温度調整がしやすく、快適! シートゥサミットの意欲的な寝袋「アセントACⅠ」を、平標山のテント泊山行で試す

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今月のPICK UP シートゥサミット/アセントACⅠ

価格:38,000円(税別)
サイズ:レギュラー(最大183cm)
カラー:1色
重量:860g
適応温度:コンフォート温度 ~+2℃、リミット温度 ~-4℃

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前回の記事では、スカルパのZGトレックGTXを紹介した。1泊2日のテント泊でのテストだったが、今回ピックアップするのは、そのときに使っていたスリーピングバッグ。シートゥサミットの「アセントACⅠ」である。

スリーピングバッグ(寝袋、シュラフ)というものは、性能の良し悪しが明確にはわかりにくい道具だ。基本的にはダウンや化繊の中綿を使った保温力の高い寝具ではあるが、その日の気温、体調、就寝時に着るウェアによって体感温度は大きく異なり、使用したスリーピングバッグのおかげでどれほど体温を保てたのか判断しがたいのである。

見落としがちな視点もある。それは、自分の体に合ったサイズであるかどうかだ。同じダウンを使った製品であるダウンジャケットを考えればわかる。サイズが大きければ体とウェアに隙間ができ、デッドエアのために温かさを感じにくい。反対に小さければダウンのボリュームがつぶれて暖気をため込めず、温かくならない。スリーピングバッグもウェアも、もっとも温かいのは体にちょうど合うサイズだが、スリーピングバッグはサイズ展開があっても、「レギュラー」に加えて「ロング」と「レディス」程度。ジャストサイズを使っている人と、そうではない人を比べれば、同じモデルでも体感温度は大きく変わりうるのである。

前置きが長くなったが、そういう視点も踏まえながら、アセントACⅠを見ていきたい。

 

就寝前に。「アセントACⅠ」の細部の仕様をチェック!

さて前回に書いたように、平標山登山口を出発した僕は、終わりかけの紅葉を眺めながら平標山ノ家へ向かった。当初は青空だったが、稜線に向かうにしたがって、曇り空になっていった。

それでも天気が悪化する前に、稜線へ出て、この山小屋のテント場に到着。夜から雨が降りそうだったが、それほど気温は下がらないという予報であった。

アセントACⅠは付属のコンプレッションバッグに収納し、バックパックに入れてきた。このスリーピングバッグの縦の長さは212cmで、身長は183cmまでに対応。いちばん幅が広い部分(肩付近)は77.5cmとなる。そして「750+」フィルパワーの高質ダウンを330g収め、総重量は860gだ。日本メーカーのスリーピングバッグよりも少し幅が広いのは、大柄な人が多い西欧人の体に合わせつつ、余裕を持たせたサイズにしているからである。ちなみに、シートゥサミットはオーストラリアのメーカーだ。また、使用されているダウンの量に比べて、総重量が重い。詳しくは後述するが、これはファスナーなどのパーツのためである。

ダウンが封入されたチューブ(バッフル)は、上半身が縦方向で、下半身が横方向。これはダウンの偏りを防ぐためのデザインだ。また、チューブの向きが縦の上半身は温まった空気が上下に移動しやすく、スリーピングバッグを均一に温めることにも貢献している。

このようなスペックのスリーピングバッグで、収納サイズは実測で直径23×長さ20cmほど。このモデルの保温力を考えれば、少し大きいかもしれないが、ほどほどのサイズ感ではないだろうか?

その保温力について、少し説明しておきたい。アセントACⅠの「コンフォート(快適に眠れる)」温度は ~2℃。「ローワーリミット(なんとか眠れる)」温度は ~-4℃である。平地ならば冬でも使え、低山なら春から秋。北アルプスのような高山では夏も使えるが、少し暑すぎる可能性もあるという使用温度だ。だが、それは数字上の話でしかない。じつはアセントACⅠの売りは、カタログ的なスペックだけでは説明できない、それ以上の使用温度への対応力なのである。そのあたりも併せて詳しく後述したい。

ちなみに、「アセントAC」はシリーズ化されたスリーピングバッグで、「Ⅰ」のほかに、より保温力が高い「Ⅱ」も用意されている。総重量は1100gで、コンフォート温度は ~-4℃。より寒冷な山で使えるようになっている。

では、細かい部分を見ていこう。アセントACⅠがダウン量やコンフォート温度に比べて総重量が少し重い理由のひとつは、使用されているファスナーが長く、しかも体の左右に付けられているためだ。

体の右側のファスナーは、67cm。体を入れると、お尻くらいまでの長さになる。

ファスナーは引き手が2つ付けられたWタイプで、肩のあたりは閉めたまま腰元だけを開くこともできる。

それに対して、体の左側のファスナーはさらに長く、164cm。足首まで開くようになっており、こちらもWファスナーだ。

つまり、このファスナーにより、左側は、ほぼフルオープンする。

しかし、それだけではない。その左側のファスナーの末端の位置からは、また別のファスナーが爪先に向かって延びている。そちらのファスナーもWタイプで長さは60cm。これら2つのファスナーは連動して使用でき、サイドばかりか足先全体が開くのである。

だから、アセントACⅠを完全に開けば、その形状は一枚の大きな掛布団に。温暖な時期はスリーピングバッグに入って就寝せず、そのまま上にかけて眠ることができ、窮屈な思いをしないばかりか、温度調整もしやすい。

下の写真の1枚目はファスナーをすべて閉めた状態で、2枚目は両サイドを腰元まで同じくらいの長さで開いた状態である。

2枚目の写真のような状態にすると、下半身だけを保温しつつ、上半身は開け放して熱気を逃がせる。アセントACⅠは、このようなおもしろい使い方ができるのだ。

次の写真は、実際に体を入れたときの様子である。1枚目の写真は上の2枚目の写真に対応しており、上半身だけを開け放った状態で、体を起こしている。テント内で座って寛ぐときは、このような状態にできると上半身は楽に動かすことができ、とても有用だ。

また、ファスナーがどれもWタイプというメリットを生かせば、肩の部分を留めたまま、サイドから両手を出すこともできる。しかもフードをかぶったままでもOKだ。寒い時期に本を読んだり、スマートフォンを操作したりするときに寒い思いをしなくて済み、非常に便利である。

こららのファスナーは、スリーピングバッグの外側からでも内側からでも開け閉めできるように、引き手が2重になっている。

外側からはともかく、内側からは慣れないとスムーズに開け閉めできるとはいいがたいが、わざわざ外に手を出さなくてもよいわけで、とくに寒い時期は助かる。

足元のファスナーを大きく開くことにより、アセントACⅠは以下のような使い方もできる。両サイドを閉じたまま、足元だけを開け放ち、無用な熱気を逃がせるのだ。暑い時期にはうれしい機能である。

左サイドのファスナーの下部も開くと、体を入れたまま歩くことさえできるだろう。テント内ではそういうシチュエーションは少ないだろうが、避難小屋などでは意外と有用かもしれない。

 

顔・首の周りにも、細かい工夫がいくつも!

頭部のフード部分は、一般的なスリーピングバッグに比べて、横に長い。そのために、ドローコードをしっかりと引き絞らないと肩口から内部の暖気が逃げやすいようだ。だが、この形状のおかげで顔回りには余裕があり、横を向いてもリラックスして眠れる。

また、幅が広いと枕を内部に入れやすいというメリットも生まれる。一般的にはマットの上に枕を置き、その上にスリーピングバッグごと頭を乗せて就寝している人が多いが、このような形状ならば内側に枕を入れてしまってもよく、頭からずれ落ちなくてよい。

このフードを引き絞るドローコードは少し太めで柔らかい。就寝中に顔に触れても不快な感じがせず、細かいところながら感心する。

また、ファスナーの末端部分には黒いフラップがつけられ、スナップボタンで留められる。これにより、サイドを完全に開け放ってもスリーピングバッグ上部は連結されたままで、体からずれにくい。

スリーピングバッグ内部の左側には、小さなポケットも付けられている。ただ、あまり大きくはないので、ヘッドランプやナイフのようなものはいいが、スマートフォンはサイズによっては入れられない。

この部分はもう少し大きくてもよかったのではないだろうか。スマートフォンをアラーム代わりに使うために体のそばに置いておきたい人や、バッテリーの消費を抑えるために保温しておきたい人には、少々不便なのである。

夜が訪れ、ランタンをつける。スリーピングバッグの本当のテストは、これからの時間だ。

下り坂の天気の中で雨が降り始めることを覚悟しつつ、僕は少しの間だけ本を読んでから眠ることにした。

眠っているときの写真は撮りようがないので、就寝前にイメージカットを撮影しておく。

この後、僕は朝まですっかりと眠ってしまったのだった……。

アセントACⅠの全体的な感想は最後にまわし、翌日の僕の行動を簡単にお伝えしよう。

前回も書いたことだが、就寝中に降り始めた雨はときおり勢いを増し、出発時は小康状態。僕はそのまま平標山と仙ノ倉山に登り、松手山コースから下山した。

10月後半の平標山の紅葉はおおむね終わり、少し寂しい雰囲気。

その後、一カ月ほどが経ったが、現在の平標山は雪をまといつつあるようだ。すでにアセントACⅡでも寒くて眠れないかもしれない。

 

まとめ:優先事項は軽さではない? 「アセントACⅠ」は快適性や汎用性に優れたスリーピングバッグだ

さて、アセントACⅠについて改めて述べていこう。

このときの夜の気温(就寝時)は、約7℃。意外と温かく、薄いインサレーションを着ただけでアセントACⅠに入ったが、朝まで寒さを感じずに眠れた。コンフォート温度帯よりも気温が高いので当たり前といえば当たり前である。また、夜中には雨が降ったが、テントが新品ということもあって浸水はなく、スリーピングバッグはドライなままだった。アセントACⅠには雨濡れに強いウルトラドライダウンが使われているのだが、その実力はよくわからなかったのというのが本当のところだ。テストのためにはもう少しハードなシチュエーションでもよかったのだが……。そこで以下は、後日、気温が高い家の中、雨ではないが結露がひどいテント内、そして気温0℃近い山中でも使ってみたうえでの感想である。

まずは保温力。非常にボリュームがあるスリーピングバッグだけに、温かさは充分だ。ただし、肩口から熱が逃げやすいので、寒い時期に使う場合は、きちんとドローコードを絞る必要がある。また、内部のスペースは一般的な体型の日本人には余裕がありすぎる気がする。そのために体の周囲にデッドスペースが生まれやすく、小柄な人はあまり温かく感じないかもしれない。それを避けるためには、就寝前にふっくらとしたダウンジャケットを着てデッドスペースを埋めるとよさそうである。場合によっては、ダウンパンツも併用すると温かさがますだろう。

反対に温かい場所では、アセントACⅠをこのまま使うと保温力が高すぎ、汗ばんで不快になるほどだ。その場合は、サイドや足元のファスナーを広げると一気に涼しくなり、快適度が上がる。とくにサイドを開けると効果は高い。気温によっては涼しいのを通り越し、肌寒くなるだろう。その点、足元を広げるだけでは内部温度はそこまで下がらない。自分の好みと状況に応じ、ファスナーを広げる場所を選ぶとよさそうである。それ以上に温かいときは、左サイドと足元のファスナーをフルオープンして掛布団に。僕はこの状態にして眠るのがとても好きで、山中でも自宅のように気持ちよく体を休ませられることをお伝えしておきたい。

結露したテント内で使用したときは、足先と頭に水滴がかなりついた。正直なところ、表面生地の撥水力はそれほど高いものではなく、しっとりと湿ってしまった。それに加え、表面に露出しているファスナー部分も濡れていたが、だからといって保温力を損なうほどではないようだった。とはいえ、極度に濡れていたら、どうだったかはわからない。この点は、もう少しテストしたい点だ。

それにしても、3本のファスナーを使うことで気温への対応力が高まり、1年中使えるのはすばらしい。厳冬期を除けば、このスリーピングバッグと防寒着を組み合わせて就寝すれば、ほとんどの山行に対応できそうである。

しかし、こんな対応温度の広さは、普通のスリーピングバッグの倍以上になるファスナーの長さやWファスナーという重さを増すディテール、そしてさらに横幅に余裕があるシルエットとの引き換えに得られたメリットだ。人によっては、コンフォート温度帯が「~2℃」で、重量860gでは引き合わないと思うかもしれない。ちなみに、同社にはアセントACⅠと同じくコンフォート温度が ~2℃のスリーピングバッグに「フレームFmII」というモデルがある。軽量化に徹したこちらは、総重量505gで、価格も高くはなる。軽量モデルを求める人は、アセントACⅠよりも魅力的なはずだ。だが……。重量よりも就寝時の快適性や年間を通して活躍する汎用性の高さを求める人には、これほどよいスリーピングバッグはないかもしれない。

 

今回登った山
平標山
新潟県 群馬県
標高1,984m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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