このエントリーをはてなブックマークに追加

高校生たちとの富士登山で感じたこと――、初心を忘れずに山と接していくことの大切さ

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――
たしなみ 2019年09月11日

この夏も、8回目となる「東北の高校生の富士登山」(一般社団法人田部井淳子基金主催)に、引率スタッフの一人として同行させていただきました。登山初心者の高校生たちと接していると、私たちが山の経験を積み、慣れていくなかで、ついつい忘れてしまいがちなものも見えてきます。

この夏、富士山に登頂した104人の高校生たち。六合目にて(写真=一般社団法人田部井淳子基金)


みなさん、今年の夏山シーズンは、いかがお過ごしでしたか。私は例年のように、7月下旬に東北地方の高校生たちと一緒に富士山に登ることで始まりました。

東日本大震災を機に、「日本一の山に登ることで、前に進む元気と勇気を得てもらいたい」との故田部井淳子さんらの提唱で始まった催しで、今回で8回目となります。「1000人まで続けたい」という遺志を継いで、現在はご子息の田部井進也さんらが中心になって進められており、今回で679人の高校生たちが参加してくれたことになります。

★一般社団法人田部井淳子基金(東北の高校生の富士登山)

 

参加している高校生のほとんどが富士登山は初めてです。いや、「山登りも初めて」というのが実情です。しかし、荒天で途中までで下山した年を除けば、全員が山頂まで登りきり、無事に下山しているのです。

「初めてなのに確実に登れるのは、どうしてなのだろうか」。催行会社のガイドさんらの適切な導きや、沢山の引率者たちのサポートや励ましがあるのはもちろんですが、そのノウハウは、日ごろの私たちの登山でも重要なことだと感じています。

このコラムは「山でのリスクの軽減」がテーマですが、今回は高校生たちの登山から、私たちも学べる点を記してみたいと思います。

* * * *

まず、事前の重要な催しとして、現地(参加者の多い福島県の郡山で行われています)での事前説明会があります。お家の方々もたくさん参加され、登山の概要や注意点、装備や食料などについても、しっかり理解してもらいます。装備のレンタルで協力いただいている会社からも専門の方が来られて、一人一人に丁寧なフィッティグを行います。

ここで私たちの一般登山にも通じることは、「事前の計画や準備をしっかり行い、山での行動についても、留守宅の人たちにも、しっかり把握してもらうこと」だと思います。

登山は毎年100人前後の高校生が参加するため、10班ぐらいの班編成になりますが、いつも女子の班から順番に登り始めます。「前のグループを追い抜かないこと」という点も守っていますが、これが「一定のペースでゆっくり歩く」という、山での行動の原則を守ることにもつながっています。

初日は遠方からの疲れもあるので、6合目の山小屋で宿泊します。私たちは休暇の関係や競争心などから、速く登ることに意識がいきがちで、ついつい無理をしてしまいますが、「余裕を持った行程で」という計画が確実な行動に結びついています。

初めての富士山。日本一の頂を目指して、着実な歩みを続ける(写真=一般社団法人田部井淳子基金)


早めに就寝し、翌未明からヘッドランプをつけて行動開始。つづら折りの登山道では、前を進む女子班に向かって、後方の男子班から「がんばれよー」と声がかかったり、逆に励ましの声が戻ってきたりします。いわゆる「パーティシップ」のようなものを感じる瞬間でもあります。

しかし、高度を上げるにつれて、調子が上がらなくなってしまったり、体調不良を訴える高校生たちもでてきます。そんなときは、すぐに医療班(お医者様と看護師さん二人の三人態勢)が駆け付けてくれます。これも、普通の登山では「まさかの際の救急用品や、非常時に対応できる知識を備えているか」という点につながります。

不調の人たちは、よりゆっくり登るラストの班に入ってもらい、仲間の労りをうけながら安心できるペースで歩みを続けます。「疲れた人を決して一人にはせず、その時、一番弱い人に合わせて全体で行動する」という点も重要です。

沢山の周囲のみなさん(応援登山ツアーも組まれています)の声援のもとで、憧れの頂上に立てた瞬間は疲れも吹き飛びますが、長い下りが待っています。

応援登山のみなさんの声援を受けて、山頂の鳥居をくぐる(写真=一般社団法人田部井淳子基金)


午後は雷なども怖いので、下山開始時刻もしっかりと定めてあり、疲れきってしまう前に、休憩時はちゃんと水分や行動食も摂ることも促されます。

その日は再度、六合目の山小屋に宿泊して、苦労して登った頂を眺めながらの、のんびりした一時を過ごします。そうして翌朝は、山麓の浅間大社にお参りし、富士山の歴史や文化的側面にも触れた後に帰途に着くのです。

下山後の閉会式の挨拶を、田部井進也さんは、毎夏、こんな言葉でしめくくります。「登頂おめでとう。みんなよくやったと思う。でも、みんなのために支援してくれたり、こんなに真剣になって一緒に登ってくれる人たちがいることを忘れないで・・・」。

長いこと登山を続けていると、ついつい油断や慢心が出てしまいますが、初めてなのに一所懸命登る高校生たちを見て、「自分にもこんな時があった。初心を忘れずに、山と接していきたい」と思うのです。

セルフレスキュー 登山計画
教えてくれた人

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラムに在籍、日本山岳救助機構研究員、AUTHENTIC JAPAN (ココヘリ)アドバイザー、山の日アンバサダーなども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

同じテーマの記事
遭難事故防止の講演会で気付いた、人から人へと直接伝わる言葉の力と、感動に伴う記憶の深さ
羽根田治さんによる講演を聞く機会がありました。本講演を通して「人から人へと直接伝わる言葉」の力や画像や映像を見ての感動を伴った記憶は、深く心に残り続けることを感じたのでした。
錦繍の大雪山・高原沼巡りコース。紅葉に包まれて想った「自分ごと」としての捉え方
北海道・大雪山の「大雪山高原沼巡りコース」で、紅葉の最盛期に実施されるマイカー規制期間中にお手伝いをさせてもらう機会を得た。そこで行なわれていた充実した管理体制や登山道整備の様子に着目した。
事故を忘れてはいけない――。北海道での安全登山シンポジウムで感じたこと
北海道山岳遭難防止対策協議会、北海道山岳連盟主催の「第11回安全登山シンポジウム」に参加する機会から、会合の中で感じたこと、その道中で眺める景色から思ったことを振り返りながら、山で事故に遭うリスクの軽減について考えてみた。
私たちにできることは何か――。ドローンによる山岳遭難捜索デモで感じたこと
「どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか」――、房総半島(千葉県)で行われたドローンによる捜索デモから感じた思い、最新の機器と人の言葉の温もりの融合について考える。
記事一覧 ≫
最新の記事
記事一覧 ≫
こんにちは、ゲストさん
◆東京の天気予報[山域を変更]
明日

明後日

晴時々曇
(日本気象協会提供:2020年2月19日 17時00分発表)
[ログイン]
ユーザ登録・ログインすることで、山頂天気予報を見たり、登山履歴を登録・整理・分析して、確認できます。
NEW グレゴリー「ズール/ジェイド」のレポート公開中
グレゴリー「ズール/ジェイド」のレポート公開中 5人目のモニター「そめや」さんは鈴鹿山脈の竜ヶ岳へ。冬の日帰り登山でジェイド38が快適だった理由とは?
NEW 神戸の背後に広がる山々。六甲山へ行こう
神戸の背後に広がる山々。六甲山へ行こう 気軽なハイキングを楽しむのもよし、本格派な登山やクライミングを楽しむのもよし。六甲山ならではの魅力を味わおう。
NEW カリマー最新3アイテム モニターレポート4人目
カリマー最新3アイテム モニターレポート4人目 最上級モデルのモニター4人目は九州在住の野崎さん。ヤブ岩バリエーションルートでの使用感は?
NEW 紅葉写真コンテスト2019結果発表!
紅葉写真コンテスト2019結果発表! 紅葉写真コンテストに沢山のご応募をありがとうございました。216の応募写真から受賞作品が決定!!
NEW 長野県佐久地域で夢のアウトドアライフ
長野県佐久地域で夢のアウトドアライフ 晴天率が高く、便利で暮らしやすいという佐久地域。移住を実現した方々や地域の魅力を紹介。移住セミナーも開催します!
NEW ギミック満載の防寒帽/山MONO語り
ギミック満載の防寒帽/山MONO語り 山岳ライター高橋庄太郎さんの連載、今月はアウトドアリサーチの冬仕様の帽子を滝子山でチェック!
NEW 雪の浅間山と輝く樹氷を見に行こう!
雪の浅間山と輝く樹氷を見に行こう! 浅間山の絶景が待つ黒斑山スノーシューと、歴史を感じる街歩き。冬の小諸市の魅力を堪能する山旅の提案です。
NEW スノーシューの楽しみ方、冬の山の遊び方
スノーシューの楽しみ方、冬の山の遊び方 本格的な雪山登山は不安で二の足を踏んでいる…そんな人はスノーシューハイキングに行ってみましょう!
NEW 750mlサイズ新登場!サーモスの山専用ボトル
750mlサイズ新登場!サーモスの山専用ボトル 「もうちょっと」の声に応えた「ちょうどいい容量」の山専ボトル。「萩原編集長」の活用術もご紹介!
梅の香りの漂う早春の山への誘い
梅の香りの漂う早春の山への誘い 寒空にほんのりと漂う梅の花の香りは、五感で春を感じさせてくれる。今こそ梅の香りの漂う山へ――
冬でも歩けるアルプス! 全国のアルプスファンへ
冬でも歩けるアルプス! 全国のアルプスファンへ 日本全国にはその数は50以上あるともいわれる「ご当地アルプス」。本場を彷彿とさせる!?
冬だ! 富士山の見える山へ行こう!
冬だ! 富士山の見える山へ行こう! 日本一の山・富士山は、空気の澄んだ冬はとくに美しい。西は和歌山から北は福島まで――、富士山の見える山を目指してみては?