キリマンジャロでは1年中、昼と夜の長さが同じ!? キリマンジャロ登山の「トリビア」

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山の気象を知るには、地球規模・・・、いや宇宙規模のスケールで気象を考えることも必要だ。今回は、赤道・キリマンジャロを通して、地球規模の「へぇ~」について考えてみよう。

 

ヤマケイオンライン読者の皆様、新年あけましておめでとうございます。山岳防災気象予報士の大矢です。本年もよろしくお願いいたします。

今回の年末年始にキリマンジャロ登山に行かれた方もいらっしゃると思いますが、無事に登頂できましたでしょうか。不運にして今回登れなくても、登りたいという気持ちを持ち続ければいつかまたチャンスが訪れると思います。

キリマンジャロの連載4回目は、キリマンジャロとその位置する赤道付近にまつわる“トリビア”についてお話しいたします。意外と皆さんもご存じないことではないかと思っています。

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キリマンジャロの標高5500m付近から見る日の出(2008年1月2日 大矢撮影)

 

キリマンジャロがある赤道付近は一年中、昼と夜の長さが同じ

日本では一年で昼の長さが最も長いのは「夏至」、最も短いのは「冬至」です。そして、「春分」と「秋分」では昼と夜の長さが同じになるのは皆さんもご存じと思います。

しかし赤道直下では、この日本での常識は通用しません。赤道直下では何と、一年を通して昼と夜の長さが同じ12時間なのです。従って、日の出が6時だとすると、日の入りも18時となり、これが毎日続くのです。ただし、地方時間で日の出時刻は微妙にずれるため、例えばケニアの首都ナイロビでは日の出は6時半少し前、日の入りは18時半少し前になります。何だか不思議な気分になりますが、その理由は以下の通りです。

地球は太陽の周りを回っていて(公転)、その公転軸から23.5度傾いた角度で地球は自転しています。この自転軸の傾きがなければ、世界中のどこでも昼と夜の長さが同じ12時間になります。

冬至の頃の太陽と地球の位置関係(大矢まとめ)


上図は冬至の頃の太陽と地球の関係ですが、自転軸が傾いているため、北極は一日中日が昇らない極夜、南極は一日中日が沈まない白夜となります。そして、昼と夜の境界面と赤道面は同じ大円同士ですので、お互いに半分ずつのところで交わります。したがって赤道直下では昼と夜の長さが同じになるのです。

春分や秋分の日のように、この図に対して、手前方向や奥行き方向から太陽の光を受けても同じことです。

 

赤道直下では、春分と秋分の日には太陽は真上に来る

日本では太陽は東の空から昇って、昼間は南の空の高い位置にあって、西の空に沈みます。ところが、南半球に行くと、太陽が昇る方向(東)と沈む方向(西)は同じですが、昼間には太陽は北の空にあります。

そして、何と上弦の月と下弦の月が左右反対に見えます。宇宙から見ると同じ方向なのですが、人間が重力に縛り付けられて、宇宙から見ると赤道付近を境にして南半球では人間が逆立ちしているように見えるためです。早い話が、日本でも逆立ちして見ると、月は左右反対になりますよね。

そして、赤道直下では、図に示したように春分と秋分の日には太陽は真上を通り、夏至には北の空、冬至には南の空に来ます。つまり、太陽が一番高く昇る方向を向くと、夏至には太陽は左から右に動き、冬至には右から左に動くように見えます。昇る方向は同じ東の空、沈む方向も同じ西の空なのに、見かけ上は動く方向が左右逆になるには面白いですよね。月の左右反転も同じことです。

キリマンジャロ周辺での太陽の軌道(大矢まとめ)


なお、北極や南極では、この図に対して東西方向を軸にして90度傾けた方向に太陽は動きます。北極の白夜の時には太陽は天頂を軸に時計回りに太陽が動いているように見え、南極の白夜の時には天頂を軸にして反時計回りに太陽が動いているように見えます。これも人間が重力で地表面に縛られているためです。

キリマンジャロの太陽、月、星の動きを考えていくと、このように宇宙規模のスケールの壮大な現象であることに改めて気付かされることと思います。

 

キリマンジャロ頂上では麓より少しだけ日の出が早く、日の入りも遅い

さらに、もう一つスケールが大きな話があります。それは、地球は丸いためキリマンジャロの頂上では麓より少しだけ日の出が早いということです。地平線や水平線が無限のかなたまで続いているとしたら、どこまで高く登っても日の出の時刻は早くなりません。では、キリマンジャロ頂上ではどのぐらい日の出が早くなるかをざっと計算したのが次の図です。

キリマンジャロの日の出の計算(大矢まとめ)


地球の半径を6400km、キリマンジャロの標高を6kmとして概略計算すると、麓に対してだいたい10分ぐらい日の出が早くなって、同様に日の入りも遅くなるという結果になりました。

もちろん、地平線や水平線が見えていることが前提ですので、雲海の上から太陽が昇ってくる時にはもう少し日の出は遅くなります。この10分を大きいと捉えるか、意外と小さいと捉えるかは人それぞれと思いますが、いち早く朝日を浴びてモルゲンロートで輝く山の姿は本当に素晴らしいと感じます。

 

さて、これまで4回にわたってキリマンジャロについてあれこれと語ってきましたが、次回は最終回として私の2008年の二度目の登頂の様子について、当時の手記も交えながらレポートしていきたいと思います。いわば総集編ですので、ご期待ください。

このキリマンジャロの4回のレポートの間にも、大矢@山岳防災気象予報士のTwitterで最新の気象情報をお伝えしていますので、こちらもご活用いただけますと幸いです。

 

プロフィール

大矢康裕

気象予報士No.6329、株式会社デンソーで山岳部、日本気象予報士会東海支部に所属し、山岳防災活動を実施している。
日本気象予報士会CPD認定第1号。1988年と2008年の二度にわたりキリマンジャロに登頂。キリマンジャロ頂上付近の氷河縮小を目の当たりにして、長期予報や気候変動にも関心を持つに至る。
2021年9月までの2年間、岐阜大学大学院工学研究科の研究生。その後も岐阜大学の吉野純教授と共同で、台風や山岳気象の研究も行っている。
2017年には日本気象予報士会の石井賞、2021年には木村賞を受賞。2022年6月と2023年7月にNHKラジオ第一の「石丸謙二郎の山カフェ」にゲスト出演。
著書に『山岳気象遭難の真実 過去と未来を繋いで遭難事故をなくす』(山と溪谷社)

 ⇒Twitter 大矢康裕@山岳防災気象予報士
 ⇒ペンギンおやじのお天気ブログ
 ⇒岐阜大学工学部自然エネルギー研究室

山岳気象遭難の真実~過去と未来を繋いで遭難事故をなくす~

登山と天気は切っても切れない関係だ。気象遭難を避けるためには、天気についてある程度の知識と理解は持ちたいもの。 ふだんから気象情報と山の天気について情報発信し続けている“山岳防災気象予報士”の大矢康裕氏が、山の天気のイロハをさまざまな角度から説明。 過去の遭難事故の貴重な教訓を掘り起こし、将来の気候変動によるリスクも踏まえて遭難事故を解説。

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