ある報告書が教えてくれた「登山道」の大切さ。~これでいいのか登山道 ―よりよい「山の道」をめざして―

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日本における遭難事故の原因として、「道迷い」によるものが多いことはご存知だと思います。この6月に警察庁から発表された統計(令和2年における山岳遭難の概況)を見ても、道迷いによる遭難者が1186人と最も多く、その割合は44.0%にも及んでいます。道迷いを減らすためには、登山者の読図能力向上なども必要ですが、登山道そのものの在り方も、考えてみることが必要なのではないでしょうか。

 

道迷いが原因となって遭難してしまう人が多いという現状のなか、それを減らすためにはどうすればいいのかという様々な提言や試みが行われてきました。登山者の読図能力やナビゲーションスキルの向上のための講習機会なども重要な観点です。さらに、人から知識や技術を教わることもないままに、お一人で登山を学んで山に入られる人も多いという実情のなか、私は「迷うことが少ない」という登山道そのものの在り方にも関心を持って来ました。

迷い込み防止を呼びかけた表示例(奥多摩雲取山付近)


私自身、職業人としての大半の時間を過ごさせてもらった山と溪谷社を退職後は、実際の登山現場で少しでも貢献できたらと、東京都山岳連盟の救助隊員の一員として活動させていただくなどもしていますが、そうした行動を通じても登山道の課題を実感します。

「もしかしたら誤って迷い込んでしまうかも知れない」といったことを意識しつつ辿ってみると、つい、うっかり違う道に踏み入ってしまったり、登山道とは異なる作業道や巡視路のほうが明瞭に見えてしまったりといったケースが多いことにも気づきます。

自身を省みても、沢歩きが好きで藪漕ぎや道のない山々の頂を目指す登山に長く憧れて来た経験から、ちょっとした踏み跡でも明瞭だと錯覚してしまい、登山道を歩いていても、植物の繁茂や倒木などで道が分かりにくくなってしまった箇所で本来辿るべき道からはずれ、けもの道などに踏み込んでしまい、しばらくしてから「あれっ、おかしい」と気づいて引き返すこともしばしばありました。

前職では、いわゆる「編集者冥利につきる」といった感慨を幾度か味わうこともできました。増え続ける遭難事故をなんとかできないかと『山で死んではいけない』という雑誌を創刊し、多くの反響をもらったとき、登山に関わる様々な話題や情報を整理した『登山白書』の刊行も意義深い試みとして評価をいただきました。

退職後、編集という道からは離れていましたが、この夏、とてもありがたい経験をすることができました。「登山道」に関する報告書の刊行を手伝わせてもらったのです。

『これでいいのか登山道 ―よりよい「山の道」をめざして―』と題したA4サイズ、カラー154ページのその報告書は、登山道のあり方や維持管理方法について調査・研究を続けている登山道法研究会の皆さんによって分担執筆されたもので、登山道の現状と課題を、現地調査やレポート、写真・スケッチで明らかにしたうえで、今後の登山道のあるべき方策についての検討を加えたものです。

管理責任が明確になっていない点や、事故が起きた際の問題点、世界各地での取り組みなどにも触れており、内容も多岐にわたっています。

調査研究(左)や事例調査(右)など内容も多岐に渡る


実費と送料で入手することも可能となっていますので、ご希望の方は「これでいいのか登山道 入手希望」として、住所、氏名、電話番号を記載のうえ、葉書または封書にてお申し込みください。宛先は〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次。頒布価格は実費1000円+送料370円。振込先などは報告書送付時にお知らせ致します。

★関連リンク:登山道の管理維持は誰の責任なのか? 登山道法の制定を目指して「これでいいのか登山道」を発刊

 

プロフィール

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラム終了。日本山岳救助機構研究主幹、AUTHENTIC JAPAN(ココヘリ)アドバイザー、全国山の日協議会理事なども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――

山岳遭難事故の発生件数は減る様子を見せない。「どうしたら事故に遭うリスクを軽減できるか」、さまざまな角度から安全登山を見てきた久保田賢次氏は、自身の反省、山で出会った危なげな人やエピソード、登山界の世相やトピックを題材に、遭難防止について呼びかける。

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