登山の範囲を広げる技術集 『ヤマケイ登山学校 アルパインクライミング』
評者=大石明弘(アウトドアライター)
「アルパインクライミングは自然の条件をそのまま受け入れ、それに対し人間がどのように対処できるかを試す、クライミング本来の冒険性にあふれたものかもしれない」
そのような文章ではじまる本書には、アルパインに必要な多くの技術が丁寧に説明されている。進化したアイスやフリーなどの技術解説や用具説明がある一方で、旧来のアブミの使い方なども省略されてはいない。その説明写真やイラストは非常にわかりやすい。
ページを進めながら再認識したことは、アルパインとは実に多くのノウハウが求められる行為であるということ。短期間で包括的に身につけることは難しい。著者の保科さんは1990年、カラコルムのグレートトランゴタワーを登攀。それから30年たった現在でも登り続け、経験と知識を蓄積している。保科さんはこうも語る。
「段階を追ってできることを増やし、登れる範囲を広げていくと、その先にはきっと、ヨーロッパアルプスやパタゴニア、そしてヒマラヤへと夢は広がっていくことだろう」
随所には、登攀のイメージカットも。コントロールされた動きで登るアルパインクライマーの姿は鮮烈だ。彼らは、さらに壮大な壁で、より輝きを放とうとする。
その時、山が差し出す氷壁、新雪、岩稜、寒気、高度、闇、烈風……、そんなあらゆる困難を乗り切るために、本書におさめられた技術は習熟しておきたいものばかりだろう。
(山と溪谷2021年4月号より転載)
登る前にも後にも読みたい「山の本」
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