登山道とテント場の整備作業を手伝い、現状と課題を知る。山小屋訪問記[第2回]両俣小屋
コロナ、台風、ヘリ問題……。2020年、山小屋はさまざまな災禍に見舞われました。
一方で、「山小屋エイド基金」の活動、新著『ドキュメント 山小屋とコロナ禍』の取材、そして自主的にお手伝いしている歩荷や整備などの活動を通じて、たくさんの山小屋を訪ね、山小屋のご主人たちから、じかにお話を伺う機会の多い1年でした。
ショート連載「山小屋訪問記」では、山小屋ご主人から伺った貴重な「生の声」をお届けしていきます。
登山を生きがいとする私たち登山愛好者はもちろん、山小屋を運営する方々にとっても、2021年が「いい1年だった」と振り返ることができる年になるように、何ができるのかを一緒に考えていきましょう。
文=宮崎英樹(山と溪谷社・実用図書出版部)
崩落個所をいくつも越えて。2020年9月、南アルプス・両俣小屋を訪問
南アルプス北部、北岳と仙丈ヶ岳の中間の、深い谷あいにある両俣小屋は、2020年シーズンは完全休業しました。両俣小屋だけでなく、南アルプス全域のほぼすべての山小屋が休業する形になりましたが、その理由はコロナだけではありません。
2020年9月、両俣小屋を運営するNPO法人両俣竜胆愛好会のスタッフ、管理人の星美知子さんと同行するという条件で、南アルプス市に入山の許可をもらい、私は「マウンテンスポーツ同志会」の仲間と3人で、両俣小屋の整備作業に同行してきました。
芦安の駐車場から、小屋のみなさんと、両俣小屋の許可車両に乗せていただき、登山者の立ち入りが禁止された夜叉神峠~広河原間の車道を走行、そのまま車で三好沢の手前まで入りました。
三好沢は、登山シーズンには路線バスが走る広河原~北沢峠の間にあり、広河原と野呂川出合バス停のちょうど中間点を横切る沢です。この三好沢のわきの斜面が、2019年10月の台風19号の豪雨で大規模に崩壊し、林道を寸断しました。訪問した時点で台風から11カ月が経過していましたが、修復工事はまったく手つかずの状態でした。
この崩壊地を徒歩で乗り越え、両俣小屋へ向かうわけですが、とにかく危険で、とても登山者に開放できるような状況ではありませんでした。この三好沢以外にも、崩壊している箇所がいくつもあり、通過に時間がかかりました。
管理人の星さんに聞いたところ、台風被害を受けるまでは、両俣小屋手前、徒歩15分の地点まで車で入れたので、週1回くらいのペースで生鮮食品の買い出しに行っていたそうです。それが今では、三好沢の崩壊地手前から歩くしかなくなりました。アップダウンが少ないとはいえ、小屋までは片道4~5時間かかるとのこと。
実際に同行してみると、この三好沢の大崩落だけではなく、北沢橋の野呂川出合バス停のすぐ裏、野呂川沿いの林道のいたるところが崩落で、橋が流されたり、岩くずや倒木に埋まっていたりしていました。三好沢から徒歩5時間半を要して、両俣小屋に到着しました。小屋の建物だけは無事に、以前の姿で立っていました。
倒木を切り、岩を動かし、テント場の整備を手伝う
19年10月の台風19号では、小屋から15mほどの場所に建つトイレは、裏山からの土石流で半分埋まり、20年8月下旬に掘り出したばかり、とのことでした。小屋そのものはまったく被害がなかったものの、すぐ手前まで、野呂川が氾濫したことがわかりました。また、広々したテント場も、土石流や野呂川の氾濫でほぼ埋まってしまっていました。
私たち3人は、テント場を少しでも復活させるべく、小屋の目の前の荒れ地の整備に取り組みました。野呂川があふれ、巨木や岩・石・砂が流れ込んでいました。
巨木の枝をカットし、太い幹を輪切りにしてどかし、大岩もどかして、岩や石を活用して土留めを作り、傾斜した場所を段々畑状にします。そして砂利や川砂を平らにならして、テントを張れるスペースを1つ1つ作っていきました。
ここは1人用、ここは大型テント用、と考えながらの作業に、夕方まで没頭しました。
小屋に滞在した3日間、食事はすべて、両俣小屋の主・星美知子さんが作ってくださり、星さんから、コロナ禍でどんな決断をしたのか、今後どうやって小屋を再建して運営していくかなど、たくさん話を聞きました。
両俣小屋は、2020年は営業休止となりましたが、2021年は営業する方針とのことです。しかし、営業スタイルの変更は確実に迫られるでしょう。具体的には、車による必要品の搬入ができないことと、アクセスの問題です。三好沢の崩壊地を人やバスが通れるようになるにはあと数年はかかりそうですので、それまでのメインのアクセスは北沢峠~野呂川出合バス停~治山運搬路を徒歩で入るルートになります。小屋そのものや周辺の状態は問題ありませんが、アクセスのルートが遠くなり、また荒れてもいるため、その点をどうするかが課題となりそうです。
小屋の整備をお手伝いさせていただき、3日間を共に過ごした星さん、そして両俣小屋スタッフのみなさんに、また小屋で会いたいという気持ちでいっぱいになりました。
仙丈ヶ岳~野呂川越~三峰岳~塩見岳と続く「仙塩尾根」の中継地でもあり、登山者にとって大事な山小屋である両俣小屋。この小屋の〈灯〉を消さないために、2021年も引き続き、山岳グループの仲間とともに整備や歩荷の手伝いを続けていきたいと考えています。
書籍紹介
ヤマケイ新書『ドキュメント 山小屋とコロナ禍』
両俣小屋は直接には登場しませんが、星美知子さんが間接的に登場しています。
発売日:2021年1月7日
価格:本体1,000円+消費税
体裁:新書判256ページ
ISBN:9784635510684
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2820510680.html
ヤマケイ新書『小屋番三六五日』
53軒の山小屋の方が執筆されていますが、星さんも一編を執筆されています。
発売日:2021年1月22日
価格:本体900円+消費税
ISBN:9784635048927
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2820048920.html
ヤマケイ文庫『山小屋の灯』
山小屋をこよなく愛し、全国の山小屋を訪ね歩いてきた編集者と写真家によるフォトエッセイ。両俣小屋も収録されています。
文:小林百合子 写真:野川かさね
発売日:2021年1月18日
価格:本体1,000円+消費税
ISBN:9784635049054
詳細URL:https://www.yamakei.co.jp/products/2820049050.html
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なお、星さんが「桂木優」のペンネームで執筆した書籍に『41人の嵐』(山梨日日新聞)がある。昭和57年(1982年)、台風で両俣小屋が半倒壊し、居合わせた41人で脱出を図るという実話。本は両俣小屋で購入できる。
プロフィール
宮崎英樹
『山と溪谷』編集部、広告部を経て、2020年より、実用図書出版部所属。2020年、は、クラウドファンディング「山小屋エイド基金」の運営メンバーも務め、『ドキュメント 山小屋とコロナ禍』の編集・取材・執筆を担当。
Yamakei Online Special Contents
特別インタビューやルポタージュなど、山と溪谷社からの特別コンテンツです。