修行の向こう側を垣間見る 『現代山岳信仰曼荼羅』

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評者=吉田智彦(フリーライター)

現代山岳信仰曼荼羅

著:藤田庄市
発行:天夢人
価格:1800円+税

 

高尾山、富士山、御嶽山、国東半島六郷満山、羽黒山、大峯山……。本書に登場する山々は、どれも日本の山岳信仰「修験道」において、各地を代表する霊山である。著者の藤田氏は、20年以上もの歳月をかけて各山の修行に参加し、取材・撮影を続けてきた。

高尾山では滝に打たれ、富士山登拝では海抜0mの海岸から山頂を踏み、大峯山の奥駈けでは昼夜険しい岩場や深い森を渡り、羽黒山では籠り堂の中で唐辛子を火にかけた煙で燻される。

修験道は、山で苦行を積み、験力を得て世の人々を救う実践の宗教とされるが、なじみのない人にとっては、その風変わりな行動が滑稽にさえ見えるかもしれない。けれど、「修験の教えは概念化できるものではなく、体験をどうするか自分で考えることにある」と説く藤田氏は、行場で出会ったさまざまな立場の人々から個人的な体験や思いを聞くことで、修験道の本質をみごとに浮き彫りにしていく。

たとえば、御嶽信仰の霊場主が「火渡り」を語る場面では、行者が何のために苦行を積むのかについて、こう教えてくれている。

「火は熱い。それがわかっていて火の上をハダシで歩く。(中略)その精神異常の代表が俺である」と言った上で「その狂った結果によって普通の人ではわからないことがわかるようになる」というのだ。

人々はなぜ山に祈るのか。救いたい、救われたいと願うのか。修行を積んで深い洞察力を得た藤田氏の丹精な言葉と行場の気を感じさせる誠実な写真が、実践によって受け継がれてきた修験道の「今」を伝えている。

 

山と溪谷2021年3月号より転載)

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