2019年の旅の始まりは自宅から。三百名山のない千葉県へ! 田中陽希さん旅先インタビュー第11弾

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2018年1月1日に鹿児島県の屋久島からスタートした「日本3百名山ひと筆書きチャレンジ」。12月に神奈川の自宅に帰ったあと、しばらくの休養を経て、2019年1月1日から2年目のスタートを切った。2年目に入った人力チャレンジ旅を追う。

POINT
  • 2年目の旅の始まりは自宅から。最初に向かったのは千葉県
  • 福島県の大滝根山まで北上して、方向転換。関東北部の山へ
  • 第三のふるさと・群馬県の山を歩く

 

 

2年目の始まりは千葉へ。お正月の大学駅伝になぞらえて

2019年の元日は神奈川の自宅からスタートしました。まずは都内に一泊し、2日の朝は、大学駅伝のスタートを見ました。 ランナーが箱根を目指すのを見送り、僕は千葉へ。千葉県最南端の野島崎を折り返しと考え、箱根の駅伝になぞらえて「往路・復路」で、5区間(=5日)ずつ、内房・外房を歩きました。 毎日約30km、後半は40km超えの日もあり、約300kmを歩きました。

三百名山2年目のスタートは神奈川の自宅から。箱根駅伝のスタート地点で母校を応援

今回の旅では、僕の力では人力で行くことができない沖縄県を除くと、三百名山のない都道府県が4つあります。千葉県もそのひとつなんですが、千葉県にも立ち寄りたい、九十九里浜を歩いてみたい、というのがありまして、当初からその計画をしていました。

1月5日には、千葉県の山の中でも人気の高い鋸山に登り、今年最初の登山になりました。ここは「日本寺」という大きなお寺の一部になっており、日本寺にある石像の大仏は、奈良の大仏よりも大きく、日本一の高さだそうです。

今年の初登山は千葉の鋸山。日本寺の大仏は日本一の大きさ

6日に房総半島最南端・野島崎に到着し、5日間(5区間)の「往路」が終了。後半は外房を銚子に向かって進みました。

途中、鴨川市では「トンネルすいぞくかん」を通りました。道路の脇に200mくらいの歩行者専用のトンネルがあり、トンネル全体が水族館のようにペイントされて、たくさんの魚が描かれていました。市民の方が協力して描いたそうです。

各地を歩いてきましたが、ここまでしっかり描き込んでいるトンネルは初めてでした。

歩く旅だからこそ気がついた「トンネルすいぞくかん」。鴨川市にて

九十九里浜は、強風ですべてを歩くことができませんでした。また後半には東日本大震災の津波の影響がまだ残っている箇所が見られました。

強風の九十九里浜を歩く

屏風ヶ浦にも津波の痕が残っていた

銚子市の犬吠崎は、「日本一早く元日の初日の出が見られる場所」だそうです。また、犬吠埼灯台は、「日本初の国産レンガ造りの灯台」だそうで、2つの日本一を見つけることができました。ここで「復路」の5区間(5日間)が終わり、1月12日に茨城県に入りました。

犬吠埼灯台は、「日本初の国産レンガ造りの灯台」

 

三百名山の登りながら北上し、福島県へ。

つくば市ではまず「国土地理院」に立ち寄り、翌日、2019年最初の三百名山、筑波山に登りました。

神奈川県の大山に登って以来で、三百名山としては122座目の山になりました。 山麓・南側から通じる参詣道を登っていき、宿で一泊、翌日、筑波山神社で名物の「ガマの油売り」の口上を聞いてから、男体山、女体山と登りました。

2019年最初の三百名山、筑波山へ。名物「ガマの油売り」の実演も体験

1月16日には、水戸市の登山専門店・ナムチェバザールさんのご支援で、今年最初の旅先交流会を開いていただきました。直前の告知で、平日の開催でしたが、200人もの方に集まっていただき、みなさんからの応援のパワーをいただきました。

ナムチェバザールでの旅先交流会には200人ものファンが集まった

那珂市で見つけた「日本一の毘沙門天」。案内看板に気づいて立ち寄った

その後は、茨城県を北上し、1月19日に八溝山に登りました。茨城県、栃木県、福島県にまたがる三百名山の山で、標高1022mは茨城県では最も高い山です。

茨城県側のお寺からのルートを進みました。山中には5つの湧水があることで有名なのですが、残念ながら、凍結していて湧水を飲むことはできませんでした。

誰もいないところに応援看板が。嬉しい瞬間。123座目では「いち・に・さん・ダーッ」

ここで茨城県の旅を終え、約90km北上して、福島県にある大滝根山を目指しました。

大滝根山は、航空自衛隊のレーダーの建っている山で、山頂の三角点周辺も自衛隊の基地内にあります。山頂に立つために、2週間前に申請して許可をもらっておきました。

基地に勤務されている方で、NHKの番組を見てくださっている方がいたこともあって、僕が行くことを伝えると、普段は2人くらいが立会いのところ、10人くらいで出迎えていただきました。

福島県の大滝根山は自衛隊の基地の中に山頂・三角点がある。事前に申請して許可をもらった

前日に雪が降ったこともあって、吹き溜まりには30cmくらいの積雪があり、今年初めてのスノーハイキングとなりました。

福島のだるまは「品の良さが日本一」。国道4号線は「日本一長い国道」。

白河市にある南湖公園は、「身分の隔てなく使える憩いの場として藩主が作った最古の公園」

 

関東北部の山々をつないで進む

1月25日に栃木県那須町に入りました。今回、那須岳に登ると思われた方もいたようですが、冬の那須岳には登らず、高原山を目指しました。

三百名山の高原山へは初めてでしたし、1月に歩き始めてからのどの山より標高が高く、積雪の多い山です。

慎重を期して、雪の状態を確認するために途中まで登り、一度下山して改めて登ることにしました。下見をしてから登り直すのは、昨年の九州・国見岳以来です。

1月30日、無風・快晴、最高のコンディションの中で高原山・釈迦ヶ岳に登頂しました。 雪山では「結果的に登れちゃった」というのは安易な考えです。初めての山だとしたら「確信を持って」登れなくては危険です。そのための準備を怠ってはならないと考えています。

無雪期ならコースタイムが参考になりますが、冬はコースタイム通りにはいきません。 実際、高原山では下見をしたあと吹雪になり、トレースが消えてしまったりもしました。しかし、下見をしたことで、危険箇所や雪庇の場所などもわかりましたし、気持ちに余裕を持って登ることができました。

日光東照宮の三猿「見ざる・言わざる・聞かざる」の前で

翌日は日光へ。世界遺産の東照宮を見学したあと、男体山の麓にある二荒山神社の下社へ立ち寄りました。この時期は開山されていないので、秋に再訪することを伝え、次に進みました。

二荒山神社にて。再訪を誓う

次の山へ向けて、群馬県みどり市に向かいました。当初の計画では次は袈裟丸山を登る予定でしたが、登山口まで歩いたものの、今回はパスすることにしました。

袈裟丸山は登山口まで来たが…。登山口まで来て登らないのは、初めて。
「雪山は装備を持てば登れるというわけではない」と陽希さん

「陽希さんなら登れるんじゃないか」という声もいただきましたし、自分の知人・友人が、冬の谷川岳とかいろんな雪山に登っているのをSNSで見ることもあります。

しかし、何百と登っているというのは関係なく、自分の雪山経験は初心者の範疇だと思っています。雪山の見極めは、安易に考えず、厳し目に考えることにしています。今の雪の状態と、自分の経験と技術を踏まえて「今は登らない」と判断しました。

足尾銅山を見学と思ったが、トロッコ電車に乗らないと見学できないため、断念

 

第三のふるさと、群馬県へ

袈裟丸山をスキップした後は、峠を越えて群馬県に入り、赤城山の山麓に着きました。 埼玉県で生まれ、北海道で育った僕にとって、アドベンチャーレーサーを目指してチーム・イーストウインドに入ったので、その拠点である群馬県は第三のふるさとと言える場所です。

赤城山へは何度も登ったことがあるのですが、雪が積もった季節に登るのは初めてでした。 東側の花見ヶ原森林公園から、最高峰の黒檜山を目指しました。 126座目となる赤城山は最高の天気に恵まれました。黒檜山、駒ヶ岳と縦走し、大沼湖畔に下山しました。

第三のふるさと・群馬県の第一座は赤城山。最高の天気

翌日は山上で休養日を取り、大沼で人生初の「氷上のわかさぎ釣り」を体験しました。大沼は全面氷結していて「油氷」という状態になっているのを初めて見ました。

「油氷」とは、凍った湖面に雪がない状態で、氷の表面を風がなめるので、氷が透明でテカテカつるつるになっている状態を言うそうです。閉じ込められたガスが上層に出てくる「アイスバブル」や、氷が膨張してたわむ状態、ゴーンゴーンという音がする状態など、北海道育ちの自分でも見たことがない冬の湖の現象を体験することができました。

赤城山山上で氷上わかさぎ釣りを初体験。つるつるテカテカの「油氷」も初めて見た

赤城山の裾野を下り、次は隣の榛名山へ向かいました。

伊香保の温泉街から榛名山へ向かう途中、アイススケートリンクがありました。屋外のスピードスケートのリンクで、国体の競技も行われ、過去には世界大会も開かれた、国際規格の400mトラックのリンクでした。

国際規格の屋外スケートリンク「伊香保リンク」(*)にて

軽い気持ちで、スケート靴を借り、人生3度めのアイススケートをしたのですが、リンクの方の話を聞いているうちに、スピードスケート用のシューズも履いてみたくなりました。

フィギュアスケート用とスピードスケート用では、ひと蹴りで進む距離が違いました。アスリート魂に火が付いて、気がついたら2時間近く滑ってしまいました。

【編集部註】 伊香保リンクは「国際規格の屋外スピードスケートリンクと2つの屋内リンクを備えた“日本最大級のスケート施設”」とのこと

そんな寄り道をしてから、榛名山の山群の二ツ岳(雌岳、雄岳)に登り、榛名湖畔の宿で一泊。翌日、さらに榛名富士を往復したあと、第二峰の相馬山、最高峰の掃部ヶ岳に登って、127座目の榛名山の山行を終えました。

榛名山は複数のピークからなる。二ツ岳、榛名富士、相馬山、掃部ヶ岳に登った

取材日:2019年3月7日
写真提供:グレートトラバース事務局

 

【編集部から】
山を登り、次の山まで歩き、また登ることを繰り返し、3度めの「百名山ひと筆書き」に挑戦中の田中陽希さん。実際には、登山道を歩くよりもはるかに長い距離、道路を歩いている。

その大半が人があまり歩いていない場所。そこで陽希さんが目にするものは…、路肩に捨てられたペットボトルなどのゴミだ。歩いている旅だからこそ、目にする光景。歩いている人が少ない道路ということは、車からわざわざ投げ捨てられたゴミなのだ。

これまで、山の美しさ、険しさを言葉にしてきた陽希さんだが、路肩のゴミを見ない日はないのだろう、初めてこのことを語ってくれた。

インタビューの電話口で、陽希さんは「今々の自己欲求のため、便利な生活のために消費が増大していることは否定できません。自分自身も、旅を続ける間、コンビニを使うし、レジ袋をもらう。ただその便利な生活で出てしまったゴミをどう処理するかは、個人個人の意識の問題。自分だけが便利であればいい、今が良ければいい、ということは決してない。未来を本気で考えて行動している人はまだまだ少ないと思います」

「果たしてこれで、日本は美しい国です、と言えるでしょうか? 自分にとって不要となったモノがゴミとなるのか、それとも新たなモノに生まれ変わるのかは、手に持つ人の判断次第。ゴミと言われるモノのほとんどは地球の恵みから生まれ、全てが大切な資源でもあることを忘れてはいけないでしょう。それぞれが考えて実践しなくてはならないと思います」と話してくれた。

田中陽希さんは日記でもこのゴミのことを書いている。田中陽希さんの日記はこちらでチェックしよう。

 

関連リンク

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
http://www.greattraverse.com/

 

今回のレポートで登った山のまとめ

筑波山 [1月14日]

八溝山 [1月19日]

大滝根山 [1月22日]

高原山(釈迦ヶ岳) [1月30日]

赤城山(黒檜山) [2月3日]

榛名山(掃部ヶ岳) [2月7日]

プロフィール

田中 陽希

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。

https://www.greattraverse.com/

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

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