韓国・済州島発祥のウォーキング「オルレ」を、『山と溪谷』編集部員が本場で体験

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「オルレ」という言葉を知っているだろうか。私は知らなかった。オルレとは韓国・済州島発祥のウォーキングのことで、里山や山麓の集落をのんびり歩くスタイルのこと。今回私は、社団法人済州オルレが主催するプレスツアーに参加し、本場・済州島のオルレを体験した。

写真=加戸昭太郎
文=阪辻秀生(山と溪谷編集部)

 

韓国で人気のウォーキングイベント「オルレ」で済州島を満喫

2019年11月1日、前夜宿泊したホテルから車で和順金砂(ファスングムモレ)海水浴場に送ってもらうと、砂浜に山歩きの恰好をした大勢の人たちがあふれかえっていた。済州島では前日から済州島オルレウォーキングフェスティバルが開催中で、その参加者が集まっているのだ。

この海水浴場からスタートし、7km先の大坪浦口(デピョンポグ)をつなぐコースがフェスティバルの開催エリア。そのスタート地点である海水浴場は、ブーステントを見物する人の混雑があったり、なぜかステージではダンスイベントが行なわれていたりで、フェスティバルの盛り上がり振りをいきなり目の当たりにした。

スタート地点である和順金砂(ファスングムモレ)海水浴場。なぜかダンスしている集団がいた


フェスの盛り上がりもいいけど、オルレを体験しなくてはいけない。海水浴場から出て、静かな港町のような風情の町中を歩く。平屋建ての民家の間の道をしばらく進んでいくと、次は牧草地のような草の丘が現われる。牛や馬の姿こそなかったが、柵が設けられていたりフンがあったりしたので、どうやら牧場らしい。牧草地を横断する道は徐々に傾斜を強め、明確な登り坂になる。

歩き始めると静かな港町に。道中にはオルレコースであることを示すオレンジと青のリボンが結び付けられている


スタート地点で混雑ぶりを見せたフェスティバルだが、実はここまでの道中もフェス参加者が前後に途絶えることなく、行列状態で歩いていた。坂道になると今度は渋滞が起き、しばらくすると立ち往生するようになった。ちょうど小高く見晴らしのいい坂道の途中、せっかくなので休憩しつつあたりを見渡すと、斜面にはところどころに生えるミカンの木と、足元に広がるモノトーンの港町の集落が、いかにも牧歌的な風景を作り出している。

人は多いが、歩いている場所の雰囲気はよい。田園風景が広がるトレイル


「オルレ」とはもともと、通りから家に通じるとても狭い路地を指す済州島の方言。単に山や自然を親しむだけでなく、周辺の集落や住民、文化と触れることを楽しむウォーキングスタイルとして、済州島の観光関係者がトレイルを整備、普及・広報に尽力してきたものだ。

10分くらい立ち止まっていただろうか、ようやく行列が動き出した。この先に狭い急斜面の道があり、その通過にてこずって渋滞が起きたようだ。急斜面を過ぎると樹林帯の道で、傾斜の緩やかなアップダウンの繰り返しとなった。

里山に入るとすぐに渋滞が始まる。オルレの人気ぶりがよくわかる


今回はフェスティバルだったので行列に着いていけば迷うことはなかったが、イベント会期外でもトレイルの分岐には「済州オルレ」のルートであることを示す道標が整備され、トレイル上の木などにはオルレのテーマカラーであるオレンジ色と青(それぞれ、済州島の名物であるミカンと海を表している)のリボンが結び付けられているので、歩いていて迷うことはない。ただ道標に書かれている現在地や行き先の案内がハングル文字なので、韓国語の知識のない私には理解できなかった。

カンゼとよばれる馬をモチーフにした道標。頭の向きが本来の進行方向で、今回のフェスティバルでは逆向きに歩いた

青色の矢印が正方向、オレンジ色が逆方向を示す

こちらも道標。済州オルレの9番目のルートであることを示す。ルート上には記念スタンプが設置されていて、それを集めるのも楽しみとなっている


なだらかな道が急な登りに変わった。息を切らせながら登っていくと、月羅峰(ウォルラボン)と呼ばれるこのルートの最高地点に到着した。松の木の間から海が見える。吹く風に汗が冷やされ心地よい。ここでまた休憩することにした。

見晴らしのよい場所もところどころにある。のどかな風景だ


腰をかけ水を飲んでいると、日本語での会話が聞こえてきて、4~5人の小グループが通り過ぎて行った。日本からの参加者のようだ。現地の報道によるとフェスティバル会期(10月31日~11月2日)ののべ参加者は約4000人という。韓国本土からの来島者がほとんどだというが、日本からこのイベントを目当てに訪れている人もいるようだ。

ゴール地点の大坪浦口(デピョンポグ)には、宮城県や九州の観光関係者らが訪日観光客誘致を目的にブース出展していた


休憩もそこそこに、松の木の間を縫うようになだらかな遊歩道を進むと海岸沿いに集落が見えてきた。もうすぐゴール地点だ。舗装道路に入ると、道沿いには真新しいカフェやペンションのような宿泊施設がいくつかあった。聞くと、オルレ参加者目当ての施設らしい。新しく店を出し商売ができているということは、年間を通じて一定数のオルレ利用者がいるということだろう。

ゴール間近な海岸の町。リゾート地のようだ


ゴール地点である大坪浦口(デピョンポグ)には、和順金砂(ファスングムモレ)海水浴場同じようにブーステントや大勢の人だかりがあった。イベントに合わせたオルレ体験だったので、ところどころで渋滞に遭遇したものの、気候も温暖でルートも整備され、快適なウォーキングを楽しめた。頂上への到達を主目的とする登山からみると物足りないかもしれないが、のんびり歩くこういうスタイルもけっこういいものだと素直に思った。

昼食提供ポイント。地元の婦人会が作ったウニ風味の温麺をいただく

 

済州オルレウォーキングフェスティバルとは


2019年で10回目を迎えたウォーキングイベント。2019年10月31日から11月2日まで開催された。済州島をぐるっと周回するように整備されたオルレコース全長425kmは、4kmから20kmで26区間に区切られている。

2019年のフェスティバルでは8コース、9コース、10コースがイベント会場に設定され、取材では9コースを歩いた。オルレコースはいつでも歩くことができるが、イベント会期中に事前登録(2万5000ウォン。約2,500円)し、参加すると、ルート上に設置された昼食提供地点で地元特産の食事の提供を受けられるほか、記念品や公式ガイドブックを入手できる。

2020年の「第11回済州オルレウォーキングフェスティバル」は、11月5日(金)~7日(日)に開催。「済州オルレ」についての情報は(社)済州オルレのホームページへ。

※本ルポは、『山と溪谷』2020年4月号に掲載予定

 

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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発刊から約90年、1000号を超える月刊誌『山と溪谷』。編集部から、月刊山と溪谷の紹介をはじめ、様々な情報を読者の皆さんにお送りいたします。

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