日本屈指の秘境「白神山地」を次世代へ。白神コミュニケーションズ|日本山岳遺産の横顔 vol.08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。第8回は、世界自然遺産の白神山地で、環境教育や地域振興に取り組んでいる一般社団法人「白神コミュニケーションズ」を紹介する。

写真=白神コミュニケーションズ、取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年8月号掲載記事

写真=白神コミュニケーションズ
取材・文=一ノ瀬伸
『山と溪谷』2021年8月号掲載記事

 

★日本山岳遺産候補地を募集中!

二ツ森山頂からの展望。人工物が一つもない大自然が広がる

白神コミュニケーションズ 〈 2017年度認定 〉

Area:白神山地
Main activity:外来植物駆除
Group profile:
秋田県能代・山本地域の地元有志が集まって2013年に設立。白神山地を中心に情報発信や環境保全などを手がける。日本山岳遺産基金を外来植物駆除に活用。県や国からの委託事業を含め、活動は多岐にわたる。
https://www.shirakamicc.com/

日本で4カ所のみ認定されている世界自然遺産の一つ、白神山地。青森県南西部から秋田県北西部にかけて広がり、世界最大規模のブナ原生林をはじめ、イヌワシやクマゲラなどの希少種を含む多様な生物がすむ、国内屈指の秘境である。

そんな手つかずの大自然の価値を伝え、次世代へつなげようと取り組んでいるのが、一般社団法人「白神コミュニケーションズ」だ。秋田県側の山麓の自然ガイドや自治体元職員ら有志によって2013年に設立。白神山地の環境保全と観光振興の両立をめざしてイベントやセミナーを開いている。

特に注力しているのが、子どもたちへの環境教育だ。秋田県からの委託事業として、「白神体験塾」と題した小学生対象のイベントを毎年開催している。夏にはメンバーのガイドの下、白神山地の渓谷で沢歩きをしたり、森から水が注がれる海でシーカヤックをしたり。コロナ禍以前の冬には、2泊3日のプログラムも実施していた。

「白神体験塾」の沢歩き。豊かなブナ林から流れ出る清らかな水の循環や生態系に思いを馳せる
「白神体験塾」の沢歩き。豊かなブナ林から流れ出る
清らかな水の循環や生態系に思いを馳せる

同法人の後藤千春代表理事は活動の狙いをこう語る。

「白神山地が世界遺産だと知っていても、実際に足を運んだことがない子どもが多い。大自然を実感してもらって、郷土の誇りだと思ってもらえたらうれしいです」

そうした思いとともに、後藤さんが「これだけは絶対に続けていきたい」と大切にする取り組みがある。登山者にも人気がある二ツ森の登山口周辺に生える外来植物のオオバコを、地域の小中学生や高校生らと駆除する「オオバコバスターズ」だ。後藤さんが個人事業主として山岳ガイドをしていた10年以上前から継続している。

二ツ森登山口周辺で続けている外来植物「オオバコ」の駆除活動。
地元の高校生は授業の一環として参加(2019年撮影)
二ツ森登山口周辺で続けている外来植物
「オオバコ」の駆除活動。地元の高校生は
授業の一環として参加(2019年撮影)

「主峰の白神岳山頂は登山者が多く、オオバコが繁茂してしまっているが、二ツ森は登山口付近のみで山頂には一つも生えていない。なんとか生態系を守りたいと思って続けています。同時に、子どもたちが郷土や環境について考えるきっかけにもしたいと考えています」

そう語り、後藤さんは続ける。

「二ツ森から遺産地域を見渡すと、高圧線などの人工物や植林の杉1本すら見えない原生的なブナの森。こんな場所はそうそうないですよ」

その弾む声色から活動の原動力は、白神山地への大きな愛だろうと感じられた。

★日本山岳遺産認定地 詳細:二ツ森 [ 秋田県 ]白神コミュニケーションズ(旧 秋田白神コミュニケーションセンター) (2017年)

日本山岳遺産候補地および助成団体を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体。

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費。

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

編集部おすすめ記事