25年ぶりに登山を再開! 何が変わった? 何に気をつけたらよい?

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アラフィフの40代さんからの質問!

質問:25年ぶりに登山に復帰しました。学生時代はワンゲル部にいて、北アルプス全山縦走とか、結構、本格的にやっていましたが、結婚したり、転勤したりで、登山から離れていました。子育ても一段落、学生時代の友達との再会を機に、この夏、友と登山に復帰し、丹沢・塔ノ岳往復で大汗をかいてきました。これから少しずつ活動を増やしたいと思っていますが、復帰組にありがちな注意点など、アドバイスをお願いします!

 

体型が変わり、体力が落ちた・・・。まずは、それを自覚すること

25年ぶりに登山に復帰して、この夏に「大汗をかいて」とはいえ、日帰りで塔ノ岳を往復してきた・・・というのは立派だと思います。おそらく登山から離れてはいても、身体を動かし、トレーニングはされてきたのだと思われます。夏の塔ノ岳は、標高差で優に1000mを越える山ですので、意外に大変です。もし山から離れて、仕事、子育てのみに専念して、食事にも気を付けていなければ、体型も変わり、筋肉も落ち、途中でギブアップは間違いなかったことでしょう。

しかし、一方で北アルプス全山縦走を果たした頃と、きっと、今の身体、精神力は、どうしても変わってしまったと思います。人間の身体は、特段の努力をしなければ、年齢をかさねるにつれて、自然に筋力、呼吸力などが低下していきます。

一見、以前と同じように、コースタイムもあまり変わりなく登山できたとしても、身体が受けるダメージ、回復力などは確実に落ちています。また、瞬発力、とっさの時に身を守る動きなども残念ながら低下しているはずです。

大切なのは、まず、それを自覚すること。

信頼できる「山の友人」は大切に。長期的なプランを立てアルプス縦走にも復帰を

 

登山に復帰するに当たって、一気に登山の厳しさを上げるのは危険です。例えば、日帰りの身近な山から、日帰りの長時間の行動が必要で、標高差の大きな山へとステップアップしてみて、さらに、小屋泊からテント泊、無雪期から残雪期の雪山、さらに厳冬期の雪山と、自分の力を過信せず、ステップアップしながらいろいろと挑戦してみてください。

自分の力を振り返り、何が不足しているのかを、自分で確かめる必要があるでしょう。一方で、年齢を重ねたことによる判断力の向上、慎重さなど、若い頃とは違って良い点もあると思います。

 

山は変わらないが、25年で変わったことは…

次に、25年前の登山の世界と現在の登山の世界を比べて、何が変わったのでしょうか? 大きな違いは、「ハイキング以上の登山」をする登山者の数が減ったことでしょう。25年前は、晴れた週末には山小屋は混雑し、布団一枚に2人なんて当たり前、著名な山ではご来光を見る人で山頂が埋め尽くされた時代です。しかし、今では、連休や特定の時期(紅葉時期の涸沢など)でもないかぎり、そんなことはありません。

雪山では、山小屋が営業する山ではたくさんの「雪山登山者」の姿を見ますが、それ以外の山域でテント泊の雪山登山をする者は、ほとんどいなくなりました。

もうひとつの大きな変化は、登山者同士の関係がギスギスし、山がひどく窮屈で暮らしにくい場所になったことです。「丹沢でテント泊を楽しんだ」とのことですが、昔も現在も丹沢の稜線にはテント指定地がなく「テント泊を楽しむ」なんてことはご法度だったのですが、昔は、周囲の環境に気を付けて痕跡を残さずテント泊をする者もいました。今、そんなことをしたら大変です。時には、写真付きでネットでさらされ、袋叩きにあいます。 かつて、沢での宿泊には焚火は不可欠で、濡れ物を乾かし、暖をとり、炊事をし・・・は、みんながやっていたことです。今は、登山者の側で「忖度」し、自粛する有様です。25年前に比べて、法律は全く変わっていないのに、山のマナーは、大きく変わったと感じます。

グループで来ても、一人一テントが現代のスタイル

 

変わったことと言えば、山仲間で一緒に登る登山が大きく変貌したことです。かつてなら4人パーティーなら、共同で4~5人用テントを分担して持ち、一緒に泊まり、みんなで食事を作り、賑やかに生活するのが「登山パーティー」でした。今は、4人でもテントは一人1張が当たり前で、それぞれが炊事をする「個食」が普通になりました。 かつてのワンゲル部員で、仲良くワイワイ食事をしていた方にしてみれば「なんじゃ、そりゃ」かもしれませんが、時代が変わったのです。

嬉しいことは、装備、用具が大きく進化したことです。最も進化したのは防水透湿性のカッパと、暖かく、汗冷えしない下着、軽量で使い易いガスコンロです。そして携帯電話と電子機器の登場があります。電話ができるだけでなく、スマートフォンになって、あらゆる情報が得られ、GPSで現在地や行動ログがわかります。

もちろん、ザックも靴も、テントも進化しています。気を付けなければならないのは、軽量化は良いことなのですが、「軽くする」と言うことは、必ず「何かを削る」ことであり、軽量化した装備は必ず、弱点を持っているということ。軽量化は、使う側の経験や技量があればよいのですが、経験も技量もない登山初心者が意識せずに使ってしまうと、軽量化が持っている弱点を補えないことが多いのです。何だか現在の登山を象徴しているようにも思えます。

25年ぶりの登山復帰――。 若き日のように、虹や雲海を見て、みんなで大歓声を上げるような感動の仕方と違い、美しいもの、激しいものと出会ったとき、一人密かにほほ笑むような感動の仕方に変わっているかもしれません。とはいえ、登山を再開されたことは、素晴らしいことです。ぜひ焦らず、ステップアップしながら、山を楽しんでください。どこかの山でお会いできるのを楽しみにしています。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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