アメリカを代表するロングトレイル!ジョン・ミューア・トレイル:トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」(14)

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旅と組み合わせて気軽に楽しめる世界のトレイルを紹介する連載「世界のトレイルを巡る旅」。トレッキングをテーマに300日間で世界一周旅行をした山野夫婦が、訪れた五大陸50超のトレイルからおすすめの場所を振り返る。第14回目は、アメリカを代表するロングトレイルのジョンミューアトレイル(JMT)。シエラネバダ山脈の美しい景観とともに、アメリカのトレッキング文化が味わえる自由と自律のトレイル。全長210.6マイル(337km)の行程のうち約3分の1を歩いた様子をお伝えする。

 

ジョンミューアの理念を体現するアメリカの国立公園システム

2016年9月4日(世界一周145日目)

ヨーロッパ各地のトレイルを歩き周った僕らは、大西洋を渡りアメリカ・カリフォルニアへやってきた。ヨセミテ国立公園などがあるシエラネバダ山脈には数多くの美しいトレイルがあり、その中でも人気が高いのがジョンミューアトレイル(JMT)だ。北はヨセミテバレーから南はアメリカ本土最高峰のマウントホイットニーまで続く全行程210.6マイル(337km)。今回僕らはその内の約3分の1を7日間かけて歩いた。訪れたのは9月。登山口に吹く風は冷たく秋の気配が漂う。

僕らはマンモスレイクのホースシューレイク登山口からスタート


「自然保護の父」と呼ばれ、ヨセミテ国立公園等の制定を通じて、現在のアメリカの国立公園システムの基礎を作り上げたジョンミューア。彼の功績に因んで名付けられたこのトレイルは、自然保護の観点から様々なルールが定められている。トレッキングにあたってはパーミット(許可証)制が取られており、各登山口の1日あたりの入山者数が決められている。パーミットを受け取る際にはレンジャーから細かいルールの説明を受け、ハイカーは内容を理解し承諾した旨のサインをしなければスタート出来ない。しかしルールにきちんと従えば、あとは自由に自然を楽しむことができる。自由と自律のトレイルだ。

しばらく歩くとコバルトブルーに輝くマクレオドレイクへ、この景色を見て一気に気分が盛り上がった

少しずつ再生が始まっていた焼け焦げた森

 

山を歩くだけではないトレッキングの新たな魅力

2016年9月6日(世界一周147日目)

JMTのトレッキングは毎日が充実した贅沢な時間だった。特に次々に現れる湖の美しさは素晴らしい。深緑の針葉樹林とグレーの岩山、雲ひとつない青い空、そして太陽の光を受けてキラキラと眩しく光る湖面! JMTを象徴する景色だ。山を越え谷を越え、景色を楽しむ。そして暗くなる前にキャンプ適地を見つけ、その日の寝床を確保する。トレイルに売店やキャンプサイトがあるのはごく一部。必要な荷物を背負って歩き、夜は野営するスタイルだ。日々歩きたいだけ歩き、気に入った場所でキャンプを張る。そんなトレッキングを何日間も続けることができる。キャンプは、一部のエリアを除いて、ルールを守ればどこに張っても良い。

湖を眺められる丘の上にテントを張ったら夕食の準備だ。湖から水を汲み、焚き火用に枯れ枝や松ぼっくりを集める。そういうひとつひとつが何だか楽しい。水も火も全て自然の中から入手するプロセスに、自分もこの自然の中の一部なんだということを改めて気付かされる。山を歩くだけではないトレッキングの新たな魅力だ。日が暮れると急激に冷え込んでくる。焚き火にあたりながら、ゆっくりと夕食を済ませ、食後は一杯のコーヒー。頭上にはこの旅一番の満天の星が広がっていた。

浄水フィルターを使って、湖水から飲料水を作る

焚き火が楽しめるのもJMTの魅力の一つ

 

大自然と向き合える贅沢な毎日

2016年9月7日(世界一周148日目)

JMTは朝も気持ちいい。夜明けと同時にテントから這い出し、日の出を眺める。風がなく全てが静まりかえり、湖面は鏡のようで、徐々に白くなっていく空と太陽で赤く染まり始めるバナーピークを写し込んでいた。静寂から何かが生まれてくるようなものすごいエネルギー。今日も楽しいトレッキングになりそうだ。

静かな夜明けを迎えるサウザンドアイランドレイク

バナーピークが目の前に迫る、圧倒的な迫力

9月は秋の気配たっぷり、草紅葉が綺麗だった


僕らのJMTは歩き始めるまでが大変だった。枠の少ないパーミットを何とか取得し、ルールを理解し、必要な装備を準備する。予定していた登山口までのバスが無く、100km先まで人生初のヒッチハイクをしたり、アメリカの連休に重なってしまったトレッキング前日はキャンプサイトの空きがなく泊まる場所を探して街をさまよったり。この旅で一二を争うバタバタぶりだった。それでも、一歩トレイルに入れば、やっぱり来てよかった! と心から思える素晴らしさがあった。ハイカー達は自由に歩ける喜びを感じながら、ルールを守ることに誇りを持ち、トレイルには足跡しか残さない。ヨーロッパとはまた違うアメリカのトレイル文化を味わえたトレッキングだった。

大きな峠を越えて今日のキャンプ地を探して歩く

どれだけ歩いても飽きない景色

 

アメリカを代表する人気のロングトレイル

日本でもロングトレイルという言葉をたくさん耳にするようになり、JMTは日本人ハイカーもたくさん歩くようになっています。そのため、歩くために必要な情報は多くなってきてはいますが、日本とは異なるトレイル文化・ルールを理解し、必要な手続きを事前に済ませ、限られた期間で海外まで行ってトレッキングしてくることは、やはりハードルが高いことだと思います。パーミット取得の手続き一つとっても、歩き始める場所によって取得先・手続きが異なったり、トレイルヘッドが数多く存在してそれがJMTを歩くためのトレイルヘッドとして有効なのかを確認したりと、僕らもかなり手こずりました。

それでも人気が高まる一方なのは、やはりこのトレイルが持っている魅力が多くの人を惹きつけて止まないからでしょう。憧れのJMTとして、ルートを検討し、ルールを理解し、必要な装備を直前まで悩み続ける、そのプロセス自体もアメリカのロングトレイルを歩く楽しみのひとつなのだと思います。

大変だけど、その分素晴らしい経験ができるJMT。3、4日のセクションハイクであってもその魅力は十分に味わえるので、多くの人におすすめしたいトレイルです。

ジョンミューアトレイルでのトレッキングに関する準備やアクセス、ルート、気候や装備については、トレイルトラベラーズのブログにもまとめていますので、よろしければご覧ください。

ハーフドームまで来ればゴールのヨセミテはもうすぐだ

プロフィール

Trail Travelers 山野尚大・優子

山と旅の愛好家。経営コンサルタントとして平日の激務と休日の山ごもりを両立させる日々から、結婚を機に心機一転、夫婦で絶景トレイルを巡る世界一周の旅に出発。2016年4月からの300日間で、五大陸の50超のトレイルを歩く。「Trail Travelers(トレイルトラベラーズ)」を立ち上げ、旅行と組み合わせたトレッキングの楽しみ方を発信中。
【ブログ】
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トレイルトラベラーズ「世界のトレイルを巡る旅」

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