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ベースキャンプへの長いキャラバン。樹林の中の道から草原の放牧地、最後は荒れ果てた氷河を登る

アウトライヤー 萩原編集長のヒマラヤ未踏峰挑戦記
ガイド・記録 2020年04月13日

高度順応しながらの長いキャラバンを経てたどり着いたベースキャンプの標高は、ヨーロッパ・アルプスの最高峰モン・ブランの頂上よりも高い約5200m。目指すアウトライアーはまだ遠い。

 

標高4785mのローナクは、のんびりとしたカウベルの音が谷間に響く草原の集落

Date 2013年09月25日(水)


カンバチェン(4095m)を8時に出発。グンサ・コーラ(谷)に沿った道をたどり、ローナク(4785m)に13時30分に到着しました。

カンバチェンまでは樹林の中をたどる道でしたが、4000m以上は灌木と岩礫の間のトレッキングルート。とはいっても、めざすローナクもカルカ(放牧地)が広がっていて、ヤクや牛さんたちも往復するため、きわめて安定した登山道です。道の周りにはエーデルワイスやリンドウの仲間が咲き乱れて、目を楽しませてくれます。途中、モレーン末端の急登をクリアすると、野球場が3〜4つできそうな広大なカルカ。そしてローナク氷河から流れ出る川を渡り、カンチェンジュンガ氷河との合流点となる草原がロナークの集落です。

ローナク間近。周囲は完全な氷河地形


モレーンに登ると正面にカンチェンジュンガ氷河が姿を現わした


目指すアウトライアーがある方向のロナーク氷河。この先、右方向に分かれるブロークン氷河がBCへの入口となる


ここは放牧のためのロッジが3〜4軒あるだけ。周辺は放牧地となっていて、のんびりとしたカウベルの音が谷間に響いています。のり巻きのランチを食べた後は、高所順応のために裏山を目指しました。体調が今ひとつの3人を残して、パサン・タマンの案内で、マシモ隊員、ナカニシ隊員と私の3名で登高開始。ガレ場を登り、目指す尾根にたどり着いたところが標高4964m。高度計を見せて、「あと36m登ろう!」ということで標高5000m地点まで登って30分ほど待機。下山してそれぞれSp-O2を測ってみると、それぞれが92以上をクリアしていました。

なかでもマシモ隊員は昨日、高度障害でテントから外に出られないほどの状況だったにもかかわらず、とっておきの「救心」を与えたところ劇的に回復。今日のキャラバンも絶好調で、5000mの順応活動もきわめて順調でした。

高所順応でたどり着いた5026m地点。元気いっぱいになって高度計を指さすマシモ隊員とパサン


隊員全員、いまのところ好調なので、明日はローナクで停滞後、あさって、BCに上がるように全体の計画を1日、前倒しにすることに決定。2度目のステーキ・ディナーをいただいて就寝です。

ローナク全景

 

ベースキャンプ入り前日は完全休養日

Date 2013年09月25日(水)


9月23日はローナクで停滞としました。

ここまでは放牧のためにしっかりした道が作られており、また、カンチェンジュンガBCまでのトレッキング・ルートとしてよく歩かれています。昨日もドイツと南アフリカのトレッキング・パーティが近くにテントを張っていました。

私たちが登ろうとする山は、ここから北に向かってローナク氷河に入り、さらに枝分かれしたブロークン氷河を遡ったどん詰まりにそびえています。まさにイギリスの探検家、ケラスが「Outlier」と名付けた所以がそこにあります。ブロークン氷河の果てに、離れ小島のように聳えるアウトライアー東峰(Janak Chuli East)をめざし、明日はベースキャンプを設営に向かう予定です。

今日は完全休養日としたため、昨日、高所順応に出られなかったメンバーたちも回復。あふれる日差しを浴びて、のんびりとシュラフを干したり洗濯したりして、一日を過ごしました。ソーラーバッテリーも全開で充電を果たし、衛星も補足して、ひとまず通信環境は整っています。しかし、明日、入山するブロークン氷河は、周囲を山に囲まれているため、おそらく通信は不可。しばらくブログの更新ができなくなるかもしれません。

先発隊にとっては、実に15日ぶりの洗髪(ダジャレのつもりではないのですが・・・)になりました


隊員たちは洗濯ものを干し終わると、各々がお好みの場所に椅子を持ち出して読書三昧。ある者は氷河を見下ろす高台のてっぺんに、ある者は日陰をさがして建物の陰で、読書にふけっていました。本離れが叫ばれる昨今にあって、ひとり平均10冊以上の文庫本を持ち込んだ学生たちに頼もしさを感じるいっぽう、電子ブックの普及進度の遅れを少し嘆きながら、回し読みの輪に加わるOB隊員たちでした。

私が持ち込んだ1冊は「日本百名山」。ヤマケイ文庫の編集長としては、深田久弥さんの「ヒマラヤ登攀史」や「ヒマラヤの高峰」を文庫化&電子化して、ここに持ってきたかったところです

 

長いキャラバンを経てベースキャンプに到着

Date 2013年09月28日(土)


9月24日11時30分、全隊員が無事にブロークン氷河の舌端近くにあるベースキャンプ(以下、B.C)に到着しました。

ローナクのカルカ(放牧地)を離れると、ルートはこれまでのトレッキングルートと違って氷河末端の荒れた地形のなか、深い谷間の側壁を登っていきます。ゴルジュ状になった谷底まで200mほど切れ落ちたボロボロの斜面を、ところどころフィックスロープで安全を確保しながら登高。「ブロークン・グレイシャー」とはよく名づけたもので、まさに荒れ果てた氷河の顔がそこにありました。

ブロークン氷河のゴルジュ帯を登る。不安定なガレ場の連続だ


ベースキャンプにて。先発隊にとっては、日本を出て17日目に到着した長いキャラバンだった


たどりついたB.Cは標高約5200m。すでにヨーロッパ・アルプスの最高峰、モン・ブランの頂上よりも高い場所に居ることになります。さすがに全隊員とも、ここにきて高度の影響が出てきたらしく、頭痛やおなかの不調を訴える者、多数。私も今回、初めて頭痛を感じるようになりました。

午後はソーラーパネルを使って電子機器の充電をしたのち、高所順応のために裏山を軽く散歩。皆を誘ったのですが、誰もついて来たがらないので、ひとりで標高5400m地点まで登り、20分ほど滞在してから、沈みゆく太陽と競争するようにB.Cまで下山しました。

裏山から見下ろしたわがB.C。アウトライアーは、さらにこの氷河の奥にそびえており、その姿を目にすることはまだできない


この日の夕食はトンカツ! うれしいメニューには違いないのですが、高度の影響をたっぷりと受けたメンバーにはちょっとヘビーな感じです・・・。しかしながら、昨日も今日も絶不調だったはずのホンダ隊員(現役4年生)だけが、「トンカツ用の別腹があるんです」と言いながら、皆の食べ残しを平らげた上、「明日の朝食用」としてキッチンスタッフにお取り置きをお願いしていました。恐るべし、若者の胃袋。

 

はじめて見ることができたアウトライアーの姿

Date 2013年09月27日(金)


9月26日。先発隊が日本を発ってじつに18日目。はじめてアウトライアーの姿を見ることができました。C1への高所順応のために登った裏山の、標高5600mの尾根を越えた瞬間、アウトライアー(ジャナク・チュリ)南西壁が突然、目の前にその姿を見せたのです。

周囲の山々からひとつ頭を抜け出してそびえる存在感。そして朝日に輝く白い壁を見るにつけ、登高意欲がいやがうえにも高まります。3年前よりも着雪が多く感じられたのは、まだ雨季があけきっておらず、毎日のように午後に降る雪の影響なのかもしれません。下部の雪壁の状況を一日でも早くチェックしたいところです。

C1をめざす途中、目標のアウトライアーが姿をあらわした


今回、初登頂をめざすアウトライアー東峰(右の丸いピーク)


午前中の快晴が、午後には激しい霰模様となり、全員濡れながらBCへ帰還。隊員の半分はまだ高山の影響で食欲が戻らず苦労していますが、明日一日、休養にあてて回復することを期待しています。

安全祈願のお祈り(ラマ僧によるプジャ)が明日、行われることになっていましたが、暦の都合で28日か29日になるとのこと。したがってC1入りは早くても29日ということになります。下界から見るとじつにのんびりしたペースと思われるかもしれませんが、「郷に入っては・・・」ということでビスタリ、ビスタリ(のんびり、のんびり)と構えたいと思います。

深夜、外に出てみると雲はあがり、下弦の月に照らされてドローモ西壁のヒマラヤ襞が青白く輝いていました。明日はきっと快晴でしょう。ソーラーパネルでPCの電源をフルチャージしなければ……。

標高5600m地点で高所順応中? の隊員たち。後ろに見える山はドローモ

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教えてくれた人

萩原 浩司

モットーは「ウラヤマからヒマラヤまで」。あらゆる山登りに対して深い興味と愛情を注ぎ、南高尾山稜の陽だまりハイキングから北アルプスの縦走登山、残雪の南会津スキーツアーに奥秩父の沢登り、小川山のフリークライミングや八ヶ岳のアイスクライミング、中央アルプスの冬季登攀、そしてたまには海外登山と、オールラウンドに山を楽しんでいる。普段の仕事は山と溪谷社の編集者。

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