも縦走して行けそうだ。
下り道で真価を発揮したグリップ力とクッション性。加えて、防水性もチェック
山頂から下山を開始する。大鳥池という名前ではあるが、その水面の形を上から見た印象は、大きな頭と四肢をもつ、つぶれたカエルだ。
その水面の右手に当たる部分には大鳥小屋とテント場があり、以東岳との標高差は800mほど。それだけ長く登山道を下っていかねばならないわけである。
しかし、ミッドソールの弾力性のおかげで、足への衝撃はあまり感じない。アウトソールの滑りにくさも相変わらずである。今回のテストで撮影した写真は登り道と平坦地のものばかりになってしまったが、実際にこのシューズが真価を発揮するのは間違いなく下り道だ。もしくは、もともと得意であるトレイルランニングの時であろう。いずれにせよ、足にかかる負担がとても少なく、シューズの軽量性とも相まって体が疲れにくい。
大鳥池の一角まで下りると、テント場に戻る前にいったん沢を渡らねばならない。橋は架かっていないので、水量が多いときはシューズを濡らすことになる。ローカットのトレイルランニング系シューズには防水性をあえて省いたタイプも多いが、このモデルの名称には「WP」、つまりウォータープルーフ(防水)の文言が入り、SKYSHELLという素材を用いた結果、雨中でも濡れにくい構造となっている。
たしかに長い間、流れのなかにつけていても浸水はない。表面の撥水力も高く、水から引き上げれば大半の水はすぐに玉のように流れていった。柔らかなアッパーだけに穴が空く心配は避けられず、この防水性がいつまで保てるのかはわからない。しかし、新品のシューズがもつデフォルトの機能性としては合格点だろう。
「スピードゴート 2 ミッド WP」は、予想以上に登山に「使える」シューズだった
その後、僕は泡滝ダムへと下山した。スピードゴート 2 ミッド WPは最後まで履き心地よく、気温は高くてもシューズ内部の蒸れはごくわずか。予想以上に登山に「使える」シューズだ。僕はその後も数回の登山で履いたが、アウトソールの摩耗も少なく、グリップ力はまだまだキープされそうで、今のところ大きな問題はない。ただしミッドソール部分の外側は傷が目立つようになった。だが、それによって弾力性が失われているわけではない。
岩場が少ない低山を中心に、このシューズが活躍する場所は思いのほか多そうである。気になるのは、柔らかで華奢に感じるアッパーがどれくらいの強度をもち、いつまで機能をキープできるかということか。そのあたりは今回のテストでは判断しかねるが、ある程度の回数の山行には十分使えそうであり、シューズ購入時の選択肢のひとつに考える価値はある。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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