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寄生植物ヤドリギの、恐ろしすぎる「パラサイト」戦略とは?

身近な花の物語、知恵と工夫で生き抜く姿
その他 2021年01月14日

社会活動や生活を制限せざるを得ない今、身近に咲く花に心惹かれます。『花は自分を誰ともくらべない』の著者であり、植物学者の稲垣栄洋さんが、花の知られざる生きざまを紹介する連載。今回はロマンチックな伝承とは裏腹にちょっぴり怖い生態をもつヤドリギについてです。

映画「トイ・ストーリー」では、カウボーイ人形のウッディと、羊飼い少女の人形ボーがクリスマスにキスをする。その上で羊たちがくわえているのがヤドリギである。

また、映画「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」でも、主人公のハリーと彼が憧れていたチョウがキスをするときに、部屋にヤドリギが現れる。

西洋では古くから、ヤドリギの下で出会った男女はキスをしても良いと言い伝えられていて、女性が好きな男性をヤドリギの下に誘う。そして、クリスマスの夜にヤドリギの下でキスをすると、幸せになれるという言い伝えがある。
そのため、クリスマスのドラマチックなシーンにはヤドリギが欠かせないのである。

ヤドリギは古代から、神聖な植物であった。
すっかり葉を落としてしまった木の上に、ヤドリギは緑の葉を保っている。そのため、ヤドリギは生命力のある聖なる木とされてきたのである。

ヤドリギは「宿り木」である。
宿を借りるように、他の木の上に生えていることから、そう呼ばれているのだ。

しかし、ヤドリギは、宿を借りているどころではない。
くさびのような根っこを、他の植物の幹の中に食い込ませ、他の木から水や養分を吸い取っている寄生植物なのである。

ヤドリギが落葉樹に寄生し、木々が葉を落としている間も緑色の葉を保っているのは、木々が葉を落としている間に、光合成をして力を蓄えるためであるとも考えられている。
じつにしたたかな植物である。

ヤドリギは春になると花を咲かせる。花は目立たないが、ヤドリギの花は蜜を含んでいて、昆虫を呼び寄せる。そして、受粉をして、秋になると実をつけるのである。

やってきた鳥がヤドリギの実を食べると、実といっしょに種子が鳥の体内に入る。
そして、腸内を通り抜けて糞といっしょに体外に出されるのだ。鳥は飛び立つ前に、体を軽くするために糞をする。

そのため、ヤドリギの種子は糞といっしょに、首尾よく木の枝に付着するのである。
ヤドリギの種子は粘着力のある粘液に包まれているため、枝に付着しやすくなっている。そして根を生やして、ゆっくりと木の幹に根を食い込ませていくのである。

死者を生き返らせる草

ヤドリギの花言葉は「困難に打ち克つ」である。これはギリシャ神話が元となっている。

ミノス王の息子であるグラコウス王子は事故で死んでしまう。そして、ミノス王の命を受けて、占い師は王子の墓に閉じ込められて、王子を生き返らせなければならなくなってしまったのである。

困り果てた占い師に、さらに困難が降りかかる。

墓の中のヘビが襲い掛かってきたのである。何とかそのヘビを仕留めると、仲間のヘビが草をくわえて現れ、死んだヘビの体を草で擦った。すると死んだヘビは生き返ったのである。

そのようすを見ていた占い師は、ヘビが使った草で王子を生き返らせ、無事に墓から出してもらうことに成功したのである。この死者を生き返らせる草がヤドリギである。

この話から、「困難に打ち克つ」という花言葉が与えられているのである。

(本記事は『花は自分を誰ともくらべない』からの抜粋です。)

『花は自分を誰ともくらべない』

チューリップ、クロッカス、バラ、マーガレット、カンパニュラ、パンジー、マリーゴールド――花は、それぞれ輝ける場所で咲いている。身近な47の花のドラマチックな生きざまを、美しいイラストとともに紹介。
昆虫や鳥を呼び寄せ、厳しい環境に適応するために咲く花。人間の生活を豊かにし、ときに歴史を大きく動かしてきた花。それぞれの花が知恵と工夫で生き抜く姿を、愛あふれるまなざしで語る植物エッセイ。『身近な花の知られざる生態』(2015年、PHPエディターズ・グループ)を改題、加筆のうえ文庫化。


著者:稲垣栄洋
発売日:2020年4月3日
価格:本体価格850円(税別)
仕様:文庫判256ページ
ISBNコード:9784635048835
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2819048830.html

amazonで購入 楽天で購入


【著者略歴】
稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)
1968年生まれ。静岡大学大学院農学研究科教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所を経て、現職。著書に『身近な雑草の愉快な生き方』(ちくま文庫)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『面白くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)、『生き物の死にざま』(草思社)など多数。

書籍・書評 自然観察
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