「今年こそ雪山へ!」の前に、危機を回避するための「防御力」を身につけよう

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夏山にはない魅力を味わえる冬山登山だが、その厳しさは夏山とは比べ物にならない。危機を回避するには、登山者自身に「防御力」が必要という。雪山登山における「防御力」とは、どんなものだろうか?


そろそろ、各地から初雪の便りが届くこの時期、今年こそ、雪山を始めたい! と思っている方も多いと思います。白銀の山々が織りなす素晴らしい景色。雪と戯れる楽しさ。シュプールを描いて真っ白な斜面を滑り降りる快感――。夏山では絶対に味わえない楽しみがそこにはあります。

一方で、無防備に足を踏み入れれば雪山は恐ろしい世界。雪山には無雪期には無い厳しさ、難しさの要素がたくさんあります。その要素を列挙すると・・・

①厳しい気象条件
 → 低温、強風、降雪、視界の悪さなど。

②雪上歩行
 → 雪や氷の上は歩きにくい。積雪期特有の道具を使いこなす必要がある。

③雪崩の危険
 → 雪崩や雪庇崩壊などが起こり得る。

④人為的補助が少ない
 → 山小屋等施設が閉まっている。道標が埋まっている。登山道が見えない。

などなど・・・。それぞれの危険に対して登山者自身に「防御力」が無いと、雪山は安全に楽しめません。考えられる「防御力」のいくつかを、以下に挙げてみたいと思います。

 

①「厳しい気象条件」には・・・

  • 気象の知識を身に付け、入山期間の気象変化を予測し、それに基づいて安全な判断が出来る

  • ウェアや靴、ゴーグルなど、雪山の状況に合わせた適切な装備を身につける

②「雪上歩行」には・・・

  • 雪上での歩き方を身に着け、アイゼン、ワカン、ピッケルなどの道具を使いこなせるようになる

  • 深雪でのラッセルができるなど、体力があることが重要

③「雪崩の危険」には・・・

  • 雪崩に対する基本的な知識、雪崩を避けるための知識を身につける

  • 雪崩に遭った際の基本的な対処法を身につけて訓練を行う

④ 「人為的補助が少ない」

  • 安全なルートを見出す「ルートファインディング力(りょく)」が必要

  • 雪洞泊など積雪期の危急時の技術を身につける

  • その山域の地形的な要素を頭に入れて行動できる(雪崩対策としても重要。無雪期に「下見」に行くことも大事)


上記のような危険への「防御力」は、どのように身につけるのでしょうか。一つは、雪山登山の経験が豊かな仲間と一緒に行って教えてもらうことです。一緒に行けば山行回数も重ねられるうえに、実経験に基づいたアドバイスもためになるでしょう。

また、技術や知識を教えてくれるガイドや案内人と一緒に行くこともおすすめです。習熟度を見ながら少しずつレベルアップをしてくれるガイドさんなら、なお楽しめると思います。

その他、ガイドや登山用品店、団体などが主催する講習会に参加するのも手です。様々な目的やレベル別に講習会が開催されていますので、きっとご自身に合ったものが見つかると思います。長野県山岳総合センターでも、雪山登山の講習を各種開催していますので、興味のある方はぜひ山岳総合センターのホームページをご覧ください。

当然ですが、知識も技術も、一回行けば身に着くものではありません。また寒い中、重い荷物を背負って歩ける強い体力があることも大前提です。ある程度の基礎的な技術・知識が身に着いたら、自分で計画して山行回数を重ねることで、「本当の登山力」が身に着いてくることでしょう。体力を保つため、日々のトレーニングもお忘れなく!


そして最後に――、山は時として厳しい姿を見せますが、特に厳冬期の、荒れ狂う山の厳しさは、到底人間の力では太刀打ちできるものではありません。条件によっては、「登山を中止すること、撤退すること」も、重要な「防御力」であることを忘れず、雪山を安全に楽しみましょう!

次回からは、上に挙げた「防御力」一つ一つの項目について考えてみたいと思います。

 

プロフィール

長野県山岳総合センター

長野県大町市にある長野県立の施設。「安全で楽しい登山」の普及啓発を主目的に、「安全登山講座」と動植物・地形地質をはじめ山の自然を総合的に学べる「野外活動講座」を、年間約60講習開催。講習参加者のうち、長野県外の方が約6割を占める。

⇒長野県山岳総合センター
⇒Youtube

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