魚沼・魚野川の川漁文化に迫る 『川漁 越後魚野川の伝統漁と釣り』
評者=高桑信一(写真家)
古くから各地の河川に残る「旧魚止」や「マス止」の呼称は、以前はそこが川マスの遡上止めの滝や淵だったことを意味している。川マスは本マスとも呼ばれるヤマメの降海型で、サクラマスのことである。パーマークが消え、銀毛ヤマメとなって遡上するサクラマスは、味の良いことから大切にされた。
かつて山中深くまで豊富に遡上した川マスは、流れに潜った漁師がマスカギでこれを捕り、流域の人々の食と生活を潤したのである。
近代になって、多くの河川でダムや取水堰が造られて遡上を妨げられた結果、豪壮な川マス漁は幻と消えた。しかし、その貴重な川マス漁の歴史を伝える川がある。それが本書の舞台となった魚野川だ。
魚野川は日本の最長河川である信濃川の一大支流で、新潟県を南北に貫流し、多くの川漁の文化を伝えてきた。
魚野川をこよなく愛し、長年季節を変えて通いつめた筆者は、消え果てた川マス漁をはじめとするさまざまな川漁の伝承や末裔たちの証言を、余さず掬い上げようと決意する。
本書は、その地道で膨大な作業の結実である。いわば滅びゆかんとする記憶を記録として定着させる試みだ。
その対象は、滅んでしまった川マス漁だけでなく、カジカの養殖のようにアプローチを替えて成功している川漁も見逃してはいない。
ともすれば途絶えてしまいそうな川漁の記憶を、時代の断絶を越え、みごとに結合させて蘇らせた労作であり、貴重な川漁の文化の集大成となり得ているのである。
(山と溪谷2021年4月号より転載)
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