コロナ禍で「山の力」が落ちてしまった私。山登りは「初心」に帰って

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登山専門店・好日山荘の女性スタッフ有志による「好日山荘おとな女子登山部」。今回は、登山歴20年以上というニコさんが、コロナ禍での登山の中断とその後の復帰登山で経験されたことから、初心に帰って、安全に登山を楽しむことの大切さについて、教えてもらいました。

 

こんにちは、おとな女子登山部のニコです。今年は様々な事情から、長期間、山登りができなかった、登山を休んでいた、という方も多いのではないでしょうか?

私も、すっかり重くなった腰を上げて、半年ぶりに山登りを再開したのは9月上旬でした。

「出掛けられなかった」というのは口実で、どこかのタイミングでもっと早くに山登りを再開できたのではないか、とも思うのですが、カラダだけでなく、脳まですっかり「停止モード」で、20年以上にわたる登山経験のなかで、半年以上山登りをしなかったことはありませんでした。

若干の焦りも感じつつ、これはマズイ! と自分を奮い立たせ、登山を再開したのですが・・・。

9月上旬、最初に登ったのは、新潟県の苗場山(よりによって)。その数日後には、北アルプスの燕岳。さらに、9月下旬には、皇海山のクラシックルートと、復帰後の足慣らしにしてはなんとも激しすぎる山をチョイスしてしまいました。

とくに最後の皇海山は14時間にわたるロングルートで、山から半年も遠ざかっていた私には、相当タフな山登りになりました。

「山登り再開」に際し、コンディションが絶好調だった頃と、体力と感覚が衰えてしまった現在とに、ギャップを感じる機会がありました。

忘れかけていた山登りの初心を思い出しましたので、その話をしたいと思います。

復帰間もない時期にはタフすぎた皇海山

 

自他ともに認める「健脚」の私。昔はただの「ヘタレちゃん」でした

私は自他ともに認める「健脚」です。急登にも下山にも強く、軽快に山を駆け抜けていました。

そんな調子だったのに、今回の山登り再開で訪れた苗場山で、思うように足が動かなかったことに、がく然としました。

まず、足が前に出ない。すぐに息は上がるし、カラダがだるい。後半はなんとか身体も慣れて、コンディションも多少回復しましたが、これまで積み重ねてきた経験・・・、どんなビッグマウンテンでも急登でも、山登りをたくさんして鍛えられた筋肉で楽々歩いてきた経験が、あっけなく山登りをはじめたばかりの昔の情けない自分に戻ってしまったようでした。

落ち込んだと同時に、山登りをはじめたばかりの頃の、未熟な装備や体力的な危うさを少しだけ思い出しました。

苗場山はアップダウンの連続! おまけに雨が降ったり止んだりしていました


私は、地元・山形県の高校で、山岳部に入ったことをきっかけに山登りを始めました。まわりには、飯豊山や朝日連峰、月山、鳥海山など大きな山ばかりでした。また、低山でも、整備されていないところがほとんどだったので、最初は、5歩進んでは立ち止まって休む、そんなことの繰り返しだったのを覚えています。

辛くて不機嫌になったり、毎度シャリバテになったり…。今、登山に関わる仕事に就いていることが、当時は想像できないほどの「ヘタレ」だったのですが、積み重ねた経験の甲斐あって、あの頃の面影はなく、すっかり立派な山女になっていたのです。

登山仲間やお客様には、よく「健脚でうらやましい」と言われますが、決して最初からそうだったのではありません。たくさんの経験と努力を重ねてできあがったのでした。

笑顔の裏に。この時、両足の親指に激痛が・・・


自分自身を振り返って考えると、山登りをはじめて間もないうちは、健脚である必要もないし、バテたことを恥ずかしいと思わないで欲しいのです。それよりも、「大変だったこと」に囚われて山登りをやめないでほしいです。

「ローマは一日にして成らず」ではないですが、長い歳月を経てフィジカルもメンタルも強くなるんだと思います。

 

今年の山登りはハードルが高い? この情況が後押ししてくれることも

話を戻して。外出自粛後、みなさんはまずどこの山へ行きましたか? 店頭でお客様の話を聞いていると、季節的に復帰戦が、北アルプスへのテント泊縦走なんて方もちらほら。驚いたのは、初めて山登りをするという方が、最初から「小屋泊、テント泊へ!」なんてケースも、一件や二件ではありませんでした。

一般的には、日帰り登山を体験して、小屋泊登山を経て、ある程度自信がついたところで、テントを背負って、長期間、山へ入ってみよう! となるパターンが多いのですが、今年は山小屋の定員が減って予約が取れないなど、通常とは違う対応を余儀なくされました。

確かに、経験不足や体力的な心配はありますが、ポジティブに捉えれば、なかなか一歩踏み込めなかったこと、例えばテント泊登山の挑戦へと背中を押してもらえた方も多いのではないでしょうか?

新しいことに挑戦することは、誰でも不安や怖さを感じますが、状況的に、そうせざるを得ないのであれば、いっそのこと流れに乗って一歩を踏み出すのも素晴らしいことですよね。

いろんな困難に遭遇し、乗り越えることで強くなります

 

過去の失敗は、忘れた頃にやってくる

冒頭で、9月に山登りを再開したことについて記しましたが、半年振りの山登りでは自分の山の力の衰えを痛感しました。再開後の登山はどれも、自分の経験と体力を過信していたと反省しました。過去にこのような登らない期間を経験したことがなかったので、仕方ないのですが。

どんなにロードでランをしていても、山登りで使う筋力は、山登りでしか鍛えられないこと。筋肉だけではなく、感覚もまた山登りで培うものなのだということを、改めて思い知らされました。

皇海山は藪漕ぎの連続! 半袖で腕が傷だらけに


かつて、土砂降りの中を登った経験のある山形県の飯豊山。もう何年も山登りをやってるからへっちゃらよ!なんて意気揚々と挑んだものの、ひたすら続く急登と大雨に、メンタルもろともやられてしまいました。しまいには、雨でケータイが壊れ、着替えをろくに用意していなかったので、避難小屋では低体温症の一歩手前に。

今回はじめて訪れた、皇海山のクラシックルートでは、この季節なのに半袖で登ったのが仇となり、稜線ではすこぶる寒かった。ウインドブレーカーは持参していたものの、藪漕ぎもあったので腕が傷だらけに。これは痛恨のミスでした。

さらには、愛用していた登山靴が、久しぶり履いたらサイズが合わず、序盤から両足の親指を痛めるというアクシデントまで。

苗場山も同様に、雨予報だったのにローカットシューズで登り、靴の中がビショビショになりました。苗場山は過去にも登っているし大丈夫、という過信が招いた失敗でした。

激しい登り。以前は楽しくて仕方なかったのに、今はカラダが重い


こういった装備やウェアの選択ミス、体力的な誤算というのは、経験や感覚、いわばセンスの表れでもあると思います。もう少しで心が折れそうだった皇海山は、様々な側面からみて、今の自分には身の丈に合わない山だったと思います。

 

誰でも失敗談より成功経験を発信したいもの。美化された情報にはご注意を!

最近では、SNSに投稿されるオシャレなハイカーや美しい山の写真を、目にしない日はありませんよね。ログ系サイトでも、コース情報を簡単に調べることができるようになりました。

しかしながら、手軽に情報が入手できる反面、その世界が全てのように思う危うさも潜んでいるように感じます。誰もが成功体験を世界に発信したいはずですから、SNSには良い面だけが投稿されている可能性があります。

また、投稿されている記録より遅くなったり、速くなったりすることで、一喜一憂することがあると思います。しかし、そのサイトだけでは投稿している人の登山経験などのバックグラウンドまで知ることはできません。

「簡単に歩けるんだ!」「こんな装備で大丈夫なんだ!」と、不確定要素の多い情報を鵜呑みにすることはとても怖いことです。

山登りは誰かに見せるためにすることでも、競争でもありません。SNSで「映える」ことが優先されがちですが、行ける山域も、必要なウェアもギアも人それぞれです。秋から春にかけては低山がおもしろい季節ですので、錯綜する情報を見極めて、安全に快適に山登りを楽しんでください。

そのためには、確かな情報源(例えば、各県警や市町村の情報、山小屋のホームページ、登山関係の雑誌・書籍など)を参考にしたり、簡単にでもいいので自分で地図を読めるように学んだり、自分で天気予報を気にするクセをつけたりすることが大切だと思います。

好日山荘では、おとな女子登山部や登山学校でもツアーの募集を再開しました。机上講座なども少しずつ増やしていますので、ぜひ一緒に、山登りを楽しみましょう♪ ガイドが同行する、万全のサポート体制でみなさまをバックアップします。

⇒おとな女子登山部の机上講座・実技ツアーのご案内はこちらです。
http://www.kojitusanso.jp/otonajoshi/join/schedule.php

プロフィール

ニコ(好日山荘おとな女子登山部)

東京生まれ山形育ち。家族の影響で、幼少期から成人するまで、ほぼ毎週末、キャンプや渓流釣り、スキーへでかけて育った。大自然と名峰の数々に囲まれた山形県で、高校一年のときに山岳部に入部。その後、部長の経験を経て、現在でも社会人山岳会に所属するなど積極的に登山を楽しむ。この数年は、日本百名山のピークハントを父と目指し、究極の親子登山を実行中。現在は70座。急峻な岩場より、広大な山域を好む。
⇒おとな女子登山部メンバーはこちら

好日山荘 浦和パルコ店

富士山や屋久島への登山など、エントリーユーザー向けの商品を多数取り揃える登山用品店。登山やハイキング以外で、アウトドア用品を日常使いしたい方などへの商品提案も行う。

所在地/埼玉県さいたま市浦和区東高砂町11-1 浦和パルコ4F
TEL/ 048-764-9701
営業時間/ 10:00~21:00
アクセス/ JR浦和駅東口正面(浦和パルコ4階)

好日山荘おとな女子登山部 リレー連載

登山用品専門店の好日山荘で、2013年より女性スタッフ有志により立ち上がった「おとな女子登山部」。 「自分たちが山を真剣に楽しみ、次の山に挑戦すること」「お客様にもっと山を好きになってもらうこと」を目標に、ブログでの発信や登山イベントなどを行っている。 その活動の様子と女子目線での登山感を伝えていく。

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