登山用アンダーウェアの選び方 1 -その重要性と化繊のメリット-

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あなたは、登山に着ていく服装で迷った経験はあるだろうか。ジャケットなど話題になりやすいアイテムは山仲間などから情報収集できるが、下着であるアンダーウェアについてはなかなか聞きづらいことも・・・。そこで、初心者でも上級者でも意外と知らないことが多いアンダーウェアの話を、さかいやスポーツ 高橋さんに聞いた。

取材/文=辻 歌

 

登山でのアンダーウェアの重要性

登山用アンダーウェアが多彩に揃う、さかいやスポーツ ウェア館


ライターT:登山での服装の話をしていると、意外とアンダーウェアに気を使っていない人が多いような印象があります。

高橋さん:残念ながら、登山歴の長い人でもアンダーウェアに無頓着な方はいます。でも実は、登山の服装のなかでアンダーウェアはとても重要度の高いアイテム。体の冷えは命に直結することだから、冷やさないためにとにかく「山の中では体を濡らさないこと」が大事! 「雨で濡らさないための雨具」と「汗で濡らさないためのアンダーウェア」は、登山をするなら必ず揃えてほしい必需品です。

ライターT:登山中に体が冷えると、本当につらいですよね・・・。

高橋さん:山での遭難事故は低体温症を伴うことが多いので、まずは体を冷やさないことが大切なんです。低体温症は、低山や真夏でも場合によっては起こりうるので気をつけてほしい。低体温とまでいかなくても、寒くて風邪をひいてしまったら、せっかくの楽しい山の思い出が台無しになってしまいます。

ライターT:山では、なぜ体が冷えてしまうのでしょうか?

高橋さん:登山では標高が上がっていくにつれて気温が下がり、風の影響も受けやすくなる。そんな環境下で体のまわりが汗で濡れたままだと熱を奪われ、たとえ重ね着して温めようとしても熱を発しにくい状況になってしまう。逆に、汗や雨で濡れてしまったウェアでも乾いた状態に戻せていれば、体はがんばって熱を生みだそうとしてくれます。体温を下げないためには、厚着で濡れているより、薄着で濡れていないほうがいい。だから、濡れたままにならない吸水性・速乾性に優れたアンダーウェアが必要なんです!

 

アンダーウェアに適した素材とは?

ライターT:具体的に、どのような素材のものを選べばいいのでしょうか。

高橋さん:まず、綿100%のものは避けること。天然繊維である綿は着心地がよく、汗をたっぷり吸ってくれて洗濯での耐久性も高いから、昔から親しまれてきた素材。だけど性質として、汗を吸った後に乾きづらく冷えやすく、かつ硬く(ごわごわに)なりやすいというデメリットがあります。これが登山には向かない要素。登っていて汗をかいているうちはよく吸ってくれていいけれど、乾きにくいので、濡れたままの状態が長時間続いてしまいます。

ライターT:綿とほかの素材をブレンドしたアンダーウェアもありますよね。

高橋さん:登山用に作られているアンダーウェアで、素材構成に綿が多少入っているものは着用シーンによってOKです。たいていは綿の吸水性や肌触りとポリエステルの速乾性という、両素材のいいところどりをしているものが多いので。ただし、天候のコンディションが厳しいときや長期縦走などでは避けたほうがベターです。

ライターT:シーンを問わずに着られる、おすすめの素材は?

高橋さん:ポリエステルに代表される吸水速乾性を備えた化学繊維(以下、化繊)か、天然繊維なら吸湿性に優れて冷えも感じにくいメリノウールがおすすめです。最近の登山用アンダーウェアは、このいずれかの素材をメインに作られているものがほとんど。どちらを選ぶかは好みもあるので、特徴を知って好きなほうを選ぶといいでしょう。

化繊とメリノウール、両方にメリットとデメリットがある

 

ポリエステル素材の特徴

ライターT:ではまず、化繊のアンダーウェアについて教えてください!

高橋さん:先ほども言ったように、登山用アンダーウェアに使用される代表的な化繊はポリエステル。このポリエステル素材をメインに使い、吸水速乾性をもたせています。ちなみに「吸水速乾」とは、汗をよく吸収して、すばやく拡散して乾燥させる機能のこと。つまり、汗冷えを起こしにくいわけです。

ライターT:同じポリエステル素材でも、ブランドにより機能が異なるのですか?

高橋さん:ポリエステル100%でもブランドやアイテムによって、特徴は異なります。糸自体や生地にするときの織り方に工夫を凝らして、肌触りをよく仕上げたり、肌から離れた位置で乾かせるようにしたり。汗による臭いが残りにくい加工をしているものもあります。

ライターT:スポーツ用のアンダーウェアとの違いは?

高橋さん:スポーツ用の場合、「体をクールダウンする」という機能を備えているものが多いです。速乾性はあるけれど、体の表面にかいた汗を、体の表面で拡散させながら気化熱でクールダウンさせる・・・というイメージ。地上で行われるスポーツの場合、とくに寒くないシーズンはこのほうが涼しくて快適なんです。登山の場合は、体の熱を奪うと冷えすぎてしまい、その後の熱を生みだしにくくなってしまう。だから、登山用アンダーウェアは、汗をいったん体側から生地の表面側に移動させてから拡散させる。要は、肌じゃなくて、生地の上で拡散させるものが多いです。

ライターT:肌の表面か生地の表面のどちらかで乾かすかで、冷えの体感が違うということですね!

高橋さん:あとは、ウェアの縫い目がバックパックを背負う部分と干渉しにくいとか、登山シーンで着用によるストレスが少なく作られているものが多いです。

 

おすすめの化繊アンダーウェア

ライターT:さまざまな厚みのアイテムが揃っていますが、どのように選べばいいですか?

高橋さん:まず、よく着用する季節やアクティビティを想定して。標高が高すぎない夏山なら、薄手タイプのアンダーウェアもしくはアンダーウェアと同じような機能をもっているTシャツやカットソーなどのシャツでもOK。夏場でも日本アルプスなどの場合は、薄手タイプのアンダーウェア+シャツを重ね着すると汗の処理もいいし、さまざまな標高に対応しやすいです。
積雪期や標高の高い山なら、中厚手タイプか厚手タイプを選ぶのがおすすめ。この2タイプの選び方は暖かさの好みや体質にもよるので、迷ったら専門店のスタッフに相談を。一般的には、気候が安定した残雪シーズンや、雪山でもラッセルの多い登山やバックカントリーでのスキーやスノーボード、アイスクライミングといった運動量が多いアクティビティをするときは、中厚手タイプのほうがいいでしょう。

ライターT:薄手タイプと中厚手タイプで、おすすめのアンダーウェアを紹介してください。

薄手タイプのおすすめアイテム

アンダーウェアとして定評のある「パタゴニア」のキャプリーン。2019年に登場した新しいモデルがブランド史上最軽量となる「クール・ライトウェイト」で、吸湿発散性と速乾性に優れ、肌触りがよく、1枚で着やすいデザイン性も。臭いの原因となるバクテリアの繁殖を抑える防臭加工が施されています。

パタゴニア「ロングスリーブ・キャプリーン・クール・ライトウェイト・シャツ」

サイズ
XS、S、M、L、XL、XXL
素材
ポリエステル100%
本体価格
6,800円(税別)

 

中厚手タイプのおすすめアイテム

コストパフォーマンスがよく、定番として人気が高い1着。ミドルウェイトのため適度な保温力があり、吸水速乾性も備えています。臭いにくい制菌効果や着用時の快適性を高めた設計といった登山用アンダーウェアに求められる機能性と、比較的リーズナブルな価格のバランスが◎!

モンベル「ジオライン M.W. ラウンドネックシャツ」

サイズ
S、M、L、XL
素材
ポリエステル100%
本体価格
4,300円(税別)

次回は「登山用アンダーウェアの選び方②」として、天然繊維の心地よさと登山に適した機能性を兼ね備えた“メリノウール”について紹介します。

 

プロフィール

高橋 典孝(さかいやスポーツ ウェア館)

山の世界で働いて20年のベテラン。ウェアに関する知識はオタク級だが山道具も大好き!!
ゆったりオートキャンプからガッツリ登山まで何でもこなすが特に最近は、トレイルランニング、テンカラ釣りに没頭中。

さかいやスポーツ

創業以来、約60年にわたり神田神保町で全国の登山家やアウトドアマンに愛されている登山用品店。ウェア、シューズ、ギアなど品目別の専門館を6店舗展開。ウェアや道具に詳しいスタッフが丁寧に解説してくれるので、ビギナーでも安心。

住所/東京都千代田区神田神保町2-48
TEL/03-3262-0432
営業時間/11:00~20:00
アクセス/神保町駅A4出口より徒歩6分、JR中央・総武線水道橋駅東口より徒歩8分

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