私が読んだ「山の本」|山岳ライター・編集者小林千穂さん

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登山界の著名人に聞く、山の本。最初に出会った山の本や、感銘を受けた山の本など、いろいろなテーマで山の本を紹介してもらいました。今回はライター・編集者の小林千穂さんにお聞きします。

最初に出会った山の本

家に井上靖の『氷壁』や新田次郎の孤高の人』『八甲田山死の彷徨など、父が買った山の本があったので、それを中学生ぐらいのときに読んだと思います。『氷壁』は、そのころ本に描かれている人間模様はまだよく理解できなかったので面倒くさくなって読み飛ばし、登攀シーンとザイルの性能実験のところだけを熱心に読んでいた記憶があります。今読み返せばドロドロしたところこそ、おもしろいんですけどね(笑)。『八甲田山死の彷徨』はすごく怖くて、でも、続きがどうなるか気になって読むのを中断できなかったことを覚えています。八甲田山はどんなに恐ろしいところだろうと思っていましたが、大人になってから夏に行ったら、高山植物が一面に咲く平和な場所で、そのギャップに驚きました。

 

氷壁 (新潮文庫)

 

最も感銘を受けた、影響を受けた山の本

幸田文の『木』です。20代なかごろ、カメラマンのアシスタント時代に読みました。幸田文の文章が好きで、何日もかけて全文書写したぐらいです。当時は著者の鋭い感性、美しい日本語の表現に惹かれていましたが、今思えば、目に映ったものから何を感じるか、それをどう表現するかをこの本から学んだのかもしれません。『崩れ』『雀の手帳』などと合わせて、いつも手元に置いています。

 

木 (新潮文庫)

 

最近読んだ山の本

先日、山野井泰史さんの『垂直の記憶』を読み直しました。なぜかというと、少し前にネパールのマナスル西側のトレッキングコースを歩いたからです。そこからはマナスルを至近距離で見ることができました。同行者から山野井さんが、今見えている北西壁を登ったはずだ(途中、セラック崩壊による雪崩に遭い、登頂はならなかった)と聞き、いっしょにどこを登ったのか目で追ったのですが、どこも登攀可能なルートがあるようには見えませんでした。気になったので帰ってからマナスル北西壁の話が載っている『垂直の記憶』を読み直して、登ったルートを確認したのです。改めて読んで、山野井さんの山への向き合い方、「山に合わせて登る」という言葉に感銘を受けました。

垂直の記憶(ヤマケイ文庫)

 

「山の日」におすすめしたい山の本

今年の「山の日」に、初心者から一歩進んだ山登りのハウツーをまとめた新しい著書『脱・初心者!もっと楽しむ山登り』(講談社)が発売予定です。私が自らの経験から学んだことをまとめていますので、発売されたらぜひ手に取ってみてください。

脱・初心者! もっと楽しむ山登り (講談社)

 

※この記事は、2016年に制作した「登山界の著名人に聞く 私が読んだ山の本」を再構成したものです。

プロフィール

小林 千穂(こばやし ちほ)

山岳ライター。山好きの父の影響で子どものころに山登りをはじめ、里山歩きから雪山、海外遠征まで幅広く登山を楽しむ。山小屋従業員、山岳写真家のアシスタントを経て、フリーのライター・編集者として活動している。著者に『DVD登山ガイド穂高』(山と溪谷社)、『失敗しない山登り』(講談社)などがある。日本山岳ガイド協会認定、登山ガイド。

登る前にも後にも読みたい「山の本」

山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。

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