ダブルウォールで1kgを大きく下回るテント。ニーモの「ホーネットストーム1P」を、梅雨真っ只中の八ヶ岳のテント場で試す!

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今月のPICK UP ニーモ/ホーネットストーム1P

価格:41,000円(税別)/フットプリント別売り
サイズ:79~108cm✕221cm✕98cm
重量:760g(最小重量)

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軽量テントの潮流「ダブルウォール+自立式/1kg未満」を実現

梅雨明けを迎え、本格的に夏山シーズンが始まった。テント泊山行も楽しみやすい季節で、新しいテントを探している方も多いのではないだろうか?

この連載の前回で、僕は八ヶ岳の天狗岳に登り、オスプレーのバックパックを紹介した。今回はその続きにあたる。前回、僕はオーレン小屋にテントを張ってから天狗岳に登ったが、じつはその「張っておいたテント」というのが、今回ここで取り上げるニーモ「ホーネットストーム1P」なのであった。

このホーネットストーム1Pは、インナーテント(テント本体)の上にフライシートをかける「ダブルウォール」タイプで、ポール組み合わせるだけで立体化する「自立式」のテントだ。ペグなどを抜いた最小重量は760g。近年、1kgを切る「ダブルウォール&自立式」テントが続々登場しているが、そのなかでもこれは相当な軽さといってよい。ちなみに、同ブランドには「ダブルウォール&自立式」テントのベストセラーである「タニ」というモデルもあるが、その一人用のタニ1Pは最小重量1,060gだ。その差300gを削減するために、ホーネットストーム1Pにはさまざまな工夫が凝らされている。

では、それぞれのパーツを見ていこう。

こちらはインナーテント(左)とフライシート(右)。インナーの生地は極薄の10デニールで、フロアのみ少し強度を上げるために15デニールと少し厚みが増している。また、出入り口にはメッシュパネルも併用されている。

フライシートの生地も10デニールだが、防水加工がプラスされているのがインナーテントと異なる点だ。

次にポールである。色が黒と黄色に分かれているが、ハブでひとつに連結されており、すべてつなぐとY字型になる。このポールにフックでインナーテントを吊り下げるとテントが自立するわけだ。

先ほど、僕はこのテントを「自立式」と書いたが、実際にはY字型のポールだけでは完全に自立させるのは難しい。ペグを打たねばしっかりとした強度が出せない「半自立式」といったほうが正しいだろう。

ここで注目したいのは、黒いポールだ。あらかじめ曲線を描いた形状で、一般的な真っすぐなポール以上に内部空間を広げる役目を果たす効果を持っている。

付属のペグは6本。テントのフロアの4隅と前室、テントの裏部を固定できるだけの最低限の本数だ。

今回のテスト時はほぼ無風だったために、この本数でも支障なく使えたが、強風時はやはりガイライン(張り綱)やサイドも固定できるだけの本数がなければ安全ではない。だから、買い足すか、他のテントに付属しているものを併せて使うことをお勧めしたいが、はじめから必要本数を入れておいてくれればいいのに、と思わざるを得ない。この点は、少々不親切だ。

それぞれのパーツにはスタッフバッグがついていて、収納時はこのような状態になる。

テスト用のサンプルのために、この写真では左のペグの袋が黒いものになっているが、実際には後日追加で撮影したひとつ前の写真と同じグレーの袋である。

面白いのは、インナーテントとフライシートを入れるスタッフバッグだ。生地を伸ばすと、ほぼ2倍の大きいサイズになるのである。

この大きさならばポールごと入れることもでき、雨天時などに急いでテントを撤収するときにも適当にたたむだけで収納できる。こういう工夫はうれしい。

最後に、別売りのフットプリント(グラウンドシート)も紹介しておきたい。地面に触れて傷みやすいインナーテントのフロアを守るためのものだ。

ホーネットストームのフロアの15デニールの生地はけっして強靭なものとは言えない。穴を空けたくなければ、このフットプリントを下に敷いて使うか、なんらかの他のシートを併用すべきだろう。だが、このフットプリントの重量は150gもあり、かなり重量がプラスされるのは否めない。個人的にはフロアの生地をもともと少し厚めにしておくほうが、フットプリントを加えるよりも結局は軽量になり、設営時の手間も省けると思うのだが……。

 

テントを立てた状態で、内部空間と居住性を確認

さて、これらのパーツを組み合わせると、以下の3点の写真のような姿になる。じつはテスト時は梅雨の悪天候が想定されたため、これらのカットは事前に晴れていたキャンプ場で撮影しておいたものである。オーレン小屋のテント場に泊まったときのものとは異なることをご了承いただきたい。

はじめに、フライシートの出入り口を閉めた姿だ。

詳しいことは後述するが、フライシートの裾(とくに写真の左サイド)が少々短いのが特徴である。

次に、フライシートとインナーテントの出入り口を開けた姿。

ホーネットストームのインナーテントの出入り口はメッシュパネルと布地の二重構造で、ここではメッシュパネルごと巻き上げた状態にしている。

最後に、フライシートを外した姿。ポールとインナーテントの連結の仕方がよくわかる。白い部分が10デニールの生地で、グレーの部分は防水処理をした15デニールの生地だ。

このインナーテントの特徴は、グレーの防水生地がかなり上まで使われていることである。つまり、雨が降っても下から水が浸入しにくいのだ。だからこそ、フライシートの裾が短めにデザインされていても雨に強いということになる。このことはフライシートの生地の面積を削減することにつながり、テント全体の重量を軽くできる。また、フライシートとインナーテントの境目が地面よりもかなり高くなるため、風を取り込みやすく、通気性も大幅に向上しているのだ。

先ほどの写真では開けていたインナーテントの出入り口のパネルを閉めると、以下のような状態になる。

これで風が入りにくくなり、秋や春も寒気を遮って、快適に眠れる。

インナーテントのフロアは完全な長方形ではなく、テントの短辺の一方が広く(108cm)、もう一方が少し狭い(79cm)台形だ。狭いほうは防水性のグレーの生地が低く、広いほうは高い。フライシートで外側を覆ったとき、このグレーの部分の大半は露出するというのが、ホーネットストームのデザインなのである。

上左の写真にはひとつ注目してほしい点がある。それは2本のコードで引っ張られている隅の部分だ。この部分には「コーナーストラット」という棒状のパーツが組み合わされており、テント内の地面に近い壁の部分を垂直気味に起こすことに貢献している。これによって内部に置いた寝袋がテントの壁に触れにくくなり、たとえ結露していても浸水が少なくなるというメリットを生み出している。

ところで、ホーネットストームのポールには、プロペラのような不思議な形をしたパーツが付属している。これは特許出願中という「フライバーボリューマイジングクリップ」なるもので、インナーテントの天井部に位置し、インナーテントの頭上の空間を広げる役割を果たすという。

上の2枚目の写真のようにフライシートをかけると、フライシートも押し上げられることがわかる。

次の写真は、フライバーボリューマイジングクリップの部分をフライシートの下から眺めたもの(1枚目)と、インナーテント内から眺めたもの(2枚目)だ。

これにより、天井部分が「線」ではなく「面」で持ち上げられるようになり、頭部付近のスペースに余裕が生まれるというわけだ。ただ、実際に内部に入ってみると、驚くほど広くなるというほどの印象はなく、ほどほどの効果しか感じない。パーツの大きさのわりには頭上がいくらか広くなる程度なのである。収納時に邪魔になるのも否めず、人によっては、このパーツの分だけさらに軽量になり、コンパクトに収納できるほうが現実的だと考えるかもしれない。

他のディテールも見ておこう。フライシートとインナーテントの連結(下の写真1枚目)は、同社の他のテントと同様にフック状のパーツで行なう。はめるだけなので、簡単だ。

フライシートの出入り口は面ファスナーで固定でき、風が吹いているときでも浸水しにくい(下の写真2枚目)。また、フライシートの生地のグレーの部分は補強されている。とくに末端は地面に触れて傷みやすい部分でもあり、この配慮はありがたい。

オーレン小屋のテント場には木のデッキも備えられ、他の多くの登山者は平らで水も溜まらないデッキの上にテントを張っていた。

しかし僕はテント本来の性能を試すべく、もちろん地面の上にテントを設営した。その様子が、上のカットである。

この後、この連載の前回でお伝えしたように僕はオーレン小屋のテント場を出発。硫黄岳に登った僕は、そこから北上。根石岳へ向かった。

硫黄岳から鞍部へ下っていくとヒュッテ夏沢が眼下に見えてくる。梅雨の時期とはいえ、硫黄岳には多くの登山者が訪れていたが、大半は山頂往復だけのようで、僕のように短いながらも稜線を歩く人は少ないようだった。

根石岳に着くころ、一時的に天気が回復し、青空もお目見えしてくれた。だが、それも束の間で、少しすると元のように重い雲が頭上を覆ってしまった。

これから雨が降るかもしれない。僕は山頂で写真を撮ると、早めにテントへ帰ることにした……。

 

雨が降り出したテント場で、雨への対応力をチェックする

テントを張りっぱなしで出かけると、留守中になにかトラブルがなかったかと、なんだか不安になるものだ。しかし、オーレン小屋のテント場のホーネットストームは無事であり、僕はここからさらにチェックを重ねていった。

上の写真は、テントの出入り口を開いている僕の姿である。このように出入り口のパネルを「巻いて留める」のは、多くのテントに共通するやり方だ。

だが、ホーネットストームならば、下の写真のようなこともできなくもない。ちょうどよいところにポケットがつけられており、巻いて留めなくてもパネルの生地をラフに突っ込んで仮固定できるのである。

このポケットの位置は、このように使うために計算してここに取り付けたものなのか、それともただの偶然なのか? 近年は出入り口のパネルを仮止めできる工夫をプラスしたテントも登場しているので、おそらく計算済みのことなのだろう。いずれにせよ、便利である。

すでにホーネットストームがもつ“内部スペースを広げる工夫”として、「曲線を描く黒いポール」「フライバーボリューマイジングクリップ」「コーナーストラット」と3つも紹介してきた。だが、じつはまだ別の工夫も残っているのだ。

それはフライシートとインナーテントをコードとフックで連結し、フライシートにテンションをかけることによって、インナーテントを強制的に外側へ引っ張るという仕組みである。メーカーでは「ボリューマイジングガイアウト」という名称にしているパーツで、設営時と撤収時は作業にひと手間かかる面もあるが、シンプルでいて効果的な工夫だ。

これまではテントの外部が中心だったが、ここからは内部スペースにも目を向けよう。先に述べたように、ホーネットストーム1Pの短辺の幅は、広いほうが108cm、狭いほうが79cm。こういう形状のとき、一般的には広いほうを頭にして、狭いほうを足先にして使うはずだ。そこで、今回もそのような形でテント内に荷物を配置して使ってみた。

一人用としては十分すぎるほどのサイズ感である。テントの長辺は221cmもあり、理想的な場所に体を横たえれば、頭も足先もテントの壁に触れずに済み、結露で寝袋を濡らす恐れが減少する。天井の高さは98cmで、中央に座れば、大半の人は頭がつかないだろう。

夕方が近づくと、とうとう雨が降ってきた。思いのほか空は明るいが、地面が雨水に濡れて、次第に色濃くなっていく。

近くに張っていた他のテントもフライシートを閉め、本格的な雨に供えようとしていた。

それはまさに夏の夕立といった感じだった。それなりの降雨量があり、テントのテストには好都合である。雨が止んだのはかなり遅い時間だったが、まだ撮影できるだけの光が残っていることもあり、僕はテントの外でもう一度チェックを行なった。

テントの外側に雨水がたまっているのが、下の1枚目の写真を見るとわかるだろう。2枚目の写真のように地面にぶつかった雨水は土の粒子ごとテントに跳ね返って付着していた。その濡れがグレーの防水生地の部分だけで済んでいればよかったが、実際には防水性がない白い生地の部分まで、かなり濡れてしまっていた。今回の雨は短時間だったので、内部への浸水はなかったが、強い降雨が長時間になると、内部がだんだん湿ってきそうで心配だ。ホーネットストームはインナーテントのフロアの防水生地部分を高くとり、その代わりにフライシートの裾を短くして、軽量化と通気性を向上させたテントだが、強雨には少々弱い気もする。もっとも、この問題は他のテントにもよく見られることであり、ホーネットストームならではの弱点というわけではない。

ただし、雨水の跳ね返りの問題は上の写真の1枚目と2枚目の「テントの短辺の広いほう」だけの可能性が高い。3枚目の写真の「テントの短辺の狭いほう」に関しては、同様に雨水の跳ね返りはあったものの、白い生地はほとんど濡れていなかったのだ。これは雨が降ってきた角度によるためなのかもしれないが、それ以上にインナーテントとフライシートの間が狭いからだと思われる。こちら側の風の抜けはそれほどよくないのだろうが、雨水には強そうである。

ところで、テントの雨水への対応力を見ているときに改めて気づいたことがある。フライシートのファスナーが最上部まで延びておらず、途中で止まっているのである。

ファスナー部分からの浸水を減らすためにはこれでいいのだろうが、完全に上まで開いたほうが開放感があり、出入りのときにも邪魔にならない。大きな問題ではないのだが、僕はそのほうが好みである。

次の写真は、雨に濡れたフライシートの様子だ。ある程度は撥水しているものの、水が膜のようになって広がっている。

正直なところ、撥水力はイマイチだ。今回のテストで使ったテントは撮影用のサンプルのため、すでに何度も使われており、それで撥水力が失われていたのかもしれない。ともあれ、テントというものはどんなものであれ、定期的に撥水スプレーを照射してメンテナンスを行なう必要がある。

インナーテントの天井部分にはメッシュ地のポケットがつけられている。

この部分にヘッドランプを入れれば、ランタン代わりにテント内を明るくでき、なかなか便利だ。不用意な場所に置いておくと壊しやすいメガネをキープするのにもよい位置のポケットである。

 

まとめ:最小重量760gの軽さは魅力。毎年新モデルが登場する開発力にも期待したい

本格的に夜が訪れ、下のカットを撮影した僕は深い眠りについた。

夜半には再び雨が降ったようだが、僕は気付かないまま。大半の雨には十分に耐えられ、熟睡を妨げられるようなことはない。

とはいえ、夕立の際には強い雨で跳ね返った水がインナーテントに付着していたことを思い出すと、厳しい天候のときにはどうなのだろうか? テントの名称に「ストーム」という言葉が入っているにもかかわらず、嵐のような状況下ではインナーテントに雨水が触れやすい弱点があるのではないだろうか? それに、「フライバーボリューマイジングクリップ」もそれほど効果的に内部スペースを広げているとは思えない。この工夫はもっとブラッシュアップできそうな気もする。

しかし、最小重量で760gというホーネットストームは、軽量性では文句のつけようがない。テント泊に挑戦したいけれど持ち運ぶ体力に自信がない方、昔からテント泊を愛しているけれど近年体力の衰えた方などは、使ってみる価値は大いにある。フライシートの裾が高く、通気性・換気性が高いのも、夏山中心に使いたい人には好印象だろう。

ニーモほど毎年新しいモデルを発表してくるテントメーカーは世界に類を見ない。これだけの工夫を凝らしながらも、現代的な「超軽量」テントを実現した開発力は、さすがのものなのである。

 

今回登った山
硫黄岳、根石岳
長野県
標高2,760m、2,603m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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